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ロゼッタ・マーティンは悪役令嬢を楽しみたい  作者: ゆっけ太郎マーフィー
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健康第一〈1〉

これからちまちま更新したいです。


 とりあえず手っ取り早く元気になるには栄養のあるものをモリモリ食べて、運動し、体力をつけるのが一番だ。日がな一日足パカ運動をしても一定の筋肉しか動かせないし、ベッドの上でのストレッチもマットレスの質が良いせいでかえって腰を痛めかねない。

 私は一人きりになる時間を見計らって、今度は部屋の中をひたすら歩き回ることにした。もちろん、ただ歩くだけではなく筋肉を意識する。歩幅は広く、早歩きで、胸を張り、背筋を伸ばしてキビキビ動く。いわゆるウォーキングのような姿勢である。

 始めは腿に重力を感じ、背中にだるさを覚える程であったが、次第に筋力がついたのか足運びも軽やかになった。四角い部屋をぐるぐる回るうち、あと三人いればかの有名なスクエアという降霊術もできるなと考える余裕までできた。それに、あの悪魔が住んでいると言われている鏡にも近づいて観察することができたのだ。

 木枠の細工は細やかで美しく、しかしそのせいで溝に入り込んだ埃が際立ってしまう。そんな古ささえ、その鏡をより魅力的に見せていた。気にしないようにしても目に入ってしまうのは、鏡の悪魔的な魅力のせいなのだろうか。

 見れば見るほど、見るなと言われれば言われるほどに気になる。

 ちらちらと盗み見るうちに、そのうっすらと埃に覆われた鏡面に白い影を見るような気がした。

 きっと埃か何かを見間違えているのだ。

 そう断言することが、私には難しかった。だって、不思議なことがあるのならあったほうが楽しいではないか。生まれ変わりがあるのなら、もっと不思議で面白いことがあるはずだ。

「ねぇ、鏡の悪魔さん、もしいるなら出てきてよ」

 私は問いかけながら鏡を覗き込む。

 鏡の中にはローズピンクの髪を編み込んだ少女──私が立っている。痩せっぽちで、顎が小さい。お姉様やアンヌに頼み込んで用意してもらった食事のおかげでいくらか顔色は良くなっているが、まだまだ健康とは言い難い。

 自分で言うのもなんだが前世の顔も愛嬌があったと思う。しかしこちらはまた雰囲気が異なる愛らしさがあり、大きな瞳は深い緑色でお人形さんのようだ。ただ、肌が青白く、全体的に骨ばっている為に些か不気味である。もとより大きな瞳が余計に大きく見える。

「こういう呪いの人形、ありそうだわ」

 編み込んで引っ詰めているが、生まれてから一度も切ったことがない伸ばしっぱなしの髪の毛がそんな雰囲気を醸し出す。

「鏡の悪魔と呪いの人形ならいいコンビになりそうじゃない。そう思わない?」

 返事はない。期待はしていなかったが、少しばかり寂しい。

 私はまだこの子供部屋しか知らない。そして、この子供部屋に来てくれる人しか知らないのだ。

 自分が五歳の頃といえば、特撮ヒーローの人形を振り回し、架空の街の地図を兄と描き、忍者ごっこに勤しみ、友達と超能力者ごっこをしてスプーンを持ち出しては母親に叱られていた。五歳児の好奇心は子供部屋なんかでは収まる訳がない。

 何度かお姉様にお願いしてみたのだが、もう少し元気になってから、もう少し健康になってからともう少しもう少しと悲しそうな顔をされてしまう。

 確かにちょっと前まで高熱で寝込んでいた女の子がひとりで出歩くと考えると、大人だったことのある私は躊躇する。

 嫌っているからではないのだ。姉とその夫である義兄は領主としての仕事も忙しいだろうに、毎日短い時間でも顔を見せてくれる。それに庭に咲いた花を近くで見られるようにと花束にしてくれたメイドや、小さな子供でも食べられるようにと食事に気遣ってくれるコック、嫌な顔ひとつせずいろんな話を聞かせてくれるアンヌ……。彼女達の愛情は、部屋に飾られた花々や贈り物の絵本の山だけでなく、ロゼッタ自身の記憶に刻まれているのだ。

「せめてあんたが友達になってくれたらな」

 私は鏡の中の悪魔に向かってため息をついた。



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