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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
楽園上陸を喜ぶ勇者犬とバカンス
46/75

久しぶりの大地

「ウオオオオオオン」

「ヒヒヒーン」


 砂浜を走り回る二匹の獣。


 海に浮かぶ小さな島、デズリーアイランドは十一月に入ったというのに十分に暖かい。この気候ならまだまだ海で泳いだり砂浜でバーベキューをしたりしても問題無さそうだ。


 それにしても……。


 この島に着いてからあの二匹は走り続けている。

 確かに約一週間ぶりの大地に俺も感動しているわけだが、奴らは元気が良過ぎる。


「さっきまで船酔いに苦しんでいたとは思えないハシャギっぷりだよね」


 秋留が隣で砂浜に転がっている貝殻を集めている。

 その姿は、幻想士という職業を体現しているかのように神々しく、俺の精神を惑わしてくる。それ程に秋留の容姿は素晴らしい。幻想士とはまるで秋留のためにある職業のようだ。


 太陽の下で輝くピンク色の髪、透き通るような肌、強い日差しにより上気した頬、短めのスカートから覗く魅惑的な太腿……。


「いたっ!」


 突然俺の頬に鋭い痛みが走った。


「また変なこと考えてたでしょ?」


 秋留が白い眼をして言う。秋留が背中に装備している真っ赤なマントが風もないのに大きく揺れた。


 秋留の巧みな話術により手懐けられたモンスター、ブラッドマントのブラドーだ。


 こいつは主人である秋留を守るためなら同じパーティーの仲間ですら攻撃してくる危険な奴だ。

 俺が秋留に対して邪な考えを巡らせていると途端に襲い掛かってくる。

 想像くらい自由にさせてくれてもいいのに、ブラドーはそれさえも許してくれない。

 というか、なぜ俺が邪な考えをしている事がバレるのか不思議でしょうがない。


『顔に出てるんだよ』


 最近秋留に言われた台詞だ。今度秋留の事を考えながら鏡を見てみよう。


「おや? この頬の傷はどうしたのですかな?」


 荷物を持ったジェットが俺の隣に来て言った。

 デズリーアイランドという楽園に似合う、淡い水色の鎧を上品に着こなしている。

 ……が、その身体から漂うオーラは楽園に似合わない、ドス黒い死人のオーラを放ち続けている。


「は〜っくしょい!」


 ジェットが豪快なクシャミをする。


 船旅の最中に海に転落して以来、ジェットは風邪を引いている。年寄りの病気は長引くからなぁ……、と普通なら考えるのだが。


「ゾンビなのに風邪引くなんてオカシイよなぁ?」


 小声で隣の秋留に聞いたが苦笑いが返された。



「ほっほ〜。銀星も久々の地面に大ハシャギですな」


 船の上ではまるで活躍が無かった死馬の銀星は、砂浜を元気に走り回っている。

 そのゾンビ馬が嬉しそうに秋留に近づいてきた。その口には綺麗な貝殻をくわえている。


「わぁ。ありがとう銀星〜。綺麗な虹色の貝殻だね」


 秋留はそう言うと、銀星の長い顔にキスをした。

 両目をハートにして銀星が再び砂浜を走り出す。ちくしょう、銀星め。秋留の唇を簡単に奪いやがって。



 俺は綺麗な貝殻が落ちていないか、辺りを見渡した。

 真剣に見渡した。盗賊としてのこれまで得た力を全て両目に捧げて辺りを見渡す。


 遥か彼方にピンク色に輝く貝殻が光っているのが見える。そのピンクの色は秋留の髪の色のように綺麗で透き通って見える。


「ブレイブ〜、そういうの、宝の持ち腐れって言うんだよ」


 秋留が俺の事をまたしても白い眼で見ながら言った。どうやら俺の魂胆はバレバレのようだ。



 遥か彼方に見える小さな貝殻から、目の前にいる女神の輝く髪の毛の一本一本までもを、詳細に観察する事が出来る俺の眼。

 盗賊になるには並外れた洞察力と観察力が必要なのだ。それがないとお宝に仕掛けられた罠により簡単に命を落とす事になりかねないからだ。


 ……まぁ、今は秋留に対する気持ちに盗賊の能力をフル活用しているけど。


 さてと。


 俺は両腰のホルスターに収まっている金と銀の銃を取り出して、銀星と共に、遠くを走り回っている青い毛並みをした獣に照準を合わせた。


 発射音がしてすぐに、獣の足元の砂が舞った。走り回っていた獣がその場に転がる。


「ひっど〜い」


 そうは言っているが秋留は楽しそうだ。

 今転がったばかりの獣が猛然と俺に向かってきた。


「ぶ〜れ〜い〜ぶ〜」


 何と獣が喋った!

 四本足で走っていた獣が俺の目の前で二足歩行になると、両前足で俺の胸倉を掴んできた。


「俺を狙うとは良い度胸だな」


「悪い、手が滑った」


「何を狙おうとして手が滑ったのか詳しく聞かせてみろ!」


「あはは……」


 俺は頭を掻いて誤魔化した。だって、うざかったんだもの。

 それにしても、四本足で走ったり全身の毛を舐めて綺麗にしているところは、獣人が板についてきたと言える。

 まだ、それ程の月日は経っていないのだが、慣れというのは恐ろしい。



「お〜い! こっちを手伝ってくれ〜」


 遠くで船員が俺達を呼んだ。


 このデズリーアイランドまで俺達を運んでくれた船の船員達が、悪海賊達を連行していく。

 俺達は頑丈な縄で縛り付けられた海賊達を、この島の治安維持協会に引き渡すのを見守った。奴らが逃げ出したら即行で痛めつける段取りだ。


 海賊達の一人が俺達を強烈な視線で睨みつけている。海賊団の幹部ガロンだ。

 その後ろで小さくなっているのは獣使いのラムズだ。こいつは大人しい性格のため間違っても暴れたりはしないだろう。



「おお、おお。こりゃまた大量だな!」


 遠くから治安維持協会員達がゾロゾロと近づいてきた。恐らく真ん中を歩いている悪党面をした男がこの島の治安維持協会・支部長だろう。


「俺様は治安維持協会・デズニーアイランド支部長のタイガーウォンだ」


 偉そうにタイガーウォンと名乗った男が右手を差し出した。

 俺達パーティーのリーダーである獣人カリューがタイガーウォンの右手をシッカリと握って豪快に振る。

 タイガーウォンもまさか獣人がリーダーだとは思わなかったらしく、握られた手を見ながら露骨に嫌な顔をした。


「ウオッホン! それでは治安維持協会の方へ来て頂いても良いですかな?」


 元々この海賊達は、船に乗っていた船員と謎の武具商人夫婦の協力があって捕まえられたのだが、治安維持協会との話し合いは俺達パーティーに一任されていた。


 俺達はタイガーウォンと他の治安維持協会員の後について歩き出した。



 デズリーアイランドの治安維持協会は、海に浮かぶ島に相応しくカラフルな建物をしている。

 他の大陸の治安維持協会の建物は事務的な外見だったが、この島のは真っ赤なレンガに鮮やかな緑色の屋根をしていた。入り口の両脇には謎の仮面の置物まである。


「この島の守り神、ムォークムォーク大神様です」


 治安維持協会員の一人が言った。何とも胡散臭い名前だ。


 俺達は応接室に通され、座り心地の良いソファーに座った。


 暫くするとタイガーウォンが大きな鞄を抱えて部屋にに入ってきた。


「いやはや、驚いたぞ。まさかノニオーイ海賊団を壊滅させる者が現れるとはな!」


 タイガーウォンが豪快に笑った。

 唾が目の前の机に飛び散る。

 俺はこいつの事は全く好きになれそうにない。


「ノニオーイの野郎はどうした?」


「今頃は魚の餌かな」


 俺は奴の事を思い出して少しムカついた。

 あいつは俺の秋留の首を思いっきり蹴飛ばしたのだ。

 秋留はそのせいで時々痛そうな顔をする。


「殺した……という事か?」


 タイガーウォンが俺の事を睨んだ。


「ああ。爆弾で粉々になってもらった」


 俺の回答にタイガーウォンが暫く黙る。


 残念ながらこの世では魔族やモンスターだけが悪事を働くという訳ではない。悲しい事だが同じ人間同士で争うことも多い。


 訴えられたら調査。

 それが治安維持協会で定められている人殺しに関する法律だ。

 殺した相手が本当の悪人なら、遺族から訴えられる事もないだろうというのが前提となっている。


「まぁ、ノニオーイの遺族から訴えられる事なんて無いだろう。実は奴は俺がトドメを刺したかったんだがなぁ」


 タイガーウォンはそう言うと唇を舐めた。

 治安維持協会の支部長とは思えない程の悪の仕草が似合っている。


「それでは、それぞれ名前を言ってもらおうか」


 タイガーウォンが偉そうに続けた。


 近くの箱から葉巻きを取り出して火を点ける。

 俺は露骨に嫌な顔をしたが、タイガーウォンは一向に気にする素振りも見せない。


「レッド・ツイスター、リーダーのカリューだ!」


 まずはカリューが元気良く答えた。


「! お前らがレッド・ツイスターか! ……ふむふむ、色々噂は聞いているぞ」


 タイガーウォンは俺達の正体を知っても、一向に偉そうな態度を変える気はないようだ。


「さすがレッド・ツイスターと言ったところか。ノニオーイ海賊団を壊滅させたのも頷けるな」


「次はワシですな。聖騎士のジェットですじゃ」


 礼儀正しくジェットが会釈する。


「ジェット? レッド・ツイスターにそんな奴いたか?」


 タイガーウォンが怪しむような眼でジェットを睨みつける。まるでボケてしまった老人を見るような眼だ。こいつ失礼にも程があるぞ。


「ジェットは私達がレッド・ツイスターと呼ばれるようになった後にパーティーに加わったんです。大事な仲間です」


 落ち込んでしまったジェットに変わって秋留が答える。

 秋留もタイガーウォンの対応に嫌気がさしたらしく、若干語尾が強くなっている。


 タイガーウォンは黙って秋留を凝視した。その眼が秋留の頭のてっぺんからつま先までを、舐めるようにいやらしく見つめる。


 俺は我慢出来なくなり思わず立ち上がった。こいつの顔を一発ぶんなぐってやる!


 その時、俺の横を通り過ぎ、タイガーウォンの顔面に一直線に進む真っ赤な刃物、ブラドーの刃を右手で掴む。

 盗賊としての動体視力と反射神経が無ければ、タイガーウォンは串刺しになっていたかもしれない。

 ブラドーもタイガーウォンに対して敵意を抱いたようだ。


「がっはっは。さすがはレッド・ツイスター。一癖も二癖もあるような連中が集まってるな」


 一番癖があるのはてめえだ、と心の中で叫んだ。


「失礼しました。私は幻想士の秋留です。背中のマントはブラッドマントのブラドーです」


 秋留の紹介に背中のマントが鋭い牙になって構えた。ブラドーなりの威嚇に違いない。


「ふむ。そっちの黒いのは?」


 黒いの、とはどうやら俺の事らしい。

 確かに俺は上下をおそろいの黒いスーツで身を包んでいるが……。隣で秋留が小さく笑ったのが聞こえた。


「盗賊のブレイブだ」


 不機嫌さを全面にアピールしていったつもりだったが、タイガーウォンには全く伝わってはいないだろう。


「ふむふむ…」


 先程からタイガーウォンは手元のファイルをめくっている。どうやら俺達の身元の確認をしているようだ。


「あ〜ん?」


 胡散臭そうにタイガーウォンがカリューを睨み付ける。


「戦士カリュー? 獣人で登録されてはいないな!」


 まるで不正を見つけたかのようにタイガーウォンが言った。


「話せば長くなるのだが、俺は戦士……カリューだ」


 色々否定したい事があるらしくカリューは急に弱気になった。どれも説明しづらい事この上ないだろう。

 まず元人間であること、そして自称勇者であること……。


 それから三十分程タイガーウォンに俺達の冒険の話を聞かせた。


 最初は胡散臭そうに聞いていたタイガーウォンも次第に楽しそうに眼を輝かせ始めた。

 話しているのが聞きやすい秋留だからだろうか。

 秋留が幻想士として魔術を織り交ぜたりしているためだろうか。


「よしっ! 分かった。さすがに報奨金が大きいだけに色々聞いてスマンかったな」


 スマン、という態度を全く見せずにタイガーウォンが続ける。


「この鞄に5000万カリム入っている」


 ご、5000万……。俺は思わず生唾を飲み込んだ。


「ここら辺の航路を使う商船等が主に襲われていたからな。商人達からの寄付も大分含まれている」


 俺達はそれから他愛無い話を済ませると、大金の入った鞄を持って治安維持協会を後にした。


 よし! この島で船の修理を行う間に十分な休養を取る予定だし、この金を使ってデズリーアイランドで久しぶりのバカンスを楽しもう!

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