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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
荒れる獣人勇者とレベル測定大会
36/75

武有夢商会のイザベラ

「もう海の幸は食べ飽きたんだ!」


 フォークに刺したイカフライを弄びつつ、カリューがまたしても文句を言っている。


「レベル測定大会は終わったものの……、船がない事には変わりがないからのぉ」


 ジェットが食後のお茶を飲み干す。


 レベル測定大会から三日が経過した。俺達はレベル測定大会前の退屈な日々に逆戻りしていた。


「さすがに暇だよね」


 冷静な秋留にも若干焦りの色が見える。


 アステカ大陸までの航路に出現する海賊は相当手強いらしい。

 船乗り達はいよいよ俺達をアステカ大陸まで運ぶ事を嫌がるようになってしまった。


 しかもレベル測定大会最終日から続く悪天候。今、店屋の外は大荒れに荒れている。


 その時ドカドカと俺達のテーブルに近づいてくる複数の人影があった。

 フード付きのマントに全身を覆った三人組みだ。


「ちょっとよろしいでしょうか?」


 真ん中に立っていたのは男だと思っていたのだが、どうやら女性だったようだ。

 雨に塗れたフードを外すと眉毛がキリリとした強気な女性の顔が現れた。歳は30位だろうか。


「何事ですかな?」


 俺達の保護者役のジェットが向きを代えて女性に聞く。


「レベル測定大会、拝見させて頂きました」


 レベル測定大会に参加していないジェットは、少し申し訳無さそうにうつむいた。


「さすがはレッド・ツイスターと言ったところでしょうか……」


「俺達を褒めに来てくれたのか?」


 先程からピリピリしている獣人のカリューが迫力満点な口で言う。

 普通の女性なら卒倒してしまいそうな迫力だが、目の前の女性は臆する様子を微塵も見せない。


「では、早速本題に入りましょう。空いてる席に座ってもいいかしら?」


 カリューとジェットの間の空いている席に女性が座る。お供の二人がその後ろに立った。


「まずは自己紹介から。わたくしの名前はイザベラ。武具屋を経営しています」


 イザベラと名乗った女性は後方の二人の方を振り返り自己紹介を続ける。


「左が主人のリー、右が用心棒のクログローです」


 イザベラの自己紹介を受けて背の高い男がフードを外す。亜細李亜大陸の物と思われる衣装を着こなす温和そうな眼をした男だ。真っ黒な髪を後ろで小さく縛っている。眼の間にあるホクロが目立った。


 ちなみに秋留は亜細李亜大陸出身だったりする。


「知り合い?」


 俺は小さく秋留に聞いてみた。


「亜細李亜大陸が他の大陸に比べて小さいからって、そう簡単に知り合いに会ったりしないよ!」


 秋留が口を膨らませて反論した。俺に馬鹿にされた事が分かったらしい。


「老人と若造ばかりのパーティーが役に立つんですかい?」


 クログローと紹介された黒色人種の男がダミ声でムカツク事を言う。危うくネカーとネマーを構えそうになった。


「口を慎みなさい! クログロー!」


 何事の反論も許さない口調でイザベラがクログローに言う。


「申し訳ございません、イザベラ様……」


 体格の良いクログローが小さくなった。いい気味だ。


「で、武具屋の主人が私達に何のようですか?」


 俺達パーティーの中で頭の回転がズバ抜けて良く、交渉事に強い秋留が答える。

 交渉役が秋留だと気づいたイザベラが目の前の秋留に視線を投げた。その眼で俺達を値踏みしているようだ。


「巷で聞いた噂なのですが、皆様、アステカ大陸に向かいたいとか……」


 秋留は何も答えない。イザベラが一息置いて続ける。


「実は私達もアステカ大陸に急いで行かなければならない理由があります」


「……商売ね。大量の武器や防具をアステカ大陸に届けたい。それにはこの港町でいつまでも足止めを食ってる訳にはいかないと言ったところかな?」


 イザベラの説明に秋留が間髪あけずに答えた。

 イザベラは小さく微笑み、更に話を続ける。


「そこまで分かっていらっしゃるなら、この先の話も分かって頂けるかしら?」


「アステカ大陸行きの船にタダで乗せてあげる代わりに貴方達の護衛をしろと?」


「その通りでございます……」


 そこまで話すと向かい合った二人の視線が激しく交差し始めた。盗賊の俺の眼になら火花が見える……気がする。


 ……少し息苦しくなってきた。


 いつまで睨み合っているつもりだろう。リーと呼ばれたイザベラの夫にも焦りが見える。


「仮に護衛に失敗した場合は?」


「その場で船を降りてもらおうかしら?」


 沈黙を破った秋留の台詞に鬼のような応答をイザベラが笑顔で返す。


「ふふ、楽しそうだね」


「ええ、今の時期なら十分に泳げますよ」


 尚も女同士の熾烈な戦いは続く。

 しかし俺の予想を裏切り、秋留が笑顔で続けた。


「任せて! イザベラさん達の事は私達の命に代えても守ってみせるよ」


『え?』


 周りで事の成り行きを見守っていた男達や同じく遠巻きに見ていた店員や他の客を含んだ全員が一斉に間抜けな声を挙げた。

 今の会話のやりとりで、二人の女性はどうして円満解決な顔をしていられるのだろうか?


「頼りにしてるわよ、レッド・ツイスターの皆さん」


 イザベラが俺達の顔を見渡しながら言う。その言葉に対して思わず苦笑いで返す。


「さて、話はまとまりましたが、こちらから提案させてもらいたい事があります」


 紅茶を一杯飲んでイザベラが言った。次は何を言われるのかドキドキしてしまう。


「先程クログローが言った言葉、全く考えていないという訳ではありません」


 俺が露骨にムカついた「役に立つのか」という台詞だろう。それ以外には奴は何も喋っていない。


「明日の朝九時、文芸堂という劇場の前でお待ちしています」


 そう言うとイザベラとお供の二人は席を立った。その手には俺達の昼食の伝票を握っている。


「ではまた明日……」


 再び三人はフードを被ると店を出て行った。


 会計を済ませる時に「領収書を……武有夢ブーム商会で……」という言葉は聞き逃さなかった。さすが商人は一味違う。俺以上に金に関してはうるさそうだ。


『…………』


 一同、暫しの沈黙。


「ふふ、結局タダで船に乗れるんだからオッケーでしょ」


 秋留が嬉しそうに言う。

 確かに話の内容的には俺達に不利な気がしたが、払う予定だった船代を払わずに済んだのは確かだ。


「カリューも悪い海賊とかモンスターが襲ってきたら、正義の名の下に切り伏せちゃってね」


「正義……。おう! 任せろ!」


 今まで放心状態だったカリューがガッツポーズで答える。こいつは単純で良いな。


「ブレイブもオッケーだよね?」


「勿論! 余計な金を払わずに済んで良かったな。船に乗って何かに襲われれば戦うのは当たり前だしな」


 例え異論があったとしても、そんな可愛い顔で「オッケーだよね?」と言われれば頷くしかない。


「ワシも勿論、秋留殿に文句などないですぞ」


 秋留の下僕であるジェットはお茶をズズズと飲んだ。




 翌朝もヤードは荒れていた。この時期特有の台風が近づいてきているらしい。宿屋の目の前の通りは葉や紙くずが散らかっている。朝早くから掃除をしている元気なオバちゃんの姿も見える。


「いつになったら晴れるのかのぉ」


 顔に張りついた紙切れを、律儀に近くのゴミ箱に捨ててジェットが言った。


「とにかく、やっとこの大陸ともオサラバ出来そうで何よりだ」


 カリューがデカイ口で豪快に笑う。朝早くから近所迷惑な奴だ。


 俺達はイザベラに指定された文芸堂という劇場目指して、人気もまばらな大通りを歩き始めた。


 向かい風で少し歩きにくかったが、俺達は予定の30分前に文芸堂の前の広場に到着した。


 広場のベンチに思いがけない奴が座っているのに気づく。


「おや、盗賊ブレイブさんとその仲間達じゃないですか」


 趣味の悪いサングラスを直しつつ、海賊ノニオーイが近づいてきた。

 レベル測定大会の時と同様に白いスーツに身を包んでいる。

 ノニオーイの周りに個性豊かな顔ぶれが集まって来た。同じパーティーのメンバーだろうか?


「あら? お知り合いだったの?」


 俺達の後ろからイザベラが近づいてきて言った。その左右には昨日と同じようにリーとクログローが控えている。


 イザベラ達は文芸堂の前に立って俺達の方を振り返った。今気づいたのだが、リーとクログローの肩には妖精インスペクターが数匹乗っかっている。


「お知り合いでも関係はありません。これから貴方達二つのパーティーに勝負をしてもらいます」


 単刀直入にイザベラが言う。


「へっ! こんなショボイ奴らと勝負しろだと〜?」


 少し離れた場所にある石垣に座っていた男がイザベラの言葉に反応する。

 緑色の服に身を包んだ男はタバコをくわえた口から煙を吐き出した。


 緑色の帽子を被り右目は真っ白い髪で隠れていて見えないが、左目にはスコープの様な物を装備している。職業は銃士だろうか。


「おい! ガロン! そんな事を言ったら失礼だろう!」


 魚屋のようなゴムのツナギを穿いた男が注意する。あいつはどこかで見た事あるぞ。


「ラムズは真面目過ぎるんだ。だからレベル測定大会で恥ずかしい結果になるんだぞ」


 どこかで見た事ある顔だと思ったらトップバッターの海賊ラムズだったか。まさかノニオーイのパーティーのメンバーだったとは……。


「こらこら、仲良くしろ!」


 ノニオーイが間に割って入る。サングラスの向こう側でノニオーイの力強い視線を感じた。


「なかなか楽しそうなパーティーだな」


 俺は皮肉を込めて言ったがノニオーイは動じない。


「役者が揃ったところで早速説明させてもらおうかしら」


 イザベラが一歩前に出る。お付の二人もそれに続いた。


「これから一人ひとりにインスペクターを渡します」


 イザベラの説明と共にお付の二人がそれぞれのパーティーのメンバーにインスペクターを一匹ずつ渡す。

 あれ? 向こうのパーティーのインスペクターが一匹多いぞ。


「! なんだ、そいつは?」


 カリューがノニオーイに向かって指をさす。いや、正確にはノニオーイの真後ろだ。


「拙者、染次郎と申す。以後、お見知りおきを」


 ノニオーイの後ろから声が聞こえたが、気配だけで姿は見えない。


「こいつは気にするな。イザベラさん、説明を続けてください」


 無口な染次郎に代わって、目立ちたがり屋のノニオーイが先を促す。

 冷静なイザベラは暫く固まっていたが、気を取り直して再び説明し始めた。


「これから互いのパーティーに、内容の異なる紙を一枚渡します……」


 イザベラの説明によると、要するに俺達にこの港町を舞台にした宝探しゲームをしろという事らしかった。


 最終的に辿り着く宝のありかは互いのパーティーで同じらしい。


 相手のパーティーの邪魔をするのも自由という事だった。

 その説明を聞いた時のノニオーイ達の憎たらしい顔は忘れられない。

 ちなみに同じタイミングで秋留が小悪魔の様な顔をしたのは気のせいだろうか。


「おほん! ……それでは……」


 イザベラの説明が終わると、後ろで控えていたクログローが前へ一歩出て言った。


「依頼争奪! パーティーバトル! スターーーーート!」

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