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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
かつて勇者だった獣と海賊残党
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囚人カリュー、いや、囚獣カリュー

 カリューは治安維持協会傍の留置所に収容されている。

 この留置所で暫く過ごした後、アステカ大陸から来る治安維持協会の船で輸送される事になる。

 その前にカリューを何とかしないと、自称勇者で元人間の獣人が囚人になる、というややこしい状態になってしまう。


 前方から来た人が俺にぶつかって来たが、謝りもしないで走り抜けた。気付けば他にも何人かが俺達の向かう方向から走ってきているようだ。

 耳を澄ますと人の叫び声や怒号が聞こえる。


「何かあったみたいだな」


 俺達三人は頷くと人の流れに逆らうようにして走り始めた。何だか知らないけど嫌な予感がする。なにせカリューはトラブルメーカーだからな……。


 俺の悪い予感は的中した。

 小さいが頑丈そうなレンガで作られた留置所周辺で治安維持協会員達が慌しく動き回っている。


「お前は南側を探索しろ! てめぇは他の罪人が逃げないように見張ってろ!」


 忙しそうに怒鳴っていたタイガーウォンが俺達の姿を見つけると、鬼のような形相で近づいてきた。


「ブレイブ、どこ行くの!」


 俺の本能がこの場から離れろと告げているのに、秋留が逃げようとする俺の襟をむんずと掴んでいる。


「遅かったな、レッド・ツイスター……」


 嫌味たっぷりな口調でタイガーウォンが口を開いた。タイガーウォンの口から放たれる安物の葉巻のような異臭が気持ち悪い。


「海賊一味が留置所から脱走した。獣人カリューがその逃亡を助けたようだ」

「……」

「…………」

「………………」


 俺達三人は仲良く沈黙した。冷静な秋留もあまりのショックに声が出ないようだ。


「ラムズじゃなくて、カリュー?」


 頭の中の整理も出来ていない状態で秋留が疑問を口にした。

 まぁ、ようするに脱走の実行犯はラムズじゃないのか、と言いたいようだ。


「……? ああ、あんな気弱な海賊の仕業じゃないな。騒ぎを聞きつけて俺が留置所に向かった時には先陣を切ってカリューが突っ込んで来た」


 そう言ってタイガーウォンが悪趣味なアロハシャツを捲って脇腹を見せる。そこには獣に切り裂かれたように真っ赤な傷が痛々しく残っていた。


 完璧な獣となったカリューを、ラムズが操っていたんだろう。

 秋留の幻想術では人としての意識がなくなったカリューを操る事ができなくても、獣使いの能力があれば操れる。


「責任をもって全員捕まえて来ます」


 秋留が言った。


「再度、報奨金を要求しようなんて考えてないから安心してくれ」


 俺の台詞にタイガーウォンだけでなく秋留とジェットまで白い眼で見てきた。


「冗談だよ、冗談……」


 冗談で言った台詞ではなかったのだが、空気が悪くなってしまったのでフォローしておく。ちなみにカリューを捕まえた時の報奨金はいくらだろうなぁ。


「奴ら、俺達をかく乱させるために散り散りになって逃げ出したようだ。どこかで落ち合う約束をしているに違いない。とりあえず我々の方は港を押さえたが……」


 この島からは逃がさない、という事か。

 いくら海賊だからと言って泳いで逃げるような事はしないだろうしな。港を押さえたタイガーウォンの判断は間違いではないだろう。


「ブレイブ! ジェット! 行くよ!」


 秋留が走り出す。

 俺とジェットは眼を合わせると気合を入れて走り始めた。


 馬鹿カリューめ! 一体、何をやっているんだ! 暴走し過ぎだ!



「さて、この辺で一回周りの様子を窺うわ。ブレイブも神経を研ぎ澄ませて海賊達を探して!」


 タイガーウォンから少し離れた場所で秋留が言った。

 あいつのすぐ傍では集中できないから魔法を唱えたりするのは無理だろう。

 俺は辺りを注意して観察した。右往左往している住人や治安維持協会員が目立つ。


「天空の覇者ホルスよ、その眼力で万物を捉えよ、ホーク・アイ」


 秋留が魔法を唱えた。


 ホーク・アイは鳥の霊獣を召喚する魔法だ。空中を飛び回るホルスの眼と秋留の眼がリンクする。

 この魔法を唱えている時の秋留の眼は鷹の様に鋭くなる。可愛い眼が台無しだよ、秋留。


「う〜ん……。奴ら海賊だけあって気配を消したり隠れたりするのは上手いみたいだね。明らかな陽動作戦を実行している海賊もいるけど……」


 秋留が上空を見ながらキョロキョロしている。

 俺も辺りを窺うがサッパリ海賊共の気配を捉える事は出来ない、というかそもそも俺の能力はそこまで広範囲じゃないぞ!


「駄目、見つからないわ」


 秋留が残念そうに魔法の効力を解放して言った。今はいつもの可愛い眼に戻っている。


「カリューの馬鹿野郎ー!」


 俺は力の限り叫んだ。

 その後、聴覚に全神経を注ぐ。

 ……。

 …………。

 駄目だ。俺の罵声にカリューが反応すれば儲け物と思っていたが、少し離れた場所で指示しているタイガーウォンや、隣で「急に大声出さないでよ!」と怒っている秋留の声しか聞こえない。


「俺の勘で行くと……」

「北側に広がる森ね」


 秋留に先に言われた。

 森に潜めば追っ手を各個撃破する事が出来るし、盗賊や海賊は対人の罠等を張る能力を持った奴もいる。

 ちなみに俺には罠を見破る能力はあるが、罠を作る能力は無い。何気に不器用だからな。


 俺達は森に向かって走った。

 同じ様に森が怪しいと踏んだ治安維持協会員が隣で併走している。


「やっぱり森が怪しいですよね」


 髪を茶色に染めて肩まで伸ばしている協会員が言った。同じ方向に進んで足手まといにならなければ良いが……。


 協会員が足元の石を踏みつけた時に嫌な音が聞こえた。悪海賊達が仕掛けた罠を作動させたようだ。俺達の目の前に枝が鋭く尖った木片が勢いよく飛んできた。

 俺は素早く両銃を構えた。


「むぉーく!」


 罠を作動させた協会員が謎の雄叫びを挙げて、木片に向かって飛び蹴りを放った。木片が粉々になる。


「すみません! 罠を作動させてしまったみたいですね」


 何事も無かったかのように協会員が言った。

 俺は黙って銃をホルスターに戻す。


「協会員さん、武術が得意なの?」

「私、治安維持協会員のボブと言います」


 秋留の質問にボブが答える。ボブか。全国のボブには悪いが個性の無い名前だ。


「この島の治安維持協会で働く者は誰でもムォーク武術が使えるんですよ。私なんてまだまだ下っ端でして……」


 恥ずかしそうにボブが頭を掻く。


 しかし今の蹴り……。技の速さと威力……。下っ端というには不自然だ。


 なるほど。


 俺が気絶した後に暴れたカリューを生け捕りに出来たのも少し頷けるな。

 ムォーク武術等と言うふざけた名前でなければ俺も入門を考えていたところだ。


「いくら体術が得意と言っても、罠には気を付けてくれよ」


「のわああああ!」


 俺の後ろから付いてきていたジェットが罠にかかったようだ。心臓の位置に木の枝が突き刺さっている。


「う、うわあああああ!」


 心臓に枝が突き刺さったまま走っているジェットの姿を見て、ボブが悲鳴を上げて卒倒した。

 俺達は放っておいて森深くに向かって突き進んだ。ついてこられても、足手まといになったに違いない。


「痛いですぞ」


 ジェットが涙目になりながら心臓から鋭い枝を抜き取った。ゾンビであるジェットの身体からは血が一滴も垂れない。


「奴ら本気で追っ手を殺そうとしているな」

「手加減する理由はないでしょ」


 秋留が冷静に答えた。


 そろそろだろうか。

 俺は立ち止まる。俺の動きに合わせて秋留とジェットも立ち止まった。


 辺りを注意深く窺った。

 低い獣の唸り声が空気を揺らす。カリューだろうか?

 地面に広がる草を踏みしめる音が俺達の周りから聞こえて来た。どうやらすっかり囲まれていたようだ。


「また水系モンスターですな」


 俺の目の前でジェットの胸に空いた穴がウニュウニュと塞がったのが見えた。これを見てしまうと暫く食欲が無くなるのだ。もう少しコッソリと修復して貰いたい。


 三又の槍を構えた半魚人、頻繁に手足を揺らすタコモンスター、頭の上のサクランボのような物を揺らして近づいてくるワニ……。


 俺はネカーとネマーをぶっ放して近づいてくるモンスターを片っ端から吹き飛ばしていった。

 ジェットも負けじと魔力を込めたレイピアでモンスター達を爆殺していく。


「死を悟った嵐の猛攻は……仇名す者を滅ぼす爆風となる……ウィンドボム!」


 秋留の呪文をトリガにして、群れを成すモンスターの中心に向かって急激に空気が集まっていく。

 刹那、集まった空気が一気に破裂した。

 耳を覆いたくなるような爆裂音が辺りに響き渡る。モンスター達の身体のパーツが散乱した。


「激しいな」

「ちょっとね」


 秋留の方に降りかかってくる肉片を、背中で見守っていたブラドーが防ぐ。ご主人様を守る忠実な僕という訳だ。

 ついでにそのご主人様の最愛の俺に降りかかってくる肉片も払ってくれれば良いのに。

 俺は肩に降ってきた、深く考えたくない柔らかいものをネカーの銃身で払った。


「相変わらず派手だな」


 有無を言わさず、声の聞こえて来た方に硬貨をぶっ放す。

 この大陸に来てからも見たことのある亀の甲羅に硬貨はあっけなく弾かれた。あらかじめ軌道は防いでいたようだ。


 今の声はラムズに違いない。あまり特徴のある声ではないので覚えにくいが、目の前に現れた亀のモンスターがその証拠だ。

 ラムズの忠実な僕である亀のモンスター、タトールだ。


「また痛い目に合いたいらしいな」


 腰に手を当てて堂々と言ってやった。


「ブレイブはラムズとは大して戦ってないでしょ」


 秋留がボソリと言ったが気にせず続ける事にする。


「そんなモンスターの陰、更には頑丈そうな木の陰に隠れながら喋るんじゃねぇ、正々堂々姿を見せろ」


「うるせえ! 黙れ!」


 ……。

 ラムズからの予想外の応答に一瞬うろたえてしまった。あいつ、あんなキャラクターだったっけか?


「ブレイブ、危ないよ」


 なぜか秋留がブラドーの力を借りて近くの木にぶら下がっている。そんな秋留をローアングルから見上げて少し幸せな気分を味わっていると、何かに足を取られた。


 森の中に洪水が発生していた。

 俺は大量の水と共に後方に流される。途中で数本の木に身体を打ち付けるというオマケ付きだ。

 どうやらタトールが大量の水を発生させたらしい。あいつは水を操ることが出来るモンスターなのだ。


「ちっ」


 俺は周りを見渡して舌打ちをした。

 水に流されたせいでモンスターが群れを成していた中心に来てしまったようだ。

 俺は両手に持ったネカーとネマーを構えてトリガを引いた。


 あれ?

 硬貨が発射されない。

 というか、俺が持っているのは何だ? 木の枝?


「ブレイブ〜! 銃が二つともココに落ちてるよ〜」


 少し離れた場所に俺の長年の相棒である二丁の銃が落ちている。

 後方から襲ってきていたモンスターを腰に装備した黒い短剣で切り落とす。続いて飛んできた槍を同じく短剣で払う。俺は銃だけではなく短剣の扱いも神がかってきたようだ。


 襲い来るモンスターを短剣で切り倒し、銃の元まで辿り着いた。


「やっぱり手に馴染む」


 俺はネカーとネマーを構えて辺りのモンスターの眉間を打ち抜いていく。

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