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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
かつて勇者だった獣と海賊残党
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魔法の授業2日目

 俺は雨の音で眼が覚めた。

 どうやら今日は雨らしい。これでは船の修理も手間取る事だろう。


 朝食を部屋に運んできたメイドの話では、デズリーアイランドに雨が降るのは珍しいという事だ。


 俺はパンを頬張りながらカーテンの隙間から見える外を眺めた。

 こんな雨でも秋留と出掛けられるなら恵みの雨に見えるところが不思議だ。


 俺は鞄からフード付きマントを取り出す。少し不恰好となるが冒険者にとって片手の塞がる傘は危険だからだ。


「待てよ……」


 俺は取り出したマントを再度しまい、折りたたみ式の傘を取り出した。


 神のお告げだ!

 今日は傘で行こう!



 がっくし。

 外に出た俺を待っていたのは、ジェットの持つ傘の下に入った秋留の姿だった。秋留と俺の相合傘の大いなる夢が……。


 俺は恨めしそうにジェットを睨みつけた。


「滅多に雨の降らないデズリーアイランドに雨が降る……。少しでも不穏な空気を感じたなら用心するのが正しいでしょ?」


 秋留が俺を納得させるように言った。


 確かにそうだ。


 そもそも不思議だと思いつつ片手の塞がる傘を持ってきた俺の考え方がおかしいのだ。しかし今更引き返す事も出来ない俺は、傘を差しながらレッジャーノ邸への道を歩き始めた。


「昨日は身体に力が入らなかったからのぉ……。風邪が復活したのか心配したんじゃが、今日は元気バリバリですぞ!」


 ジェットが言った。自分が死人だという事を忘れているんじゃないだろうか? あまりにも残酷な内容なので秋留もジェットには説明していないらしい。


「歳なんだから気をつけてね」


 秋留が言った。

 死人で不死身なジェットが何を気をつける必要があるのやら……。


「まだまだ若いですぞ!」


 ジェットが力拳を見せつける。生きていれば116歳の爺さんが良く言うよ……。


「どうしたんですかな? あまり元気がないようですぞ、ブレイブ殿。風邪じゃないですかな?」


「いや、大丈夫だよ。ちょっと気分が悪いだけだ」


 間違っても『機嫌が悪い』とは言えない。



 暫くすると大きな豪邸が見えてきた。

 初めて見るジェットは眼を丸くしている。


「チェンバー大陸の英雄と言われたワシも、こんな豪邸は見たことないですなぁ」


 ジェットが関心している。


 どこかで俺達の到着を監視していたかのように静かに目の前の門が開き始めた。


「雨の中、本日もようこそいらっしゃいました」


 確かシープットと呼ばれていた執事だ。


「シープルさん、今日もよろしくお願いしますね」


 いや、秋留、その人はシープットさんだよ。


「どうぞ、こちらへ……」


 シープットは否定する事なく俺達を豪邸へと案内した。これが職人魂という奴か?


 俺は小声で執事の名前はシープットである事を秋留に言った。秋留は顔を赤らめて下を向いてしまった。悪いことをしたかな?


「秋留おね〜ちゃん!」


 豪邸のドアを開けた途端にクリアが秋留の足に抱きついた。こいつドンドン馴れ馴れしくなってないか?


「今日は何を教えてくれるの?」


 尻尾があるならクリアは千切れんばかりに振っているに違いない。まるで天使でも見るように眼をキラキラと輝かせている。そんな眼で秋留を見て良いのは俺だけだぞ!


「今日は雨だからね。お家の中で魔法について勉強しましょうか?」


「え〜……」


 クリアが不機嫌そうな声を出す。


 何か良い方法はないかとアレコレ検討しているに違いない。その少ない脳みそで、どんなクダラナイ考えが湧き上がってくる事やら……。


「家の中じゃ魔法の実演は難しいよ。危ないし」


 秋留が説得しようと頑張っている。


 クリアの父親であるパルメザンも愛娘の機嫌を取ろうと必死だ。

 ちなみに俺の隣には魔法の実演中であるジェットが、孫娘を見るようにクリアを眺めている。


「ワシにも孫がおってな……。懐かしい」


「え? ジェットって子供がいたのか!」


 衝撃の事実。

 死人ライフを送っているジェットを見ていたので、生前どのような生活を送っていたのか考えたことが無かった。


「そ〜だ!」


 俺の思考を中断するに十分な声量でクリアが叫んだ。


「アタシがよく探検ゴッゴしている洞窟に行ってみようよ!」


「たっ! 探検ゴッコ!」


 パルメザンが叫んだ。娘が普段そんな危険な遊びをしているとは夢にも思っていなかったようだ。親の監督不行き届きという奴だな。


 口をパクパクさせたパルメザンを置き去りにして、クリアは秋留の手を引っ張っていった。


「娘さんは責任をもって守ります故、ご安心下され」


 ジェットはそう言うと秋留について行った。

 最後に残された俺はパルメザンに何て言おう……。


「ブレイブ〜! 置いてくよ〜!」


 今の幼い声はクリアだ!

 あいつ、俺を呼び捨てだ。いつかこの甘い親父に代わって俺がお仕置きしてやる!


「娘さんの教育は任せて下さい」


 俺はパルメザンに捨て台詞を残すと、傘を差して秋留達を追った。



「あと少しで洞窟に到着するよ」


 デズリーアイランドの街並が見下ろせる高台。クリアお嬢様は随分遠くまで遊びに来ているんだな。こんな遠くまで来てモンスターに襲われたりしないんだろうか?


「この辺はモンスターとか出没しないの?」


 俺の疑問を秋留が口にしてくれた。どうも俺はクリアと意思の疎通がし難い。


「前にお父さんから聞いたんだけど、この島はムォークムォーク大神様が守ってくれてるから滅多にモンスターは出現しないんだって」


 秋留と一緒の傘に入っているクリアは嬉しくて仕方が無いようだ。意外なライバルが登場したものだ。しかし性別という壁は超えられまい。俺は秋留と結婚出来るがクリアは結婚出来ない。つまり俺の勝ちという訳だ。


「じゃあムォークムォーク大神様は休養中か? この島に来てからもモンスターに襲われたからなぁ。クリアだって襲われてたじゃないか」


 クリアとの意思疎通を頑張ってみようと思い俺は話しかけた。


「ブレイブが厄介ごとを引き連れてきそうな顔してるからじゃないの?」


「あはは! クリア上手いこと言うね!」


 秋留とクリアが仲良く笑っている。ああやっていると姉妹のようだ。性格は正反対だけどな!


「あ、後少しだよ。あそこの丘の反対側に洞窟があるんだ」


 俺の後ろではジェットが立ち止まっている。


「どうした?」


 ジェットに近づいて聞いた。


「何者かにつけけられている……」


 ジェットが真剣な眼差しで辺りを見渡している。あ、そうか。ジェットは知らないんだった。


「レッジャーノ邸の門で出迎えた執事いただろ? いつもクリアの様子を窺っているみたいなんだ」


 俺は左後方の茂みを指差して言った。

 俺に指を差されている事に気付いたシープットが慌てて隠れた。その反動で茂みが動く。


「まだまだですな」

「そうだな」


 俺達は外で様子を窺うシープットを無視して洞窟へと入った。


「へ〜……。立派な洞窟じゃないか」


 俺は中を見渡して言った。

 誰かが狩猟用に作った洞窟らしい。至る所に石を削って作った矢や木の棒が転がっている。洞窟の天井や道具の汚れ具合から見ても、ここ何年かは使われていないようだ。


「ここなら魔法の実演も出来るでしょ?」


「そうだね。じゃあその辺に椅子とかあるから並べよっか」


 秋留の台詞に対してクリアが両手で遮る。


「良いの、良いの。こういう雑務はいつもの人にやってもらえば……」


 クリアが小さなリュックから鈴を取り出そうとするのを秋留が制した。


「これくらいは私達で出来るわよ。一緒に準備するのも楽しいものよ?」


 今にも洞窟の影から飛び出そうとしていたシープットがズッコケた音が聞こえた。


「秋留お姉ちゃんがそう言うなら……」


 クリアは小さい身体で椅子を運び始めた。秋留は猛獣の調教も上手いようだ。


 こうしてワイワイガヤガヤやりながら急ごしらえの教室が出来上がった。この洞窟を作った住人が使っていたと思われる黒板まであり、なかなかの教室ぶりだ。


「じゃあ今日も魔法の授業ね。昨日の続きから……」


 こうして秋留教授のご講義が始まった。

 洞窟の入り口近くにある木箱の裏でシープットも説明を聞きながら頷いている。


「じゃあ、実際に召喚魔法を見せてあげるね」


「よっ! 待ってました〜!」


 クリアが拍手する。遠くでシープットが小さく拍手している音も聞こえた。


「さっきも説明したように、ラーズ魔法と違って召喚魔法は実在する『霊獣』を召喚する事になるの……」


 秋留が俺達から離れた場所に歩き始めた。


「まずは結構誰とでも契約しちゃう浮気な霊獣から召喚してみよっか?」


「霊獣ブレイブっていう名前?」


 クリアの失礼な発言は続く。俺はシカトする事にした。そもそも俺は浮気症ではない、秋留一筋だ。


「我らが守護神バロンよ…」


 秋留が召喚魔法を唱え始めた。冗談を言ったりして騒いでいたクリアも静かに見守る。


「悪を滅するため、その聖なる舞踏を我が前に繰り出し給え…」


 秋留は呪文の詠唱を続けているが、いつものような何かが起きそうな気配を感じない。


「バロン・ダンス!」


 ……。


 …………。


 何も起きない。失敗だろうか?


「やっぱり無理だったね」


 秋留が肩の力を抜いた。


「こういう風に霊獣は存在する生き物だから、誰かが同じ召喚魔法を発動させていると現れてくれないのよ」


 残念そうにしているクリアに近づいて秋留が更に説明した。


「あと重要なのはその霊獣との友好度ね。正直私は、バロンは浮気症だからあんまり好きじゃないの」


 そう言って秋留はトコトコと洞窟の奥に歩き始めた。


「今回は戦いのためじゃないけどちょっと力を貸して……」


 秋留が小さい声で呟いた。


 こういう事に召喚魔法を使うのはあまり気が進まないらしい。優しい秋留ならではだ。ちなみにクリアが召喚魔法を覚えたとしたら使われる側の霊獣に同情してしまいそうだ。


「岩山の巨人ジャイアントロックよ!」


 お!

 秋留の十八番だ。秋留はこの召喚魔法をよく使う。

 先程とは違い、呪文を唱え始めた途端に辺りの空気が震えだした。隣のクリアも身体を震わせながら辺りをキョロキョロしている。


「我の前にその力を示せ! ジャイアント・フィンガー!」


 秋留の叫びと同時に地面から巨大な岩で出来た指が飛び出した。その指がクリアの頭を撫でるように動いた後に地面に戻って消えていった。


 まるで放心状態のクリア。

 心配して秋留が近づいていくとクリアが大声で叫びながら走り回った。


「凄い! 凄い! 凄い! 格好良い〜!」


 クリアはドサクサにまぎれて俺の脚を蹴っていった。なぜ蹴られたんだ……。


「秋留お姉ちゃん、格好良い! クリア、秋留お姉ちゃんが大好き!」


 がーん!


 先に告白された。何てことだ。こんな事なら昨日、夜の海に向かって「秋留の事が大好きだ〜!」と青春しておけば良かった……。


「ふふ。ラーズ魔法とかガイア魔法と違って、召喚魔法は魔法の素質と霊獣と仲良くなる素質があれば使う事が出来るからね」


 なるほど。

 クリアには魔法の素質はあるかもしれないが、仲良くなるのは不可能だろう。どんな気の良い霊獣でもクリアの下で働く事はしないだろう。


 あ。

 霊獣シープットとかならクリアのために頑張って働くかもしれない。

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