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いつの間にやら個性派揃い

 ここはアステカ大陸の港町コックス。


 俺達パーティーは三日前にこのアステカ大陸に到着したばかりだ。

 ちなみに俺達の今のパーティーはなかなかの個性派揃いとなっている。


 それは夕食を囲んでいるこのテーブルを見渡しても分かる。



 まずはこの俺、ブレイブ。

 レベル三十六の盗賊だ。武器は世にも珍しい硬貨を打ち出す事が出来る金色と銀色の二丁の銃だ。俺は金色の銃をネカー、銀色の銃をネマーと名前を付けている。……別に可愛がっているとかそういう変な趣味ではないぞ。なんとなく、そう、なんとなくだ。

 黒い色が大好きでいつも鋼の糸が編みこまれた特殊なダークスーツを着こなしている。



 そして、今日デートした相手の秋留。幸せな事に俺の隣に座っている。

 過去に数々の魔法系の職業に就いた事があるという話だが、今は相手を惑わす術の多い幻想士という職業に就いている。その美しさに俺はいつも惑わされっぱなしだ。

 三日月の形をした杖を愛用しており、柄にはどこかの町で購入した堕天使の人形がぶら下がっている。


 ちなみに余談だが、あの一つ目モンスターのぬいぐるみ、秋留も気に入ったらしい。喜んで宿の部屋に飾っているという事だ……。秋留が可愛いというなら可愛いんだろうな、あの不気味なぬいぐるみは……。



 その隣が生意気な小娘、クリオネア。通称クリア。秋留の事をお姉ちゃんと呼んで慕っている。

 冒険者ではなく、少し前に立ち寄った島から同行する事になったお金持ちの御令嬢だ。

 ただの小生意気な小娘ではなく、なんと獣と意思疎通が可能な『獣使い』の素質を持っている。

 クリアの傍に行儀良く座り込んでいる獣三匹がその証拠だ。

 ちなみに、このレストランはペット同伴可だ。許可は得ている。


「さっきから何見てるの、ブレイブ」


 年下のくせにクリアは俺の事を呼び捨てにする。確か13歳だったはずだ。俺は23歳だから……10歳も差があるじゃないか!


「いや、可愛い顔してると思ってな」


「そう? やっぱりそう思う? しょうがないなぁ〜ブレイブは〜。でもアタシはブレイブ、好みじゃないの、ゴメンね」


 適当にあしらったつもりが、手厳しいカウンターパンチを食らってしまった感じだ。



 俺は気を取り直して床に座っているクリアの忠実なるペット達に眼を移す。


 ペットその一。霊獣であるタトール。

 見た目は長生きしてそうな普通の亀だ。しかしその正体は霊獣の中でも有名な『四聖の玄武』らしい。

 水系の力を操り、海のモンスターまで従えてしまう。

 以前は敵だったのだが、クリアに説得されて仲間になった。


 ペットその二。凶暴なドーベルマンである紅蓮。

 元々はクリアの家で飼われていたのだが、クリアと意気投合して着いて来るようになった。

 今ではクリアの強引な性格のせいで逃げられなくなってしまったように見えなくも無い……。それは他の二匹の獣も同じだと思うが。


 紅蓮はクリアと出会ってスッカリ凶暴さは抜けたのだが、クリアの趣味で凶暴さをアピールするようなお洒落をさせられている。

 まずは左耳にピアス。これは耳に穴を開けている訳ではなくイヤリングのようにネジで止めているだけだ。

 次に右目に上下の毛を傷のように赤く染めている。確かに凶暴そうだ。

 そして四本の足全てに皮の小手を装備させられている。これは少し嫌がっているようだがクリアには歯向かえないに違いない。


 ペットその三。我らがパーティーのリーダーであるカリュー……。

 話せば長くなるのだが人間だった我らがリーダーは今はクリアという女王に仕える一ペットとなってしまった。

 人間の時の面影と言ったら髪の毛と同じ真っ青な毛並み位だ。後は頭の上に巨大な耳、尻からは長い尻尾が生えていて人間というよりは断然、獣人に近い。


 ただ、骨格はかろうじて人型を保っているため、完璧な四足歩行という訳ではない。なんとなく前かがみ、仕事に疲れきった一家のお父さんが歩いているかのようだ。


「ほらっ! カリューは御飯散らかしすぎ! もっと綺麗に食べなさい!」


 そう言ってクリアがカリューの頭をポカリと殴る。


 いや、そんな可愛い音ではないな……ドカッかな。


「く、くぅ〜ん……」


 カリューはクリアに叱られて耳を垂らしている。

 クリアに怯えるその姿はあまりにも情けない。早く戻って来い、人間のカリュー。


「がるるるるる……」


 不思議と俺の方を見てカリューが唸っている。


 クリアに通訳してもらった話なのだが、カリューは人間だった、いや、途中、獣人だった時期もあるのだが、その辺もひっくるめて過去は全く覚えていないという。姿は獣人のままなのだが、記憶だけ退化してしまったのだろうか?

 人間になったら記憶も戻ると期待しているのだが、そもそも人間に戻れるのかも怪しくなってきた。



 俺達の旅の目的は、このカリューを人間に戻してもらう事だ。

 そのため、この大陸の中央にあるサン・プレイヤ教会のある聖都アームステルを目指しているのだ。


「ブレイブが俺を馬鹿にしているってカリューが怒ってるよ?」


「ああ、ゴメンゴメン、あまりにもそいつがかわいそうでな」


「……なんで?」


 クリアが思いっきり睨む。


「床に座ってるからよ」


「ブレイブも付き合って床に座れば?」


 適当にあしらったつもりが、今度はボディーブローをもらってしまった。



 そしてクリアの隣に座っているのが、ペットその四、執事のシープットだ。

 いや、シープットはペットではないが、クリアにはペットのようにこき使われている。よくクリアの性格についていけるなぁ、と感心してしまう。

 今は黙ってコーンスープを飲んでいるが、ひたすら隣を気にしている。



 シープットの気にする隣の席が二つ空いている。

 テーブルには何も出ていないのだが、時々「ピシッ」「パシッ」と不気味な音が聞こえる。

 本日、俺と秋留の身体を使って久しぶりにデートを楽しんだツートンとカーニャアだ。俺の眼には何も見えないため特徴などを説明する事は出来ない。



 その隣の席にはまたしても生物外が登場する。さすがにペット同伴可と書いてはあるが馬はでか過ぎるんじゃないだろうか……。馬の銀星だ。床に置かれた大きな皿からエサを勢い良く食べている。


 いつ見ても不思議だ。

 ゾンビなのになぜ食欲があんなにもあるのだろう。

 そう、銀星は秋留のネクロマンサーの魔法によって蘇ったゾンビ馬なのだ。そしてチェンバー大陸の英雄と呼ばれた聖騎士の愛馬でもある。



「どうしましたかな? ブレイブ殿。先程からキョロキョロと……」


 秋留とは反対側の席に座っていた老人が話しかけてきた。

 俺達パーティーの保護者役……のはずなのだが、最近はお茶を飲んだり宴会部長的な事をしたりと長閑っぷりが目立つ聖騎士のジェットだ。


 ジェットも銀星と同時に蘇ったゾンビだ。同じように食事をするし病気にもなる。一般的な老人と同じように夜は寝るのが早くて朝が早い。

 ゾンビって不思議だ。



 一気にパーティーが増えたよな。

 俺達が座っているテーブルも最初の時には考えられなかった位に大きい。……無駄に。空き席が2つあるし。


 俺、秋留、カリューの三人から始まったパーティー。別の大陸でモンスターの大群を追っ払った功績からレッド・ツイスターという異名も付いた。

 それからジェットと銀星が加わり……今に至る。もう考えるのも嫌な位に最近は色々な冒険をしたなぁ。


「どうしたの? ブレイブ。遠い眼しているけど?」


「え? あはは……」


 秋留に見つめられて思わず照れ笑い。


「変態な事でも考えてたんでしょ」


 クリアを睨み付ける。


「あれ? そういえば今日もクリアは違う服着ているよな」


 昨日は黄色のワンピースを着ていた気がするが、今日は紫色のジャケットとズボンという出で立ちだ。


「え? 珍しい! ブレイブがそういう事気付くなんて」


 クリアとは出会ってから全然経ってなんだが、そんな事言われるのはおかしいんじゃないか? と心の中で呟く。


「今日買い物してたら見つけたの! 良いでしょ? 秋留お姉ちゃんとお揃いの紫のジャケット」


 北側の大陸であるアステカ大陸は一年中が涼しい。俺もこの大陸に到着した時に肌寒さを感じて荷物の奥から取り出した袖の無いコートを着ているが……。


「無駄遣いし過ぎじゃないのか?」


 俺が呆れて言うとクリアが怒った顔をした。


「お金は十分あるから大丈夫よ! 貧乏人は黙ってて!」


 貧乏人とかではなく、移動の多い冒険者にとって多すぎる荷物は邪魔になるのだが……。


「クリア、荷物とか増えてきたんじゃないの?」


 秋留が優しく問いかける。

 お、そうそう。ガツンと言ってやれ、秋留!


「大丈夫よ、シープットが全部持ってくれるから」


 そう言ってクリアが悪魔のような笑顔を執事のシープットに向ける。

 ドキッとしたシープットがスープを喉につかえさせた。


「え、ええ! クリアお嬢様の荷物は全てわたくしめが管理しておりますよ」


 そう言って、自分の身体以上ありそうな隣に置いてある巨大な鞄をバンバンと叩く。


 可愛そうなシープット。

 俺は執事にはなるまい。


「ふふ。でもお金使い過ぎると、いざという時に欲しいもの買えなくなっちゃうよ」


「大丈夫! お金は沢山あるわ」


 秋留の優しい忠告も無視して、クリアは自身満々にガッツポーズを付けながら喋る。


「でも世の中には想像も出来ないような高価なものもあるんだよ? 旅の記念に色々欲しいでしょ?」


「え、う〜ん……確かにナンチャラの銅像とか特大モンスターの剥製とか欲しいもんね……」


 そんなのが欲しいのか!

 とは突っ込まないでおく。後少しで説得も成功しそうだし。

 それより、銅像とか剥製とか聞いたタイミングで、荷物もちのシープットの顔が若干青ざめたのは気のせいではないだろう。


「とにかくですな」


 今まで黙って食後のお茶を飲んでいたジェットが突然声を発した。


「世の中の厳しさも教え込まないと、この先苦労しそうですな」


 甘やかせ過ぎた子供を叱るようにジェットが睨む。さすが年長者が言う台詞には不思議な説得力がある。


「……は〜い。ごめんなさい……」


 お、素直に謝ったぞ。

 視界の隅では、シープットが眼にハンカチを当ててお嬢様の心の成長を喜んでいる様子も確認出来た。


「ふむ。素直なのは良いことじゃ」


 ジェットがニッコリと微笑む。


「へへ……」


 クリアも照れ笑いする。なんか、平和な家族のやり取りのようで会話に参加出来ない。とりあえず俺と秋留は夫婦役でその子供がクリアか? 俺と秋留の子供ならこんな生意気には育たないに違いないけどな。


「さて、そろそろ宿に戻ろっか」


 秋留がタオルで口周りをフキフキしている。そ、そのタオル俺にくれ〜。


「変態」


 俺のもの欲しそうな眼を見てクリアが言った。

 うう。確かに今のは変態的な発想だったが、俺の顔はどうしてこんなにも邪な気持ちを表現してしまうのだろうか。

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