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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
荒れる獣人勇者とレベル測定大会
33/75

レベル測定大会 開会式

 あっという間に一週間が経過した。

 あれからもう一回カリューの運動に付き合わされたが、それ以外は何とかノンビリとした時を過ごせた。


 今日はレベル測定大会初日、開会式がヤードの海際に建っている多目的ホールで行われる。

 ここで参加者登録も行われるため、かったるい開会式にも出なくてはいけない。


「早く準備しろ〜!」


 気の早いカリューが部屋の外で怒鳴っている。開会式は午後の二時から。今はまだ十時……。

 まだ起きたばっかりなんですけど。

 遠足前の子供か、お前は。


「カリュー、早いね〜」


「お、秋留。珍しく早いな」


「今日は早く眼が覚めちゃったんだよ〜。もっと寝ていたかったんだけど……」


「やっぱり秋留も興奮して眠れなかったのかぁ! 俺も興奮して眠れなかったんだ!」


 ドアの外で秋留と会話しているカリューに、激しい嫉妬心を抱きながら急いで出かける準備をした。

 今日は開会式だけだが、沢山の冒険者が集まるので馬鹿にされない様な装備をしていかないといけない。


 俺は内側に色々と仕込んでいる袖のないコートを羽織った。

 このコートは飛竜の羽で出来ている特別性で、羽自体に浮力があるため、内側に装備した物が若干軽くなる。


「待たせたな」


 若干息を切らしながら勢い良くドアを開けた。派手な音を立ててドアがカリューの顔面に当たった。


「おはよ、ブレイブ」


「おはよう、秋留! 今日もとってもきれ……」


 「とっても綺麗だね」と危うく本心を声に出しそうになったのを、口を押さえて防ぐ。


「うん?」


 秋留が可愛く頭を傾げる。


「とってもキレが良いね!」


 なんとか訳の分からない事を言って誤魔化した。

 秋留は苦笑いをして「まだ寝ぼけているんだね」という眼で俺を見た。そんな眼で俺を見ないでくれ……。


「皆さん、揃いましたな」


 ジェットが自分の部屋から顔を出した。しっかりと装備をしている。


「あれ? 今日は留守番しているんじゃなかったの?」


「昨日フィッシュさんに聞いたんじゃが、今回のレベル測定大会は冒険者ではない一般人も見物する事が出来るらしいですぞ」


「え〜〜〜!」


 俺は思わず大声を上げてしまった。一般人に見られる……。俺は基本的に人に注目されるのが大嫌いだ。

 レベル認定友の会め! 金儲けのために冒険者を見世物にしやがって。


「一般人共に俺の強さを見せる時が来たな!」


 カリューは一段と気合が入ったようだ。

 秋留もどこか嬉しそうだ。人に注目されるのが嫌いではないのだろうか。


「お! 勇者パーティー御一行様の出発かな?」


 宿屋の親父が宿屋のドアの前で待ち構えていた。朝から元気が良いもんだ。


「親父も見に来るのか? レベル測定大会」


「俺は店があるからな。大人しく留守番しているよ」


 自称勇者カリューの問いに親父が心底残念そうに答える。

 てめえは来るんじゃねえ!

 少しでも一般人の見物人を減らしておかないと、いつもの半分も力が出せなくなるじゃないか。



 眩しすぎる太陽が俺達を照らす。開会式にピッタリの雲一つ無い快晴だ。


「太陽も俺の活躍を期待しているようだな」


 若干暴走気味のカリューが言う。

 獣人化したせいで性格も変わってきているようだ。前は冗談も通じないような生真面目人間だったのに。


 宿屋の前の大通りはレベル測定大会開会式に向かう冒険者で溢れていた。そいつらの眼が俺達に向けられているのが分かる。


「あ、秋留だぜ。相変わらず可愛いよな」


「レッド・ツイスターだな。カリューの姿が見えないぞ」


「代わりに獣人を仲間に入れたのかしら」


 通りを行く冒険者達のヒソヒソ声が隣で話しているかのように聞こえてくる。

 俺の盗賊としての能力のお陰で少し離れた会話も手に取るように分かってしまう。


 とりあえず秋留の事をイヤらしい目で見ながら喋っている奴の脳天に硬貨をブチ込んでやろうか。


「俺達も腹ごしらえをしてから開会式に向かおうぜ」


 カリューが獣人になって豪快になった舌を出して、大きく舌舐めずりをする。

 その迫力のある光景を見て、何人かの冒険者が怖気づいた。奴らはまだまだヒヨッコに違いない。


「どの店も混んでいる様ですなぁ」


「今回のレベル測定大会は一般人の見物人も多そうだからね」


 レベル測定大会の経済効果は大きそうだ。その利益の何割かを俺に分けたりとかはないのだろうか?


「あの角の店は空いてそうだぞ」


 俺は大通りから少し入った所にあるパスタ屋を指差して言った。神経を集中させて観察したところ、まだまだ空き席はありそうだ。


「んじゃ行くか」



「いらっしゃいまっせ〜」


 店の扉を開けた途端にパートらしきオバちゃんが笑顔で言う。


「あんた達もレベル測定大会に参加するのかい?」


 図々しいオバちゃんが気さくに話しかけてくる。駄目だ、人見知りの激しい俺には生きていけそうにない。

 別の店を探すしかないか。


「うちの店は冒険者を応援しているから、冒険者にはいつもの半額で食事して貰っているよ」


 店を出ようとしていた俺の脚がオバちゃんの台詞で止まる。しょうがないな。この店で我慢しよう。


 俺達は厨房の近くの席に案内された。ニンニクの香りが胃を刺激する。

 俺達はそれぞれ違うメニューを注文して運ばれてくるのを待った。


「緊張しているのか? ブレイブ?」


 鼻をヒクヒクさせながらカリューが言う。その滑稽な見た目に思わず笑いそうになった。


「いや、お前のお陰で少し緊張がほぐれたよ」


 カリューの頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える。


「お待ちどうさま!」


 オバちゃんが器用に両手に四皿分のスパゲティを持ってやってきた。俺の注文した海の幸のカルボナーラも美味そうだが、秋留の頼んだカニとタラコのソースパスタも美味そうだ。


「少しあげよっか?」


 さぞかし羨ましそうな眼で見ていたのだろうか?

 秋留が自分のパスタを小皿に移してくれた。俺も御礼に小皿に自分のパスタを盛る。


「美味いな〜」


 カルボナーラも美味いが、秋留の頼んだソースパスタも美味い。


「カルボナーラも美味しいよ」


 秋留が笑顔で答える。その笑顔が一番綺麗で美味しそうだ。


「お前らカップルみたいだな」


 カリューが突然爆弾発言をする。

 俺は口に含んでいたパスタをカリューの顔にぶちまけた。普段慌てない秋留も顔を真っ赤にして咳をしている。


「ワシと婆さんの若い頃の事を思い出しますなぁ」


 ジェットが遠い眼をしている。ジェットの奥さんはジェットが生きていた時に他界している。


「ブレイブ〜! テメエはいつもワザとか、それは! 今朝もドアを俺の高い鼻にブチ当てやがって!」


 こうして五月蝿いけど少し幸せな気持ちも出来た食事は幕を下ろした。




 『港町ヤード開催 レベル測定大会 開会式』


 俺達の目の前の巨大なアーチに大きく文字が書かれている。

 多目的ホールには冒険者が続々と入っていっているが、一般人は開会式には参加出来ないようだ。


「ここに座ろうぜ」


 三席続いて空いている場所にカリューが進む。


 と目の前で俺達が座ろうとした席に、真っ白なスーツを身に纏った男が先に腰を掛けた。


 俺達が後ろで立ち止まったのに気づいたのか、その男が振り返る。


「ああ、すみません。席を取ってしまいましたね。私は移動致しますので……」


 俺の服装とは正反対の色をした謎の男はそう言って席を立った。


 人に全く不安を与えないカリスマ的な声。

 しかし誠実そうな見た目とは裏腹に俺はコイツに危険な感じを持った。

 赤い色の入ったサングラスの向こうではどんな危険な眼をしているのか分かったものではない。


「………」


 俺の服装と顔を見て男が暫く立ち止まった。


「中々良いセンスをしていますね」


 感情がこもっている様でこもっていない声で言う。俺にはそれが分かった。


「おお! 美の女神がこんな所に!」


 次に男は秋留の目の前で片足をついて言った。こいつ俺が言いたくても言えない事をサラリと言いやがって。


 しかし秋留は男の台詞に周りをキョロキョロして「どこ?」ととぼけている。


 男は諦めたのか俺達から少し離れた別の席に腰を下ろした。


「じゃあ座るか」


 カリューが謎の男の存在など無かったかのように、そのまま席に着いた。

 勿論俺は秋留の隣に腰を下ろす。


「さっきのジジイは何だったんだろうな」


 見た目は三十歳位だった謎の男の事について秋留に聞く。


「美の女神なんてどこにいるんだろうね」


 真面目に言っているのか分からない調子で秋留が答えた。


『一同、静粛に!』


 ホールの至る所に設置されている拡声器から、舞台に立っている初老の男の声が響き渡った。


『あー、これよりレベル測定大会、開会式を始める!』


 これから退屈な時間が始まりそうだ。俺は早速両腕を組んで眠る体勢に入った。

 俺は盗賊としての特技の他に、時と場所を選ばずにすぐに眠りにつけるという特技も持っている。



「……ぐ〜」


「……ぐ〜」



『であるからして……。あー、冒険者の皆様にはお詫びと言っては何だが、各職業で取り分け目立つ成績を残した者に、えー、レベル認定友の会から賞金と特別な商品をプレゼントしたいと思う!』


 俺の耳にステージで話している偉そうなオッサンの重要な台詞だけ耳に入った。


 俺はカッと鋭く眼を開ける。

 ステージ上には包みに入った数々の商品と『100万カリム』と書かれた大きな作り物の小切手が飾られている。


「さすがブレイブ! 美味しいところではちゃんと起きるんだな」


 カリューがすかさずツッコんだ。

 俺の隣で秋留はまだ寝ているが、元盗賊でもある秋留は今のオッサンの台詞をしっかりと聞いている事だろう。

 何か俯いてはいるけど口がニヤリと笑っているし。



 宿屋へと帰る道の途中で、外で待っていたジェットと合流した。


「俺は俄然やる気が出たね!」


 俺はジェットに親指を立てる。


「現金な奴だよ、お前は」


「まぁ見世物にされるんだから、それくらい当然でしょ」


 カリューの台詞に秋留が答える。


 明日はレベル測定大会本番だ。今回のレベル測定大会は前半と後半の二日に分かれている。久しぶりに有意義な運動が出来そうだ。


 それにしても……。


「何かお祭りが開催されるようですな」


 ジェットの言う通り、港町ヤードはお祭りムード満載だ。

 大通りの左右には色とりどりの簡易テントが張られ何かを焼ける様なコンロが設置されている。


「屋台出るのかな? 凄い楽しみ!」


 秋留はピョンピョンと跳ねて嬉しそうだ。

 カリューやジェットも楽しそうに辺りを見渡す。


「いやはや、祭りというのは何歳になっても良いもんですな〜」


 いささか歳の取りすぎたジェットが言った。

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