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ロゼッタ・マーティンは悪役令嬢を楽しみたい  作者: ゆっけ太郎マーフィー
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部屋とメイドと私


「……本当に?」

「はい。父から聞いた話です」

 確かにアンヌの父のアレクサンダーも真面目な庭師であると記憶している。使用人の少ないこの屋敷で庭仕事だけでなく、屋敷で使用される日用品の修理もしているのだと他のメイド達からも聞いていた。そんな彼が娘相手と言えど、嘘や冗談を言ったりするだろうか。

 それに、おそらくアレクサンダーだけの体験談ではなく他の使用人も似た経験をしているだろうと察することができた。

 確かに屋敷は古いが床は綺麗に磨かれ、シーツやカーテンも常に清潔だ。窓枠には埃もない。それなのにあの鏡の表面には埃が薄くかぶり、遠目から見ても輝きがないのだ。使用人達が避けているのが窺える。

「……なんでそんな鏡を子供部屋に置いたままにしているの?」

「あの鏡を子供部屋から移そうとすると必ず怪我をしてしまうのです。ですから、あの鏡はずぅっとこの部屋に置かれているのですよ」

「ふぅん……」

「ふふ、怖くなりましたか?」

 ふんわりとしたアンヌの笑顔が薄暗い部屋の中で暖かだ。

「ううん! わくわくしちゃう! ねえ、もっと教えて、怖い話!」

「怖くて眠れなくなってもアンヌは知りませんよ」

 この部屋だけで暮らす私を不憫に思ってか、使用人達はこうして面白い話をしてくれる。特にアンヌが話す話は最高だ。屋敷内の噂だけでなく、古い民話や巷で噂になっている話も教えてくれるのだ。アンヌ自身がそうした話が好きなのだろう。まだこの世界の読み書きを習っていない私には、アンヌが語る怖い話は本当に最高だ。

 何故なら私はオカルト好きだったのだ。

 オカルトオタクだとか、マニアとかいうには浅いが自宅にはホラー小説や実話怪談の書籍、世界の幽霊屋敷の写真集、UMAやオーパーツの本などが山となっていた。ホラーは特に屋敷や家が舞台になっているものが良い。

 昼でも薄暗い洋館と悪魔が住んでいると言われている鏡、おまけに語り手になるメイド! しかもこの世界にはどうやら魔術や呪いが存在している。私はまだ5歳だから習っていないけれど(転生モノにありがちな魔法チートなどはなかったのだ)、リリアンお姉様や彼女の夫である現ウィンチェスター卿も魔力持ちであるらしい。しかもマーティン家は魔術師の家系なのだ。最高か!? 早く魔術を教わりたいものだ。

 この世界の怖い話や伝説、オカルト話が知りたくて、こうしてアンヌには毎日のように怖い話をねだっている。もはやアンヌはメイド兼私専属の怪談師だ。贅沢にも程がある。メイドの仕事は私がするからもっと怖い話を聞かせて欲しい。

「ねえ、アンヌ。眠れなくなっても良いから、もっと怖い話を聞かせて欲しいな。眠れなくなったら、この部屋の鏡の悪魔にも会えるかも知れないし」

「……いけません。今日は怖い話はおしまいですよ。怖くて眠れずに風邪を引いたら、奥様が悲しみますよ」

 そう言われると退くしかない。奥様、即ちリリアンお姉様だが、私達の両親を2年前に亡くしてから過保護が増す一方だった。外に出ては野犬に噛まれてしまうのではないか、屋敷を歩いては階段から落ちてしまうのではないか、湯浴みの温度が低すぎて風邪をひくのではないか、熱すぎても火傷してしまわないかとあらゆる未来の不幸が私に被らぬように注意を払い続けている。

 さすがに心配しすぎではないかと思っていたが、アンヌから聞いた話や他の使用人達にせがんで聞いた民話、そして5歳までに学んだこの世界の知識から想像するに、リリアンお姉様は呪いを恐れているのではないかと考えられる。

 どうも私達の両親は呪いで亡くなったらしい。これは使用人達の会話を寝たふりをして聞き耳を立てた時に知った。公には病死ということにしているようだが(私もそう聞いた)、その死に顔は尋常ではなかったらしい。そういえばうっすらと両親の葬儀を覚えているが、その顔は見せてもらえなかった。

 もう記憶が薄れてしまっているが、私に対しては優しい両親だった。残された絵姿を見ても、呪いをかけられるような人達とは思えない。しかし、まだ幼い私には教えられないこの家の事情があるのだろう。

 不謹慎ながら興味深く、そして同時にどうにかできないものかと考える。

 早く大人になりたい。

 せめてこの部屋を出られるくらい元気になって、お姉様達を安心させたいと思ったのだった。



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