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瞬の権能 その3

本作はフィクションです。

登場する人物、団体、事件などはすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

また、一部に宗教的なモチーフが登場しますが、特定の宗教・信仰を肯定または否定する意図はありません。


物語には一部、暴力的・性的な要素や、精神的に不安を感じる場面が含まれることがあります。ご自身のペースでお楽しみいただければ幸いです。

 2000年7月27日。


 僕が昼寝から目覚めたのは、夕方だった。

 その時放送されていたニュースでは、ある物騒な事件が報道されていた。

 またもや、神流町(かんながちょう)での話題だ。


 神流町(かんながまち)役場前の「いっしき書店」で、意識不明、重体の男性が発見された。

 身元不明の被害男性は病院に搬送された1時間後、出血多量により息を引き取ったらしい。


 男性の遺体には()()()から()()()殴られた痕と、皮膚には擦り切れたような裂傷多数とのこと。

 警察は殺人事件として捜査を開始した……


 事件の目撃者、町内の「いっしき書店」で働くアルバイト店員K・Mさん(18・女性)の証言によると、

「ハヤミ リュウタ」を名乗る()()()()()()男は、目撃者であるK・Mさんを脅迫したのち、現在も()()()逃走中とのこと。


 特徴は、黒のTシャツ、身長180 cm、長髪、30代後半~40代前半。

 目撃情報は、神流西域警察署まで。電話番号は……



 K・Mさんによる犯人の似顔絵が一度だけ放送されたが……

 髭が生えている、ということが()()()()()()()()()で、人間かどうかすらもよくわからない似顔絵だった。


 K・M……知ってる人だろう。

 ちょうもその時、僕の携帯電話に一本の電話がかかってきた。


 大学の友達はほとんど作れなかった。考えられるとしたら、車で3時間ほどの青柳市(あおやぎし)に住んでいる両親と弟か、あと一人くらいだろう。


 それはK・Mこと、日下(くさか) 萌々奈(ももな)からの電話だった。


 まだ新しい携帯電話を開いて、受話ボタンを押した。

「はい、伊勢(いせ)です―」

健之助(けんのすけ)さん、助けてください……権能者(けんのうしゃ)です!」


 まず、名前で呼ばれたことに少しだけ驚いた。

「もしかして、ニュースに出てたあの件ですか?」

「はい、その件です。それで、今は警察に保護してもらっています。」

 彼女の声は、震えているようだった。

「もしかして、ハヤミに脅されてるとか?」


「はい。ヤツの話によると……おそらく、目的は私たちのような、権能者(けんのうしゃ)です。」


「それは、困りましたね……とにかく、日下(くさか)さんが無事で何よりです。」


「そうなんです……はい……とりあえず、私は無事なんですけど……」

 電話越しに、すすり泣く声が聞こえた。

 よほど怖い思いをしたのだろう。



「その…とりあえずハヤミは自分の権能(けんのう)について、何か言ってましたか?」


「ええ。『またたき』の力、とか言ってました。」

「じゃあ、亡くなった男性が襲われた時は、どうでした?」

「もうほんとに、一瞬、でした。

 一瞬で、その万引き犯が倒れたんです。

 速すぎてよく見えなかった、というべきでしょうか……

 速水(はやみ)の姿をちゃんと見たのはその後なんです。

 その話については、警察にも全く信じてもらえなくて。」


(またたき)」の、権能……?


 証言から察するに。

 ハヤミがという男が持つ「(またたき)」は、

 短距離を超高速で動くという極めてシンプルな権能(けんのう)だ。


 複数人から殴られたような痕跡も、目にも止まらぬ速さで往復しながら殴った、と考えれば納得だ。


 もしそうなら、とても警察の手に負えるような相手ではない。

 包囲することは勿論、最悪、発砲することも敵わないからだ。


 ……状況から察するに。

 書店の外の、レジからの死角に潜んでいたハヤミは、

 入り口のドアが開きいたと同時に、万引きをして出てきた男を見つけた。


 そのドアに潜り込むような動きで万引きを行った被害者を襲い、店内へと突き飛ばす。

 その後、本棚を蹴って方向転換しつつめった打ちにして、

 少し遠くの日下(くさか) 萌々奈(ももな)の権能が届く範囲にまで動きつつ、転回。

 また被害者を殴り、

 再び本棚の陰に戻る。


 ……という(わざ)を、一瞬のうちにやってのけたのだろう。

 「()()見えなかった」という証言から、少しは動きの流れが見えていたに違いない。

 つまり、時間を止めた……という大それた権能(けんのう)だとは、とても考えられない。



 それに、瞬時に移動できる距離や、その権能(けんのう)の連続使用についても、おそらく何らかの制限があるの考えるべきだろう。

 そこは、ハヤミと戦う中で見つけていくしかないが。


 とにかく。

 動きを捉えることが実質不可能である以上、まともに戦えるのは日下(くさか) 萌々奈(ももな)権能(けんのう)くらいだろう。


 ヤツに勝つためには他の情報も必要だ。電話口の日下(くさか)に尋ねた。

「ハヤミの目的は、わかりますか?」


「よくわからないんですけど……

 私を含め、『力を持ちながらも正しく使わない者』を殺す、とか言ってました。あとは、『卑劣な悪人を殺す』みたいなことを。」

「なるほど、よくわかりました。そういうわけで、日下(くさか)さんも狙われているんですね。」


 その男は、正義感で動くタイプなのだろう。


 「……それで、日下(くさか)さんが権能者(けんのうしゃ)だと、ハヤミは知ってたんですか?

 それについて、ヤツは何か言ってましたか?」


 日下 萌々奈は少しだけ、考え込んだ。

 度々、辛いことを思い出させて申し訳ない。


 「私の能力によって、アイツ自身が殺されるかも、みたいなことは言ってました。

 他人は躊躇(ちゅうちょ)なく殺すくせに、どこか自分のことが惜しいようにも見えましたね。」


 ……なるほど。

 シンプルに早く動くだけなら、日下(くさか) 萌々奈(ももな)権能(けんのう)はヤツにとってあまりにも分が悪い。


「熱」の権能(けんのう)が途切れず発動する限り、近接戦闘を得意とする「(またたき)」の権能では、近づくだけで焼け死ぬことも考えられるからだ。

 ヤツはそれを理解している。


 加えて、日下(くさか) 萌々奈(ももな)は熱の権能をまだ完全に使いこなせていない。

 そんな状況では、再び権能が暴走し、今度こそ人を殺してしまうかもしれない。


 人殺し……ハヤミという異質な存在を前に、権能が暴走する可能性も考慮しなければいけない。

 僕としても、日下 萌々奈に人を殺して欲しくないのだが。


 それに、ヤツは死にたいわけではない。

 だから、今日その場で日下(くさか) 萌々奈(ももな)を殺さなかったことには納得がいく。

 権能者(けんのうしゃ)狩りがヤツの目的だとしても、あえて死ぬリスクがある相手を選ぶ必要はないからだ。


 となると、ヤツが狙うのは……

 他の権能者(けんのうしゃ)だろう。

 

 ヤツは、権能者を探す。


 僕の見立て通りなら、入院している冷田(ひえだ) 篤志(あつし)ではない。

 全身の火傷で動かない彼が、危険な権能者(けんのうしゃ)と見なされるだろうか。


 とはいえ、僕は僕たち以外の権能者(けんのうしゃ)のことを全く知らない。追うにしても、手がかりがないのだ。


 どうすればいい……


「……さん!健之助(けんのすけ)さん!」

 僕は顎に手を添えていた。

 そんな折、日下くさか 萌々奈(ももな)の呼びかける声が聞こえた。


「あのー、こっちから電話していてアレなんですけど……通話料が痛いんでそろそろ切っていいですか?」


 いまいち、日下 萌々奈という人物の考え方がわからない。

 唐突というか、自由人、とでも言うべきだろうか。

「ああ、そうですね。でも、ちょっと待ってください。」


 何かを、言いかけた。もう少し、もう少しで!糸口が掴める。

 そう思った。



 そして、その時だった。

 不思議な感覚が僕を包んだ。神秘的、とでも言うような感覚。

 あの感覚だ。


 深く息を吸う。

日下(くさか)さん……明日……戦えますか?」


「………はい。」

 彼女の声は震えていたが、どこか使命感に満ちているようにも聞こえた。


 再び、今度は不思議な感覚が、今度は僕から放出されるのを感じた。


 その権能はこの病室を出て、遠くへと向かっていく。

 窓をすり抜け、空を飛び、もっと遠くへ。

 そんな感覚があった。


 神流町(かんながちょう)の、某所。


 権能の標的は……速水(はやみ) 龍太(りゅうた)


 僕の権能が、どう作用したのか、自分でもよくわかっていない。


 しかし僕には、こんな確信があった。

 ……明日、必ずヤツは現れると。


 必ず迎え討つ。日下 萌々奈と共に。

萌々奈を守るため、健之助はその権能を使う。

凶暴な「瞬」の権能者、速水 龍太とは一体何者なのか。


説明回になってしまいました。

物語に限らず、全ての人間には戦うための理由が必要です。

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― 新着の感想 ―
行きすぎた正義感を持つ相手との戦い… ワクワクが止まりませんね! 情報が積み重なっていき、追うべき相手が鮮明になっていく展開は、読んでいて楽しいですね。
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