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1 婚約破棄された吸血鬼令嬢

全3話で完結となります。

「ニーナ・レタリア。すまないが、君との婚約は取りやめさせてもらう」


 目の前で申し訳なさそうに婚約破棄を宣言するのはこの国の第二王子、ケイン様。そう言われてしまった私ですが、実はそこまでショックではありません。

 そもそも、ケイン様との縁談はお父様が決めた政略結婚だったし、ケイン様の隣には美しい公爵令嬢のセラ様がいます。お二人は美男美女でお似合いだと思っているので、むしろ末永くお幸せに!と祝福を述べたいくらいです。


 ですが次の瞬間、私はさらに驚くべき言葉を耳にしました。


「それで、実は弟のイオがニーナと結婚したいそうなんだ。君のご両親は了承済みで、あとは君の気持ち次第なんだけど、どうだろうか?」


 どうだろうか、と言われましても。この国の第四王子であるイオ様からの求婚を断れるご令嬢などいるのでしょうか。それよりも、なぜイオ様は私に求婚を?さっぱりわかりません。


 イオ様とは特別仲が良いわけでもなく、ケイン様に会いに王城へ伺った時や舞踏会などの時に挨拶をする程度です。

 しかも、最近はお会いしてもすぐに目をそらされて、挨拶もそこそこにどこかへ行かれてしまいます。悲しいですが、てっきり嫌われてしまっていたのかと思っていました。それなのに、なぜなのでしょうか……?


 あまりの驚きで口をぱくぱくさせていると、ケイン様の背後からイオ様が現れました。美しいグレーの髪にアクアマリンのような美しい瞳。ケイン様も美男子ですが、イオ様も負けず劣らず見目麗しいお姿をしてらっしゃいます。


「そういうわけだ、兄が婚約を解消したなら俺との婚約は問題ないだろう。それとも俺との婚約は嫌か?」


 これはもう、どう考えても拒否権がない口調です。


「ええと、ひとつ確認したいのですが、私とイオ様は接点がさほど多くありません。あまりに突然のことで、どうして私なのかと……」


 恐る恐るそう聞くと、イオ様はふむ、と考え込むような仕草をしてから、何かを思いついたように私を見ました。


「知りたいのなら、説明しよう。一緒に来てくれ」


 そう言って、イオ様は私の手を取り歩き出しました。って、イオ様が私の手を握ってらっしゃる!急なことで驚き周りを見ますが、ケイン様もセラ様も従士たちも、皆なぜか優しい微笑みでこちらを見ています。


 ずんずんと私の手を取り、イオ様は廊下を歩いていきます。イオ様の手は私の手よりも大きくとても暖かくて、なんだかドキドキしてしまいます……!


「ここだ」


 そう言って、とある部屋へ通されましたが、どう見てもイオ様のお部屋です。突然婚約を申し込まれ、そのまま部屋に連れ込まれるなんて……!いえ、何かあるなどとは思っていません。思っていませんけれども!ケイン様のお部屋にも入ったことがないのに、こんなにもすぐにイオ様の部屋に来ることになろうとは。


 私の手をとって、イオ様はソファに私を座らせました。そして、なぜか隣に当然のように座ります。えっと、なぜ隣なのでしょうか?それに、肩が触れ合っています。あまりに近すぎるのではないでしょうか!?

 それに、イオ様からはなんだかとてもいい香りがして思わずうっとりとしてしまいます。……いえ、うっとりしている場合ではありませんね。


「緊張しているのか?別にとって食ったりしないから安心しろよ。……今はまだ」


 最後に不穏な言葉を聞いたような気がしますが、気のせいということにしましょう。雑念を振り払うため首をぶんぶんと振っていると、イオ様はクスクスと楽しそうに笑っています。


「さて、どうして俺が君を婚約者にしたいと思ったか、だが。……君の家は吸血鬼を先祖に持っている、間違いないよな?」


 私、ニーナ・レタリアは、吸血鬼の祖先を持つ伯爵令嬢です。吸血鬼と言っても、遠い祖先の話で、現在は吸血鬼としての血もすっかり薄まりほとんど人間と変わりありません。

 血を欲しいと思ったことは一度もなく、生まれてから十八年間、一度も吸血したことはないのです。


 そんな私の祖先が、この婚約話に一体どう関係しているのでしょうか。


「俺の血を飲んでくれないか」


 そう言って、突然イオ様は襟元のボタンをはずし、首元をあらわにします。イ、イケメンの美しい首筋の破壊力!あまりの眩しさにクラクラします。なんだかとても美味しそう。あの首筋にかぶりついたら……って、私はなぜそんなことを思っているのでしょうか?そんなことを思っている場合ではなくて。


「あの、確かに私の家は吸血鬼を祖先にもつ家柄です。ですが、遠い祖先の話ですので、今はほぼほぼ人間に近い状態です。ですので、血を欲することはありません。ですから、イオ様の血を飲みたいとも思いません……」

「そうか、残念だな」


 私の返事に、イオ様は本当に残念そうな顔をなさっています。なぜこんなにも残念そうなのでしょうか?そもそも、なぜ私と婚約したいか聞いているのに、その答えはさっぱりわかりません。


 戸惑う私をよそに、イオ様は私の頬に手を添えて、唇をそっと指でなぞり始めました。え、な、何をしてらっしゃるのでしょうか!?そう思っていたら、指は私の口の端をグイっと押し上げます。


「あぁ、やっぱりあの時と同じ吸血鬼の歯だ。ほんの少しだけどまだ尖りがある」


 嬉しそうにそう言うと、イオ様はニッと自分の口を開き私に見せます。えっ、その歯って……!?


「そう、俺も吸血鬼なんだ」


 にやり、と妖艶な笑みを浮かべながら、イオ様は私の首筋に指を立ててスーッと線を引きます。そしてうっとりとした顔で舌なめずりをしました。ま、まさか、血を吸われるのは、私!?


「そう、俺は君の血を吸いたい」



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