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花の都ファリ

「皆さん、到着しましたぞ!」


 どうやら俺まで眠ってしまったようだ。ジェットが御者席から大声で俺達を起こす。


「んん……」


 俺は伸びをしながら馬車から見える景色を眺めた。


「!」


 俺はネカーとネマーを構えて馬車から飛び出した。


「ジェット! 悠長にしている場合ではないだろ! 街がモンスターに襲われている!」


 俺は町の入り口に向かって走り出そうとした。


「待ちなされ!」


 ジェットが俺の後頭部をどつく。


「痛っ! 何するんだ、ジェット」


 俺の傍で杖を構えている秋留や、後方でカリューと紅蓮を連れているクリアもジェットの対応に右往左往している。ちなみにシープットは馬車の陰に隠れている。


「襲われているように見えますかな?」


 ジェットに言われて俺達は目の前の街の状態を眺めた。


 ……。


 色様々な人間大のゴーレムが街の至る所にいる。あるゴーレムは人間と会話を交わし、別のゴーレムは街の通りを掃除している。更に別のゴーレムは頭に鉢巻を巻いて店先で叩き売りをしているようにも見える。


「何なんだ? これは……」


 唖然とする俺達の前に出たジェットは優越感たっぷりに説明し始めた。


「今まで沢山の妖精をご覧になりましたな。大きいのから小さいのまで……」


 安全そうだと認識したシープットが馬車の陰から出てきたようだ。俺はそのまま頷いてジェットの説明の続きを聞く。


「数多くの種族が共存するアステカ大陸で、身体の小さな妖精が一緒に生活するのは困難だと思われませんかな?」


 確かに。


 人間や獣人と妖精ではサイズが違うため、家やらアイテムのサイズの違いで色々と不便しそうだ。特に妖精が営む店なんて入れるのか、と凄く心配になってしまう。


「そこで妖精達が作り出したのが、草木や大地で生成した人形、ギジンですじゃ」


『ギジン……』


 俺達は関心して街を眺めた。妖精達が作り出した人形……、さすがアステカ大陸、不思議が一杯だ。


「妖精達はあの中に入ってギジンを操っているんですじゃ」


 俺達が話していると一匹のギジンがノソノソと近づいて来た。


「花の都ファリへようこそ! 本日の宿はお決まりですか?」


 よく見るとギジンの右手には『花一杯宿』と書かれたプラカードがある。どうやら宿の客引きのようだ。


「ギジンは喋る事も出来るの?」


 クリアが眼を輝かせている。楽しそうだ。


「それは違うよ、ギジンの中の僕が喋っているんだよ」


 急にギジンの腹から頭に黄色い花のついた妖精が頭を出してきた。頭は俺の拳程のサイズしかない。


「可愛い〜」

「可愛いね」


 クリアと秋留が小さい妖精を見つめて嬉しがっている。確かに今まで出会った妖精よりは愛くるしい姿をしているが、まだまだ分からないぞ……妖精には散々振り回されているからな。


「か、可愛い? ぼ、僕は男だぞ!」


 妖精にも性別があるのか。

 それにしても、口調は怒っているようだが顔は凄く嬉しそうだ。


「妖精さんの宿まで案内してくれる?」


 秋留のお願いは誰も断れるはずはない。

 妖精はデレデレとした顔をギジンの中に引っ込めて、俺達を案内し始めた。



「お姉さん達、この大陸は初めて?」

「ジェットは来た事あるんだけど、私達は初めてだね」


 デレデレ妖精は秋留と仲良く会話をしている。ちなみにデレデレ妖精と心の中で名づけたのは勿論俺だ。由来はそのまんまだ。


「あ! あそこの饅頭はお土産に最適だよ」


 デレデレ妖精の台詞にクリアの眼が光った。

 その光を見たシープットは重い荷物に負けずに素早く饅頭を購入してきたようだ。


「そういえばこのファリの街は初めてでしょ? 花の都の名前に負けない位、綺麗な所でしょう?」


 確かに今歩いている通りも色形様々な花で一杯だ。

 花壇には赤や黄色の花が咲き乱れ、街灯は花の形をしている。家の屋根も色とりどりな花の形のものが多い。


「ここだよ、花一杯宿!」


 目の前に壁一面が花柄の趣味の悪い建物が現れた。屋根は葉っぱで出来ているかのように鮮やかな緑色だ。

 勿論、花壇が所狭しと置かれ本物の花も数多く飾られている。


「いらっしゃいませ! おや、うちの客引きに捕まったようだね」


 宿の中から女将風のギジンがエプロンを付けて現れた。


「良い宿だね」


「え? あ、ああ……」


 秋留が良い宿だと思うなら良い宿に違いない。俺達は眼がチカチカするようなロビーへと通された。室内の壁やソファーなども全て花柄だ。




「落ち着かない」


 俺は花柄のベッドカバーで覆われたベッドに横になって花柄の天井を見つめている。


 秋留はこの宿で一番高い部屋に、いつも通りクリアと一緒に泊まる事になった。その部屋にはペット達もいる。クリアの隣の部屋には執事のシープットが泊まっていて、更にその隣がジェットと俺の部屋だ。


「なかなか良い宿でございますな」


 隣のベッドに座って部屋にあったお茶セットで熱いお茶を飲んでいるジェットが言った。


 確かに見た目はキツいがベッドのクッションの具合や部屋の綺麗さで言ったら文句はない。それに部屋のいたる所に香りの良い花が飾られているためジェットの死臭もあまり気にならない。


「ここで食事を取らなくて良いのがせめてもの救いだな」


 俺は一人呟いた。

 この宿では食事が出ないため、泊り客は外に食べに行く必要がある。


 俺とジェットは荷物を整理し、簡単な装備をして秋留たちの部屋へと向かった。扉の作りも俺達の部屋とは違うようだ。さすがスウィートルームだ。さぞかし部屋の中は花だらけなのだろうな。


「凄いの! お風呂に薔薇の花びらが一杯浮いてたの!」


 クリアが嬉しそうに部屋から出てきた。


「ふぅ〜ん」


「それは良かったですな」


 俺の適当な返事にクリアは少し機嫌を損ねたようだが今更気にしない。


「お肌がスベスベになりそうだよ」


「へぇ〜! そりゃ良いな! 俺も一緒に入ろうかな!」


 思わず滑った口に秋留のグーパンチが飛び込んできた。さすがに調子に乗りすぎたか。


「それでは少し遅めの昼ごはんを食べに行きますかな」


『お〜!』


 相変わらずの獣の鳴き声やらラップ音が聞こえてきた。ペット同伴の店を探すのは一苦労なのだが……。ちなみに幽霊同伴なのは気にする必要はないだろう。居合わせた客には悪いけどな……。


「この花の都では何が有名なんだ?」


 俺は隣を歩くジェットに聞いた。


「さぁのぉ。この街に来るのは初めてですじゃ」

「あ? でもギジンの事知ってたじゃないか」

「ギジンはこの大陸で妖精が多い場所ならどこでも見かけますぞ」


 なるほど。

 ギジンは一般的に使用されているのか。今後気をつけないとな。


「あの人はやたらと毛深いみたいだね」

「ふぉっふぉっふぉ。あの方は獣人ですじゃ」


 さすがに色々な種族が目白押しだ。

 人間にエルフに獣人に妖精……。よく見ると背の低いホビットの姿も見える。


「まずは腹ごしらえだ」


 俺は辺りをキョロキョロと見渡した。美味そうな匂いのする店を探そう。


「あの店が良い〜」


 クリアが叫んだ。クリアの指差す方向には『レストラン・華』といういかにも高級そうな店が建っていた。俺の鼻も悪い反応は示していないが……高そうだなぁ……。


「高級そうですなぁ」

「たまには奢ってあげるよ!」


 クリアの嬉しい申し出。


「いや! 幼子に金品をめぐって貰うなど出来ませぬ!」


 ジェットが激しく否定した。

 そしておもむろに懐に入っていた銭袋を確認する。


「ワシが奢りましょう! 年長者としてたまには!」


 そう言ってジェットが勇ましく高級そうな店へと入っていった。大丈夫か?


 店の中は高級そうなムードに包まれていた。

 客層も上品な服を着た客が目立つ。……タキシードを着たギジンは場違いな感じではあるが。ありゃあ、どうやって食うんだ?


「美味しそう〜」


 クリアが眼を輝かせている。


「確かに」


 俺はメニューを見て生唾を飲み込んだ。俺達が今まであまり食べたことのないメニューの内容と金額だ。こういう洒落た店は少し苦手なんだが……。


「ガウガウッ」

「ワオ〜ン」


 カリューと紅蓮も嬉しそうだ。先程から良い匂いがしているしな。ちなみに銀星は入店を許されなかった為、外で高級草の食事をさせてもらっている所だ。


「足りなさそうなら私も協力してあげるからね」


 秋留がジェットに優しく声をかけている。まぁ、問題はないだろうとは思うのだが。


「う〜んとねぇ……ワイルドウルフのワインソース煮とぉ……レインボーフィッシュのテリーヌにぃ……特製ホタテのキャビア添えでぇ……トリュフのサラダも食べたいしぃ……フカヒレスープも美味しそうだからねぇ……」


 クリアの台詞にジェットがメニューを確かめながら青い顔をしている。いつもの食事よりも十倍以上はしそうな値段だからなぁ。


「色々食べたいものがあるんだね」

「うん! クリア、育ち盛りなの!」

「私はこの満腹コースとかが良いと思うんだけど……」


 秋留が指差したメニューは比較的リーズナブルだが十分満足出来そうな名前ではある。


「うん! そうだね! アタシもそれが良いと思ってたんだぁ!」


 うそつけ。

 しかしクリアの台詞にジェットは安心したようだ。いつもの如くシープットはクリアの成長振りに喜んでいる。……ずる賢くなっただけの気がするのは俺だけか?


 暫くすると料理が順番に運ばれてきた。順番に料理が運ばれてくるような店にもあまり入った事がないからなぁ。


「美味しいね」

「うん!」


 秋留とクリアが仲良く話している。ジェットも喜んでもらえて嬉しそうだ。


 俺達は久しぶりのまともな食事を終えるとレストランを出て花の都の通りを歩き始めた。

 後ろからは若干落ち込んだジェットが付いてきている。会計は三十万カリムだった。痛い出費に違いない。


「皆さん、防寒具を用意しませんとな」


 ジェットが気を取り直したようだ。


「そうだね、街の中でも肌寒いしね」

「じゃあ、秋留お姉ちゃんと一緒に買い物する〜!」


 クリアが秋留にベッタリとくっついている。


 その後俺達は話し合い、あまり大人数でも行動し難いという結論になった。


「じゃあ、宿屋の前でちゃんと待ってるんだよ! どこかに行ったりしたら……分かってるね?」


 邪魔者なカリューと紅蓮をクリアが追い払っている。


「シープットはそれなりに離れて付いてくるようにね」


「はい! お嬢様!」


 シープットは嬉しそうだ。そんな扱いされて嬉しいのだろうか?


「それでは銀星、お主も宿屋で待っておるんじゃぞ」


 主人に忠実な銀星は恨めしそうに秋留とクリアを見ながら宿屋へと向かっていった。


「ブレイブ殿、ワシと一緒に買い物しますかな?」


「い、いや……いい……」


 ジェットの誘いを丁寧に断る。


「じゃあ……十八時に宿屋の前で待ち合わせね」


 秋留とクリアが手を繋ぎながら人混みの中へと消えていった。ちゃんと後ろにシープットも付いている。十メートルは離れているようだ。


「ではワシも行きますじゃ」

「また後でな」


 俺はキョロキョロと通りを見渡すと小走りに秋留達が向かった通りに入っていった。偶然を装って一緒に買い物をしてしまおう。


 しかしまるで避けられているかのように秋留達が見つからない。

 暫く探索を続けたが俺は諦めて盗賊専門店を探した。

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