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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
荒れる獣人勇者とレベル測定大会
34/75

レベル測定大会 1日目

 翌日。


 ここ何日か晴れが続いていたが、今日は空に雲が多く見えた。港町を吹き抜ける風は少し湿っている。

 しかし空模様とは対照的に大通りには沢山の屋台が軒を連ねていた。至る所から良い匂いがしてくる。


「ブレイブは何か食べないの?」


 秋留はどこで調達してきたのか、たこ焼きを頬張りながら言った。


「中々美味いぜ!」


 カリューまで右手にイカ焼き、左手にフランクフルトを持っている。


「沢山食べないと大会で力を出せないぞ」


 カリューの台詞に俺は銭袋から硬貨を取り出し、右前方に見えていたお好み焼き屋に向かった。


「すみませんが、お好み焼きを一つ下さい」


 俺が言う前に隣の男が出店の主人に言った。全身白い服で身を固めた昨日の胡散臭い男だ。


「おや、昨日の……また先に取ってしまいましたか?」


「いや、気にするな」


 突然話しかけられる事に慣れていない俺は、不機嫌っぷりを見せないように答える。


「え〜っと、名前を伺っていませんでしたね。職業は何ですか?」


 仕方なく答えようとした時、続けて男が喋る。


「ああ、すみません。私から自己紹介するのが礼儀ですね」


 そこで男は赤いサングラスを直した。


「私の名前はノニオーイ。職業は海賊です」


 海賊。


 盗賊とほぼ同じ能力を持っているのだが、海賊の職業は船を操る能力に長けている。


 アステカ大陸への航路で悪さをしている海賊と名前は同じなのだが、正式に冒険者として活動しているかで異なってくる。

 それは盗賊でも同じ事が言え、海賊や盗賊は冒険者として活動していても余り良い眼で見られる事はない。


「ブレイブ、盗賊だ」


 俺はそれだけ言うと、店の親父に金を払ってお好み焼きを受け取った。


「あの方とはお知り合いなのですかな?」


 戻ってきた俺にジェットが聞いてきた。


「昨日、開会式で会ったんだ。ジェットは知ってるのか?」


 ノニオーイはジェットが最近見た冒険者クラブという雑誌で紹介されていたらしい。


 海賊ノニオーイ、年齢は41歳という事だが、実際はもう少し若く見えた。

 今まで職業に就いていなかったという事だが、アステカ大陸で実施されたレベル測定大会で初めてエントリーし、レベル46と認定されたらしい。

 俺の前回の認定レベルは34だったから、レベルは俺より高い事になる。


「頑張ってね、ブレイブ。嘘つき海賊になんか負けるな〜」


 昨日、美の女神を見つけられなかった秋留が俺を励ました。秋留の励ましは全てに勝る。


「観客席から見ていますから、皆さん、頑張ってくだされ!」


 ……残念ながらジェットの励ましは効果が無かった。



 レベル測定大会は、昨日のホールではなく町の隣に急遽立てられた特設ステージで行われる。

 特設ステージに向かう途中の屋台をほとんど制覇した俺達は気力十分だ。


「グルルルル〜」


 興奮したカリューが喉を不気味に鳴らす。


「じゃあ、また後でね」


 残念ながら、職業毎に集合場所が違うために秋留とは離れ離れにならなければいけなかった。

 俺は秋留に手を振りながら集合場所に進んだ。カリューは無視だ。


 『盗賊』『海賊』と書かれたプラカードと、そこから少し離れた所にノニオーイがいるのが見える。


「レッド・ツイスターのブレイブだ」


「わたし、ちょっとファンなんだよねぇ」


 周りでザワザワと俺の噂話が聞こえる。悪くは無い。


「あ、ノニオーイだぜ」


「彼、紳士だよね。私はノニオーイの方が断然いいわ」


 前言撤回。世の盗賊・海賊に俺の力を見せつけてやる。賞金と賞品は俺の物だ。


『えー、まずは職業毎に体力測定を始めて下さい』


 拡声器から昨日のオッサンの声が聞こえてくる。さすがにこの広い会場内のどこにいるのかは分からない。


「じゃあ番号と名前呼びますので、順番に前に出て来て下さい」


 レベル認定友の会のメンバーらしき人物が声を張り上げる。


「一番、海賊ラムズさん」


 どうやら盗賊と海賊は同じ場所でレベル測定を実施するらしい。

 ラムズと呼ばれた痩せて気弱そうな男が、冒険者として最低限必要な握力や柔軟性を測定し始める。


 観客のために測定結果が会場中央に設置されている巨大な掲示板に表示された。


 ラムズの測定結果は……最低だ。

 本人も恥ずかしそうに顔を赤らめている。これは相当緊張しそうだ。


 次々と名前が呼ばれていく中で好成績を残していく者もいる。


「56番、盗賊ブレイブさん」


 握力、ジャンプ力はまぁまぁの成績だ。

 身体の硬い俺は柔軟性はあまり良くない。それでも会場からはワッと歓声があがる。


「57番、海賊ノニオーイさん」


 よりにもよって俺の次はあのキザ野郎か。

 再び歓声があがった。結果は俺と良い勝負の様だ。握力は奴の方があるが、ジャンプ力は俺の方がある。


「おおおお! 何だアイツ!」


 戦士の測定会場で歓声があがった。

 何とかレベル測定大会への参加が許された自称勇者のカリューが測定しているのだ。

 ジャンプ力も握力も桁が違う。今のところ、戦士の中ではダントツトップだ。


「良い仲間をお持ちでございますな」


 いつの間にか隣に来ていたノニオーイが言う。

 近づく気配を感じさせなかったところは、さすがレベル46だ。


 別の会場では秋留もレベル測定をしているのだろうが、最初の筋力や体力の測定では目立つ事はないだろう。


「全員測定が終わりましたので、次は命中率と集中力の測定を行います!」


 係員が再び叫ぶ。次の項目は俺が最も得意とする内容だ。


「では一番の海賊ラムズさんから〜」


 ガチガチに固まったラムズが左手と左足を一緒に出しながら歩いていく。ありゃあプレッシャーに負けたな。


「残念な事ですね。本来の力を出せないとは……。その点、ブレイブさんは大丈夫そうですね」


 馴れ馴れしいノニオーイが一部だけ白く染まっている前髪を弄びつつ言った。


 その後も本来の実力を出せない人が何人かいたようだが、暫くして再び俺の名前が呼ばれた。


 俺は10メートル程離れた的を睨みつける。


 ちなみに命中率の測定では投げる武器は自分である程度選べるし、投げる時の動作でも技術点が付く。


 俺は比較的得意な短剣を片手で5本ずつ、合計10本を持ち、投げラインに立つ。


「それでは始めて下さい」


 係員の指示を受け、俺は集中力と高め再度、的を睨む。

 ひと呼吸置き、その場で前転や側転、ジャンプをしながら全ての短剣を投げつけた。


 俺の投げた短剣は全てマトの中央に突き刺さった。

 会場からは歓声が上がる。

 どこからか「さすがブレイブ、大好き!」という秋留の声が聞こえた気がする。幻聴ではないと思いたい……。


「幻聴ですよ、次は私ですので下がってください」


 俺の心の中を読んだノニオーイが前に入ってくる。

 さすがレベルの高い海賊だ。洞察力は俺よりもあるかもしれない。


 ノニオーイも俺と同じ様に短剣を両手に持って構える。


「はっ!」


 気合と共に発した声と同時に全ての短剣がマトに突き刺さった。こいつ、腕の動きが俺より速い!


 命中率測定の結果はノニオーイの圧勝だった。同時に短剣を投げて、同時にマトの中央に当てるのはかなりの技術が必要だからだ。俺もそこまでは出来る自信がない。


 その後も集中力や反射神経の測定が続き、この測定大会の目玉でもある実践試験となった。


『あー、では本日のメインイベントである実践試験です!』


 拡声器から司会と思われる男の声が聞こえる。


 盗賊の実践試験は、トラップの沢山ある館に侵入して宝を取って来るという内容だ。


 試験の進み具合は、頭がカメラになっているインスペクターという妖精から、中央の巨大スクリーンに映像が映し出されるという仕組みらしい。


 ちなみに海賊の試験には実際に試験用の船を操るという内容もあるようだ。


『えー、まずは武道家の実践試験から始めます!』


 武道家の実践試験はレベルの高い武道家と戦うという内容らしい。


 冒険者クラブでも有名な『ゴッドハンド』の異名を持つ武道家トリカローが姿を現す。その拳は全てを破壊する事が出来ると言われている。


 その伝説ともなっているトリカローが相手とあって、武道家達は舞い上がっているようだ。


「結構頑張ったみたいだね」


 実践試験の間は他の職業は休憩となるため、俺は秋留の隣まで来て武道家の試験を観戦する事にした。


「あの海賊野郎が中々しぶとくてね」


 俺は秋留に答える。


「俺は単独一位だ。ブレイブも秋留もまだまだだな」


 呼んでもいないのに自慢の鼻を使って俺達の居場所を探し当てたカリューが、隣で自慢して言った。


 俺は盗賊の中では四位、秋留は幻想士の中では二位のようだ。

 世の中にはまだまだ上がいる事を実感する。ちなみにノニオーイは海賊の中で三位だ。


「はあっ!」


「やあっ!」


 トリカローに正拳突きや回し蹴りを放つ、武道家の気合の入った声が聞こえてくる。


 この実践試験ではあくまで武道家の力を測定することである。だからトリカローは反撃する事はない。その強靭な身体で武道家達の攻撃を防いだり避けたりしている。

 中にはトリカローに攻撃を当てる強者もいる。


「暇だな」


 そう言うとカリューはその場で横になりイビキをかいて寝始めた。


 俺と秋留はその場に座り込んでサービスの茶を飲む。


 ぼけ〜っと観戦する事一時間。どうやら武道家の実践は終わったようだ。


『続きまして、僧侶の……』


 武道家以上に暇になると予想した俺は、カリューを見習って寝る事にした。秋留も座りながらウトウトしている。



 どれ位時間が経っただろうか。カリューの名前が呼ばれる声で俺は眼を覚ました。


「あ、起こそうと思っていたところだよ、いよいよカリューの番だよ」


 寝ぼけ眼で戦士用の闘技場を見る。頑丈な鉄の柵で囲まれた闘技場の中心にカリューがいた。試験用の装備とロングソードを右手に持っている。


「戦士の実践試験は、ネクロマンサーによる擬似モンスター戦闘だよ」


 秋留の説明と同時に鉄の柵の外にいた複数のネクロマンサーらしき男女が、呪文を唱え始めた。

 一瞬でカリューは大小様々なモンスターに囲まれる。


 カリューの興奮している息遣いがここまで聞こえてくるようだ。


『それでは、単独トップの戦士カリューさんの実践試験を開始して下さい!』


 アナウンスの人を若干睨みつけてカリューが回りのモンスターを斬りつけた。

 その剣捌きは力強く荒々しい。しかし的確に敵の急所を突き、次々とゾンビモンスターを切り刻んでいく。

 あまりの戦闘の速さに柵の外で呪文を唱えているネクロマンサー達の顔も険しくなる。


「ウオオオオオン!」


 カリューの咆哮が会場中に響き渡る。


「凄いね」


「ああ、相変わらず人間離れしているな」


「ふふっ」


 秋留が俺の台詞に小さく笑う。その笑顔がとても素敵だ。


「素敵な笑顔ですね」


 いつの間にやって来たのか、ノニオーイが秋留の顔を覗き込んで言った。俺の台詞を取りやがって!


「貴方も常に笑っているわね」


「え? ええ、秋留さんを見ているとなぜか笑顔になってしまうんですよ」


 再び片足をついてノニオーイが言う。俺はネカーとネマーに手をかけた。


「俺はお前の趣味の悪いサングラス見てると笑顔になっちまうよ」


 俺の台詞にノニオーイの笑顔が固まる。


「あはは!」


 秋留の笑いを背にノニオーイが立ち去っていった。何となくスッキリした俺はカリューに眼を移す。

 どうやら既に実践試験が終了したらしい。


「どうだった?」


「人間とは思えない戦いっぷりだったぞ」


 俺の嫌味に気づかないカリューは「そうだろ?」と嬉しそうに答える。


「今日のレベル測定大会はこれで終わりみたいだね」


 秋留が伸びをしながら立ち上がる。


「明日は俺と秋留の実践試験があるのかな?」


「え? 私の実践試験はもう終わったけど?」


 秋留が衝撃的な回答をする。


 どうやら俺が寝ている間に秋留の実践試験が終わってしまったようだ。

 秋留が闘技場に行った時も名前を呼ばれた時も気づかなかった。

 まさか俺に変な呪文かけて眠らせていたんじゃ……と疑わしい眼を秋留に投げかけたが、全然そんな風には見えない。


「私の実践が見れなくて残念だったね、ブレイブ!」


 悪戯っぽい笑顔に何も言えないまま、俺達はレベル測定会場を後にした。

 何か秋留に一服盛られた気がするが、明日は2日目、最終日だ。




「皆さん、頑張りましたな」


 大通りで俺達の帰りを待っていたジェットが言った。

 やはり自分が参加出来なかった事で少し落ち込んでいるようだ。


「秋留殿の実践は見物でしたな。まさかあそこであんな幻想術を使うとはのぉ」


 俺は無言でジェットを睨む。ジェットは不思議そうな顔をした。


「とりあえず腹が減ったな」


 カリューの腹が豪快に鳴っているのが聞こえる。


 俺達は馴染みの飯屋に入ると適当に空腹を満たして宿屋に戻った。


 明日はより気合を入れて頑張らないと、賞品を他の奴に持っていかれてしまう。

 俺は意気込みを新たにし、ベッドに入るとすぐに眠りについた。

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