表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/41

珍能像 その1

本作では、シーンによって登場人物の視点が変化します。

毎話の始まりや話数の途中で視点が切り替わりますので、何卒ご了承ください。


物語には一部、暴力的・性的な要素や、精神的に不安を感じる場面が含まれることがあります。ご自身のペースでお楽しみいただければ幸いです。

 

 2000年7月19日。

 ここは某県南部、神流街(かんながちょう)


 寒い。季節は夏なのに、アスファルトが足裏から身体を貫くように冷たかった。

 立ちすくむ私の前には、背丈175センチメートルほどの男が仁王立ちして、私を冷たく睨みつける。

 この男は超能力者か何かなの…?


 それにしても、一体私が何をしたって言うのよ。


 その男の斜め後ろから、女の子が下卑た笑いとともに語り掛ける。

「ねぇ、萌々奈(ももな)ちゃーん?言ってごらんよ。『私は、嘘を、つきました』ってさ!ね、噂好きの、日下(くさか) 萌々奈(ももな)ちゃーん。」


 あの金髪ショートヘアの子は、猫崎(ねこざき) (ゆい)。高校のクラスメイトだ。クラスにいるときも、取っ付きにくくてちょっと……いや、かなり苦手。嫌いってわけじゃなかったのよ!

「なにー?寒さで震えて動けないのかな~?哀れだね~!バ・カ・お・ん・な!」

 なにか喚いているが、正直それどころじゃない。寒すぎる。耳の先端から、まるで鼓膜の奥までが凍るような感覚があった。


(ゆい)ちゃん、()()()、そろそろマズいんじゃないのか?病院って、あそ()()()までやってる?」

 眼前の男が口を開く。下手くそなダジャレも、いかにもヤンキー上がりといった風貌もダサい。(ゆい)の6代目くらいの年上彼氏なのかな。あの子はこういうワルそうな男が好きらしい。


 ……なんてこと考えてる場合じゃない!どうにかしないと、このフザけた男に殺されるかもしれない!


「だいたい、このバカ女が『(ゆい)が万引きしてる』とか変なデマ流したからこうなってるんでしょ!全部こいつのせいよ!!あっくん、まだお願いね。氷漬けにしちゃってもいいから。」


 ……え、何それ。そんなの知らない。私は言ってない。嘘。違う。私は、そんなデマがあることさえ知らなかった。


「……ちが……う!……たし、しらない!!」

 咳き込むような声が出ていた。あっくん、と呼ばれた男には聞こえていたようだ。


()()って言ってるぞ?認めないと()()()んじまうぞ。なんつって。」

 凍結した皮膚の裂け目から血が(にじ)む。痛い。その血が凍って、瘡蓋(かさぶた)のように覆い、患部にズキズキと響く。

「寒いダジャレはもういいわ。てか、こいつ以外に誰がいんのよ。」

「それもそうか。なあ、ところでもういいか。この力…結構疲れんだよ」

「はぁ?かわいいかわいい彼女の名誉が傷つけられてんだから、踏ん張りなさいよ冷田(ひえだ)!」

 猫崎(ねこざき) (ゆい)が早口でまくし立てる。


 その一瞬、不思議な感覚が通りすぎていった。そよ風じゃない。神秘的、とでも言うような感覚。


「……」


「……ねぇ、場所を変えない?この女におあつらえ向きの場所があるわ。」

 私は寒さで硬直した足でよろよろと立ち上がり、その冷田(ひえだ)とかいう男にもたれかかって歩き出した。


 凍った血が融けて、地面に流れ出していた。


 私、日下(くさか) 萌々奈(ももな)は、冷田(ひえだ)とかいう男に連れられて、歩く。

 とはいっても、この遅い歩きで3分くらいだから、それほど遠くないだろう。

 凍傷に侵された脚の痛みは、不思議と和らいでいた。


 猫崎(ねこざき) (ゆい)が私の方を振り返って嬉しそうに言う。

「じゃじゃーん!ほら、あたしじゃなくて、あんたが好きそうなのがあるよ~」


 重い足取りで着いたのは、町役場前の……()()だった。

 別に好きじゃないし。そういう発想に至るアンタが気持ちわるい。名称は知らないけど、どこからどう見ても()()だ。女子高校生の私よりも、男子中学生が好きそう。


 そういえば、このキモいオブジェを近くで見たことなんてなかった。

 神聖?とは真逆の、確かな禍々しさを感じる。人が寄り付かないだろうな、と容易に想像がつく。


「俺も前に来たことあるんだけどよぉ、()()……だよな、これ。なあ、カ()()()チンの日下(くさか) 萌々奈(ももな)さんよぉ!」

 寒いギャグとともに、冷田(ひえだ)は再び私に強烈な冷気を浴びせる。あまりの寒さにその場にへたり込んでしまった。

「ハハッ!またあっくん寒~いダジャレ言ってる!そんな寒いのも、あたし大好きだからね!」


 猫崎(ねこざき) (ゆい)は上機嫌になった。

「あっくんはね、この()()像の近くで、氷?の超能力を手に入れたんだよね!なんかウケるよね~」

 猫崎(ねこざき)が私の頬を人差し指でつついて続ける。

「でも、アンタみたいなデマ女は、ダメだよ。あっくんみたいな素敵な人じゃないと。」


 いつまで勘違いしてんのよ。私がデマ流すなんて、そんな陰湿なことするわけないでしょ。


 私、日下(くさか) 萌々奈(ももな)は、高校でも性格が良い子として知られているし、学級委員としての人望も多少はある。うっすら疎まれている猫崎(ねこざき) (ゆい)とも、私はクラスでは仲良くやってきた。表面上は。


「だから!聞いて!私はそんな嘘言いふらしてない!」


 (せき)を切るように叫んだ。


「はぁ?コイツこの期に及んでまだ……あっくん、頼むわ。殺しちゃダメだからね。」

 また一段と、冷気が強くなった。


はじめまして、混川いさおと申します。

群馬県の神流町(かんなまち)とは一切関係ありません。

タイトルは「はいしん」と読みます。(登場するのはまだまだ先です)


(大規模更新) 25/8/11 「珍能像その1」及び「珍能像その2」の内容大幅にを入れ替えました。これにより健之助→萌々奈→萌々奈→健之助と視点が移り変わっていましたが、萌々奈→健之助の視点で進行するようになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ぺんね様の配信より参りました! 不思議な語り口で物語に引き込まれます!
スタートから下ネタかっ飛ばすのは僕は大好きな身としては一気に惹かれました!、 それにキャラの視点の切り替えが雑味がなく、見やすくて、それによってキャラ感の内容や、話がすらすらと入ってきやすく感情も入り…
Xから来ました! 猫崎さん、このギャグが寒いと思った上で冷田さんのこと好きなんですね…愛ですね! めっちゃ面白かったので、続き読んできます♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ