珍能像 その4
本作はフィクションです。
登場する人物、団体、事件などはすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、一部に宗教的なモチーフが登場しますが、特定の宗教・信仰を肯定または否定する意図はありません。
物語には一部、暴力的・性的な要素や、精神的に不安を感じる場面が含まれることがあります。ご自身のペースでお楽しみいただければ幸いです。
あれからの記憶はない。俺は県立神流町中央病院のベッドの上にいる。
全治3か月の全身火傷。あれだけ食らって生きてるなんざ、我ながら結構タフらしいな。
火傷で目が開かないから何も見えないが、さっきこの町がニュースに出てたよ。
「神流町役場前にて爆発事故 重症1名 軽傷3名」
その1名ってのが俺だ。唯は手足に火傷が残っちまったらしくてな、俺が守ってやれなかったのが本当に情けねえ。
冷田 篤志は所謂ボンクラだ。こう見えて今年で19になる。
親父は町議会議員の冷田 徳政。高校じゃあ好き勝手してた俺だが、親父のコネでどうにか老舗の町工場に就職できた。今は休職中だ。本当に、親父には頭が上がらないよ。
恋人の猫崎 唯は去年、1999年の年末頃に付き合い始めたっけか。あいつは俺と同じくらい頭が悪いから、高校なんざろくに行ってねぇ。で、俺が卒業してからも世話というか、ボディーガードみたいなことをやってる。
唯はとにかくかわいい。
まあ俺から見ても、すぐキレるところとか、わがままな所とか、高校のヤツにすぐ喧嘩売るところとか、厄介な所はかなり多いんだ。でもそこがまたかわいい。
あと、ボリューム感。それにベッドの上では妙に――ああ、いやいや、これ以上はやめておこう。隣の爺さんが目を覚ましたらシャレにならん。
それと、ボリューム感。あとは、俺のくだらねえダジャレでゲラゲラ笑ってくれるところが好きだ。いっぱい楽しい話を聞かせてくれるところも好きだ。
最後に……うん、ボリューム感。
とにかく、唯はこんな俺にはもったいないほどの女だ。
それはさておき。まずどこから話そうか。俺が例の像でこの力を得たところからだろうか。
あれは、唯と一晩過ごした後のことだったな。普段ならあそこは避けるんだが、俺、その晩はなんだか自信が持てなくなっちゃってさ。帰り道はしょぼくれてたんだ。
そしたらでっかいアレが目に入ってさ。これだ!って思ったんだよ。
その晩のコトを思い出して、アレ像に触って願ったんだ。
「俺にもこの像みたいなのをください!!」
って。そしたら、神様?が答えたんだ。いやマジだって。男だか女だかわからん声だったなぁ。
「願いは聞かれた。邪神が権能を神に代わって授…」
「…とでも言うと?」
「へ?」
「授けん、とでも言うと思ったのか。このバカ。」
「ええ、授けてくれないんすか?」
「当然だ。我が権能は神をも貫く邪神の槍である。雌一人と戯れるためのものではない。」
「そっかぁ…」
その日の俺は気分が萎えちまっていたから、帰ろうとした。
「待て、それ以外の物なら授けてやろう。」
「…と、言いますと。」
「お前には気概がある。矜持がある。愛する人を守りたいという、本物の思いがある。邪神の眼力を侮るでない。」
さらにこんなことも言ってたな。
「お前の望む権能をやろう。」
俺はケンノー?のことなんか知らないし、チ○コーを強くして帰りたかった。
でも、なぜか、その2日前の何気ない会話を思い出したんだ。
「唯、お前何飲む?」
「うーんあたしアイスティーかな。あっくんは?」
「俺もアイスティー。アイつっていい奴だからさ。」
「ん?」
「いや、アイス、と、あいつ、をさ…」
「え、なにそれダジャレ?寒すぎるんだけど~!!あっくんのそういう寒いとこホント好きだわー」
なんて、くだらねぇことで一人ニヤついてた。
そうか、俺は寒い人間でありたいのかな。愛する人に笑われるってのは、気持ちがいいもんなのかもな。
…なんてしみじみ浸ってたら、邪神?ってやつがおどけた様子で割り込んできた。
「お、それいいじゃん。『寒い』、それはお前の力になる。恋人との些細な思い出を切り取った権能…あんなものよりも美しいじゃないか。そして、『寒さ』はあの神をも貫く槍たりえる。」
「お、おお、そっすか」
なんだかよくわかんないけど、その邪神?とやらはやけに嬉しそうだった。
「願いは聞かれた。邪神が権能を神に代わって授けん。」
アレ像の右側のタマには、6角形の氷の結晶の内側に、2つのハートが並んだ変なマークが浮かび上がった。
今回下ネタ多くてすいません。混川はこういうの結構好きです。R15からの脱却を目指してセルフ表現規制中です。
日下萌々奈は今回出ませんでしたが、萌々奈が権能を得るまでの経緯を示す序章はひとまずこれで完結です。
次回も舞台は病院です。皆あっくんよりは軽傷でした。
猫崎唯があそこまで萌々奈を憎むに至った経緯はまた今度。必ずやります。