表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/52

宙の権能 その4

本作はフィクションです。

登場する人物、団体、事件などはすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、一部に宗教的なモチーフが登場しますが、特定の宗教・信仰を肯定または否定する意図はありません。


物語には一部、暴力的・性的な要素や、精神的に不安を感じる場面が含まれることがあります。ご自身のペースでお楽しみいただければ幸いです。

 

 2000年7月11日。


 あれから、4年が経った。

 田代(たしろ) 雅樹(まさき)も気がつけば中学2年生だ。

 それなのに、まだ……瞼を閉じれば、あの日の星空が、視界に焼き付いているんだ。

 そして、アイツの……


 ……眠った顔も。



 そんなオレを置いて、ここ神流町(かんながちょう)はだいぶ変わってしまった。

 近所に4軒あった銭湯はどれも閉店したし、3軒ほどあった映画館も、今となっては1軒しか残っていない。その1軒だって、半年もしないうちに閉館してしまうらしい。確か……「パラディーソ」とか言ったっけ。


 その代わりといってか、大きな水族館「アクアリウム神流(かんなが)」が設立された。それが2年前くらいだろうか、オレは行ったことないけど。


 あとは、家族でよく行ってたショッピングモールの「ルミナパークかんなが」。駐車場が大規模な火事でまるまる消失したのは……もう3年も前か。

 最近、ようやく営業を再開したらしいが、以前よりこじんまりとしている。 


 この町は新しくなったんだ。

 あと、新しくなったものといえば……


 町役場の前を歩いてたオレの視界に、町民広場の中心で一際目立つ、()()が飛び込んだ。


 そう、この……バカみてぇな形の像だ。


 ……明らかに、チン○にしか見えない。

 先週通りかかったときは、ここには何もなかったんだけど……昨日の朝、登校するときに見かけて……なんというか、ものすごく驚いた。

 学校に行かなかった土日の間に建てられたんだろう。

 もちろん昨日から、クラスはあのチ○コ像の話題で持ち切りだった。


 クラスに行っても、オレには話し相手がいない。あれからというもの、誰かと関わる気になんかならなかった。

 ……こんなのは情けない言い訳だ。オレだって、いい加減前に進まなきゃいけない。そんなこと分かってるのに。


 今でもまだ、夢に見ているんだ。

 賀茂(かも) 星梨花(せりか)の、面影を。

 10歳だったアイツが、今もここに居たのなら……そんなこと、考えたって仕方ないのに。


 夜が来れば、星に願って、願い続けて。アイツの星を捜した。

 ……4年なんて、あっという間だったな。


 そんなことをグダグダと考えていたら、誰とも挨拶を交わすことなく教室に着いた。今日は、期末テストの結果が返却される日か。

 周囲は、やれテストの順位だとか、勉強してない自慢だとか……正直うんざりだ。

 溜息をついて外を眺めると、小雨がグラウンドを濡らしていた。


「あー、次は、曽谷(そや)。」

「はーい。」

「……まあ、次も頑張れ。」


「そんで次は……田代。」

 ああ、オレか。

「……はい。」

「すごいな、ほんと。」

 試験結果は……学年130人で、1位だった。


 あれから、オレは勉強をした。何もかもどうでもよかったからだ。

 それ以上に、バカなままではいられなかった。アイツの星を見つけるためにも。


 自席について周囲に意識を向けると、やはり騒がしかった。

 前の席ではお調子者の大松(おおまつ)が、隣にいる曽谷(そや)に話しかけていた。


「なあ曽谷、今日さ、あのチ○ポ像、見に行こうぜ!」

 曽谷は伏せ目がちに答える。

「いいや、どうせお前にだって、近寄ることすらできないさ。」


 人口も多いこの街だが、新たにできたその奇抜なシンボルだけは、いつだって人が寄り付かず閑散としている。


「曽谷お前、ビビってんのか?」

 大松が言うと、曽谷は声のトーンを下げて言う。

「いや……ただ、変な噂もあるんだ。『廃人になる』とか、『チ○ポがなくなる』とか……」


 くだらない。そう思って窓の外をみると、すっかり空は雨雲に覆われていた。昼前の強い日差しが雲の上鈍くを照らし、ジットリと眩しい。

 ここからは、神流町役場の庁舎と肩を並べるあの像がよく見える。まるで、曇り空から集めた日差しを先端に蓄えているようだ。


 ……その時だった。


 なんだ?アレは!?

 鈍く明るい空に、一筋の淡くて蒼い光。東の空から斜め下に……まるでジェット機のような速さで地上へ飛び込んで来る。

 どんどん、落ちていく。


 ……こっちに、向かってくる!!


 クラスの誰も、外を見る様子などない。……アレに、誰も気がついていないというのか??

 そうだ、アレは……宇宙から降り注ぐ隕石だ。

 ここ神流町に、まさか隕石が!?

「……隕石だ!」

 オレが声を上げても、クラスの皆は誰一人外を見ようとしなかった。

 まるで、誰かが皆に外を見せないよう、魔法をかけたんじゃないか、そう思えたほどに。


 隕石が迫る。薄明かりの空が(まばゆ)く照らされ、蒼い閃光が街の上を通過する。


 おい、本当に誰も気が付いていないのか……?

 なんでだよ!死ぬかもしれないんだぞ!


 その瞬間。外からは弾けるような閃光と、鐘を撃つような衝撃音。


 皆の意識がようやく教室の外に向いた。

「なんだ今の音……チ○ポ像の方向からだ!」


 隕石が落ちた先は……ここから800メートル先の、例のチ○コ像だったようだ。



 ……なんだったんだ?一体。


 この教室で、オレだけが知っている、あの隕石。

 確かめなきゃ。「誰も触れようと思わない」……?いや、オレが振れて、確かめなきゃ。

「具合が悪いんで早退します!」

「おい、田代!!」

 クラスメイトの制止を振り切ると、一目散に駆け出した。

 あの像の下へ。



 学校からそこへは、走れば3分くらいだろうか。普段は人が寄り付かない像の下には、奇妙な()()がいた。

 長い金髪。夏場に見合わない黒いマントが雨に濡れて照り返り、よく目立つ。

 いや、人ではないのかもしれない。圧倒的で、静かな威圧感。男とも女とも取れない風貌のそいつは、深紅の目でオレを冷たく見つめると、こう言った。

「少年……お前は何を願い、望む。我の目には、それが人智の及ばぬものに見えるのだが。」


 ……何を言っているんだ?

 でも、その声は底知れぬ恐ろしさと、どこか心地よい安心感を与えた。本物だ。本物の……魔人?

 その魔人は、オレに歩み寄って囁く。

「お前はここに辿り着いた。そんなお前に相応しい力をやろう。」


 もしかしてこの魔人が、チ○コ像を通して何かをくれるっていうのか?


 オレの願いは……あの日からずっと一つだ。それはきっと、人間だけの力では、どうにもできない願い。

 言葉にするのは、初めてだった。口が震える。

 ……星梨花(せりか)


「アイツの……星になりたいって願いを、叶えてやってくれますか?」


 アイツの思い。オレの目から、熱いものが流れていた。魔人がなだめるように言った。

「ほう。誰の願いだ。なぜ、星になりたい。」


「オレの……死んだ幼馴染の願いなんです。この美しい世界を、この宇宙を何億年もみていたいって、そんな願いを……」

 そいつは遮って、高らかに嗤った。

「フンッ!!笑止!!死んだ者の願いなど、我、邪神は愚か、神にさえ叶えられぬわ!!」」

 さっきまでの静かな威圧感とはうって変わって、激昂したように言う。

「それに、何億年もこの宇宙を見続けるだとォ?真の永遠を手に入れてか?不相応だ!所詮は被造物である星などの領分ではない!!それは神にしか()せぬ(わざ)だ!」


「そ……そんな。じゃあ、アイツの願いは……」

「無理だ。理を揺るがす我が権能でさえ、神そのものは造れぬ。ましてや死人の願いなど。」

「でも、アイツは星に……」

「できぬ!」


 受け入れたくなかった。せめて、願いだけでも……そう思ったのに。

 浮かばれないよ、こんなの……!


「……星梨花が、神様になんてなれなくたって。たとえ出過ぎた願いだって。……オレが見つけなきゃいけない!アイツが、いつか本当に、星になった時のために!」


「そうか、少年。それが、お前の……」

 魔人……いや、邪神はニヤリと薄気味悪く笑って、静かに語り掛けた。

「お前の幼馴染は死んだ。神にはなれぬ。だが……」


「お前は……生きている。」

 オレはそう言われて、ハッとした。


 「……星を、見つけるのだろう?お前が、その脚で捜せ。宙を統べる、その権能で。」

「でも、アイツは星にはなれないんじゃ……」

「神には成れぬが、星に成れぬとは言ってない。死人の願いは届かぬが、偶然が起こらぬとは言ってない。故に、お前が捜すのだ。

 生きている限り、探し続けるがいい。それが果てしなく遠く、先に希望の星などなかろうと。

 ……さあ。珍能像に触れろ。我を愉しませるがよい。」


 迷いなどない。

 今はまだ、叶わなかったとしても。もしもアイツが、星になれたなら!


 オレが、星梨花の星に出会えるように。

 ……星梨花が、再び地球に出会えるように!


 珍能像と呼ばれたソレに、触れた。


 目の前が真っ暗になって、邪神の声が流れ込む。

「願いは聞かれた。邪神が権能を、神に代わって授けん。」


 視界が開けると、その像に1つの紋章が浮かび上がった。太陽の周りを取り囲む、2つの惑星の軌道。2つの惑星は、林檎と、地球を象っていた。

 その紋章を見て、オレが授かった力は「(ちゅう)」の権能だと理解した。

 宙に存在する物体の、軌道を操る力であると。

あらすじ :幼馴染の星梨花を亡くした4年後、田代 雅樹は中学2年生になった。教室で唯一、雅樹は隕石が学校近くの珍能像に落下するのを目撃する。珍能像に駆け寄った雅樹は邪神に出会う。邪神は亡くなった星梨花の望みを不相応だと一蹴するが、雅樹のそれでも星梨花の願いを叶えたい思いに応え、宙の権能を授けるのだった。


tips:クラスメイトの大松と曽谷が珍能像にビビり散らかす場面ですが、当初は二人の会話だけでまるまる一話埋まるくらい書いてました。流石にテンポが悪くて面白くないので、大幅に削りました。珍能像がヤバい物だって説明なんか、今さら不要ですよね?


補足: 邪神が星梨花の願いを不相応だと一蹴するシーンがありますね。珍能像という神を作って神の領域を侵すのが邪神の大きな目的ですが……星梨花の願いがもし叶った場合、事実「珍能像が作った神様が皆をみているよ」となりますが、それだと権威付けがあまりにも弱いのです。

「神様である珍能像が皆を見ているよ」という主張が弱まりますからね。邪神的にNGってのもあります。「見ているだけの権能」に12枠の1つを割くのはもったいないですし。

 邪神の権能には他にも縛りがあります。ネタバレになるので言いませんが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ