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洞窟クリア

 遠くのマウスラフレシアが癒合の雫の効果を受ける……。これはどういう事なのだろう。

 それにあの奥のマウスラフレシア……。

 あまり俺達を襲ってくるような気配を見せない。

 逆に回りのマウスラフレシア達が壁際の奴の事を守っている様にも見える。


 あいつが怪しいのは確かなのだが、それだけではこの洞窟を抜け出せる事は出来ない。何とかしてこの洞窟の主を引っ張り出さなくては……。


 集中するために瞑っていた眼を再び開ける。

 目の前ではジェットが怒涛の様にマウスラフレシアを切り刻んでいる。それ程の恨みがマウスラフレシアにはあるという事か。


「うにゃああああ!」


 クロノの叫び声が響き渡った。

 どうやらマウスラフレシアの強烈な一撃を食らった様だ。クロノは左脇を抑えて呻いている。


「さっきから変な虫が飛んでて気が散るニャ」


 虫?


 そういえば、いつからか金色の虫と戯れているクロノの姿を目撃していたな。


 俺はクロノが気にしている金色の虫を探すために眼に力を入れた。

 部屋をグルリと見渡すと丁度、秋留の後方に金色の虫が飛んでいるのが見えた。盗賊としての俺の眼に見えない物はない!


 暫く虫の動きを追っていると、パーティーのメンバーの傍を暫く浮遊してから次のメンバーの傍へと浮遊している。


 俺はあまり金色の虫を凝視しないように無視しつつ仲間達の援護をする。

 今、金色の虫は俺の横を浮遊している。


 ネカーとネマーをマウスラフレシアに乱射しながら、視界を通り過ぎる金色の虫に集中する。


 ……カメラ?


 俺は動揺しない様にネカーとネマーでマウスラフレシアを攻撃し続けた。


 金色の虫の頭はカメラの様な形をしていた。


 魔族討伐組合では依頼を達成した事を証明するために、インスペクターという頭にカメラがついた妖精を貸してくれる。今の虫はまるでインスペクターの小型版の様だった。


 金色の虫は俺達を監視しているのか?


 なぜ?


 それは、あの虫で俺達の洞窟の進み具合を監視して罠を作動させていたからだろう。


 誰が?


 マウスラフレシアが大量に出現するこの場所が最終目的なら、洞窟の主の目的は高価な魔楽果……。


「な〜るほど」


 俺はネカーとネマーを乱射しながら一人呟いた。


「何か分かったんですかな?」


 肩で息をしながらジェットが小声で聞いたきた。全身がマウスラフレシアから浴びた茶色い返り血で染まっている。

 俺は背中に背負っているバックから小さな玉を三個取り出した。


「これをまた使ってみるか……」


 バックの底の方にあった小型の黒い物体も同時に取り出す。


 準備を終えた俺はネカーとネマーを構えながら再三のチャレンジとなる戦渦へと飛び込んだ。

 俺の意図を察したかの様に辺りのマウスラフレシアが一斉に攻撃を仕掛けてくる。

 俺はネカーとネマーを構えて片手に持った小さな三個の玉を地面に投げつけた。

 地面に叩きつけられた玉が破裂して、辺り一面が真っ白い煙に包まれる。


「こらあああ! ブレイブ! お前はいつも何かやる前に一言俺達に言ええええ!」


 カリューが煙に覆われた中から大声を出す。

 辺りの視界はゼロの筈なのに、マウスラフレシアの混乱した攻撃をかわして、俺が渡した短剣で切り刻んでいるのは野生の勘が成せる技か。


「こっちに来て」


 俺は真っ白い煙で覆われた中で秋留の手をしっかりと掴んで、煙の外へと連れ出す。


「ちょっと、ムググ〜」


 秋留が叫び出すのを口を押さえて止める。


「聞いてくれ」


 小声で話す俺の意図を察したのか秋留が黙って頷く。カリューだったらこうはいかないだろうな。


「つかぬ事を聞くようだけど、インスペクターの映像に幻を見せる事は可能?」


「インスペクターにはそういう詐欺が出来ないようにガードがかかっているの」


 な、何てこった! 俺の作戦は実行前から失敗か?

 俺の作戦を見抜いたのか、秋留がニヤリと笑いながら言う。


「でも小さな虫とかにはそんなガードかけれないはずだけど」


 さすが秋留。元盗賊という事を差し引いても素晴らしい洞察力と理解力を持っている。


「幻想術以外には何も出来なくなるけど、大丈夫?」


「俺がしっかりフォローするから安心しろ!」


 俺が男らしくガッツポーズで答える。

 秋留も魔法の連発で疲れているはずなのに、笑顔で頷いてくれた。


 暫くすると秋留が小声で何か言い始めた。

 普通の攻撃魔法と違い、幻想術やネクロマンシーは呪文の詠唱の内容を聞き取る事は出来ない。


 今まで白い煙の中で右往左往していた金色の虫が急に落ち着いて、その場をクルクルと回り始めた。さては秋留の幻想術に掛かったに違いない。


「さてと」


 俺は右手にネカー、左手にカバンの奥から取り出した真っ黒の丸い物体を掴んで壁際に向かって走り出した。途中でマウスラフレシアの攻撃を右足に食らって倒れそうになるのを堪えて猛ダッシュする。


「チェックメイトだ」


 俺は格好良く決め台詞を言うと、目的のマウスラフレシアの身体に上って大きな口の中に小型の爆弾を放りこんだ。木っ端微塵に吹き飛べ!


「フオオオオ」


 自分の危機を察したのか、爆弾を飲み込んだマウスラフレシアのツルが俺の左脚を掴んだ。


「お前と心中なんて、まっぴらゴメンだな」


 俺はネカーで左脚に巻きついたツルを打ち落とす。と同時に空中に向かって大きく飛ぶ。


 強大な爆発力で部屋の空気が振動した。爆風により俺が起こした白い煙が晴れる。俺は爆風で宙を舞いながら、眼を細めて吹き飛んだマウスラフレシアの方を見た。


 爆発の中心に真っ黒い果実が見える! しかもその果実の元に吹き飛んだ木片やツルが集まりつつあった。

 俺はネカーとネマーを構えてトリガを引いたが、「カチン」と軽い音が両方の銃から聞こえてしまった。

 玉切れだ!


 尚も宙を舞いながら辺りを見渡すと一番近くにカリューがいるのが見えた。カリューは小型爆弾により発生した爆風から既に立ち直っているようだ。


「カリュー! 爆風の中心の黒い果実!」


 大声で叫ぶ。


 黒い果実の周りには次々と散っていったはずの木片が集まっている。並みの再生力ではない。おそらく、この部屋全てのマウスラフレシアと黒い果実を持つマウスラフレシアはつながっていたのだろう。


 カリューは口に黒い短剣を加えて四本足で大地を蹴った。普段のカリューの素早さの二倍はありそうだ。

 ダッシュの途中でカリューは両手で短剣を構えた。


「ウオオオオオオン!」


 獣人と化したカリューの雄叫び。

 カリューが突き出した短剣は見事に黒い果実を貫いていた。

 今までクロノやシャイン、ジェットを襲っていたマウスラフレシアが一斉に枯れ落ちる。


「ニャン?」


 シャインは繰り出した蹴りが空しく宙を舞っているのに疑問を持っているようだ。


「ニャ?」


 クロノの左手の突きも風を切る。


「終わったんですかな?」


 マジックレイピアを構えてジェットが聞いてくる。


「いや、まだだ」


 俺は地面に落下した時に痛めた左肩を押さえつつ秋留に近づいていった。


「秋留、呪文中でも会話は出来るのかな?」


 秋留はブツブツと呪文を発しながら小さく頷いた。


「金色の虫に、俺達がマウスラフレシアに食われて魔楽果が生っている幻を見せられるか?」


 再び秋留は頷く。内容は分からないが、今までの呪文とは少し違う感じでブツブツと喋り始める。


 さて、この洞窟の主が出てくるまでどれ位の時間が掛かるだろうか。

 俺はその間に仲間達に対してマウスラフレシアと金色の虫についての説明を行った。


「へ〜、ブレイブ凄いニャ」


「同じ盗賊として見習わないといけないニャン」


 クロノとシャインが関心して言う。


 全員への説明を終えて俺は一人魔法を唱え続けている秋留の方を見る。あまり表情を顔に出さないが、魔法を唱え続けているせいで、相当疲れているに違いない。


 生憎、魔法力を回復させるようなアイテムは持っていないため、ただ見守る事しか出来ない。

 この洞窟の主には早々に登場してもらう必要がある。


「で、黒幕は誰なんだ?」


 脳みそも筋肉で出来ていそうなカリューが聞く。自分で考える気があるのだろうか。

 答えようとした時に、壁の向こうから何者かが近づいてくる気配を感じた。


「黒幕登場の様だぞ。カリュー、ついて来てくれ」


 俺は小声で秋留を含めて全員に言うと、気配を殺しつつ壁際に近づいた。壁に耳を当てると明らかに人の近づいてくる足音が聞こえる。


 壁際を調べながら歩くと、洞窟の中を流れる川岸の岩壁に扉らしきものを発見した。どうやら、壁の後ろの通路はここに繋がっているらしい。


 壁の向こうの阿呆は陽気にスキップしながら近づいてくる。お仕置きタイムが待っているとは知らずに。


 暫くすると目の前の岩壁が音を立てて開いた。岩壁の影で待ち構えていたカリューが出てきた50歳位の男のみぞおちに拳を叩き込む。


「ぐっ!」


 腹を押さえてうずくまった男を手早くロープで縛り上げると、仲間の待つ場所まで引きずっていった。


「秋留、お疲れ」


 魔法を唱え続けていた秋留に声を掛ける。俺の声を聞いた秋留は「ふう〜」と大きく息を吐くと、今まで瞑っていた眼を開いて俺の引きずっている男を睨みつけた。


「どうしてくれようか……」


 秋留が魔法のロッドを頭上でグルグルと回す。


「やはり、魔法医のジジイでしたか」


 ジェットも男を睨みつけて言った。ジェットの死臭が漂って来たのか、魔法医のドルイドは顔をしかめる。


「ど、どうしてなのよ! 映像ではしっかりとやっつけられて、マウスラフレシアの木に生る一杯の魔楽果が……」


 そう言ってドルイドは辺りを見回す。


「い、いない! あたしのマウスラフレシアちゃん達が!」


 いい歳をしたドルイドが泣きそうな顔で言う。


「日当たりが悪かったから切り倒したニャン」


 シャインが初対面のドルイドを見下ろす。シャインの眼にも憎悪の炎が見える。


「アホな事言ってんじゃないわよ! このバカネコ!」


「シャッ」


 シャインの爪がドルイドの頬に五本の傷を作った。

 ドルイドは「あたしの美しい顔を」やら「見てらっしゃい」等と怒鳴っているが、どれも負け犬の遠吠えにしか聞こえない。


「とりあえず、黙ってもらおっか」


 何事も忘れずに根に持つ秋留がドルイドの前に出た。


「な、何をするつもり!」


 身体をロープで縛られて身動きの取れないドルイドは、唾を飛ばして秋留を牽制している。こいつはガキか……。

 秋留は少し離れると真っ赤なマントが大きく揺れ、鋭い爪となってドルイドに襲い掛かった。

 声にならないドルイドの叫び。


「半分位いって良いよ」


 秋留が言うと、ブラドーはドルイドの身体に巻きついた。「ドクン、ドクン」と言う不気味な音が聞こえてくる。


 ちなみに人間は半分の血を抜かれて生きていけるのだろうか……と疑問に思いながら見守る。

 暫くすると、ブラドーは秋留の背中へと戻っていった。残されたドルイドは心なしか以前よりも痩せこけた様に見える。


「引きずるのも楽になったし、こいつが出てきた通路から地上に戻るか!」


 俺は大声で叫ぶとドルイドを引っ張って歩き出した。


『お〜〜〜!』


 仲間達はやっとこの洞窟から解放される喜びを表す様に元気に答えた。



 ドルイドが入って来た通路を暫く歩くと、小さな部屋に行き着いた。

 そこには一組のテーブルと椅子があり、テーブルの上には小さなモニターが置いてある。どうやら金色の虫の映像はこのモニターに表示されていたようだ。

 近くにあった戸棚の中に食料やらちょっとした魔法のアイテムが入っていたため、仲間達にばれないように拝借する。


 洞窟の管理者用の通路に罠など仕掛けられている筈などないが、小部屋を出た後も念のため、俺が先頭を歩いた。


 少し歩くと、あっという間に外の明かりが見えてきた。この洞窟は相当グネグネと曲がっていたようだ。


 俺達は洞窟の入り口とは別の場所に出たが、周りを確認すると銀星がヘロヘロの雄馬一頭と馬車を引いて走ってくるのが見えた。銀星の耳は盗賊並みか?


「ヒヒーン、ヒヒーン、ヒヒヒーン!」


 銀星が騒いでいる。一体、何を言っているのだろう。


「二日も帰ってこないから心配した、と言っているニャ」


 クロノが後ろでボソリと呟く。獣人は動物と会話が出来るらしい。初めて知った。


「へ〜、二日も掛かったのか。どうりで疲れたわけだ」


 あまり疲れていなさそうなカリューが言う。カリューは獣人の癖に銀星の言葉は分からないようだ。やはり純正品ではないからだろうか。


「腹も減ってるみたいだニャン。後ろの雄馬もヘバってるニャン」


 シャインに言われて秋留が荷台から銀星と雄馬の食事を取り出すと、二頭は鬼の様に餌を食べ始めた。


「ワシらも少し休憩しませんかな?」


 太陽の位置からすると昼前だろうか。俺達は荷台や地面に座ったりしながら、全員で仲良く食事をし始めた。


「この後はどうするんだ?」


 いい加減保存食に飽きてきたが、後少しで港町の美味い料理を食べられる事を期待して、干し肉をかじりながら言う。


「あたし達は盗賊団と合流して、また盗賊稼業に戻るニャン」


 シャインの台詞に少し考えながらカリューが答えた。


「お前らの強さなら、普通に冒険者をやってた方が十分に金を稼げると思うけどな」


 カリューらしくない相手を褒めて伸ばすタイプの説得力のある良い台詞だ。

 カリューの台詞にシャインもクロノも眼を見合わせて照れている。

 これで獣人盗賊団は解散という事になるのだろうか。


「私達はドルイドを港町の治安維持協会に引き渡してから、カリューの獣人化を何とかするために、別の大陸に渡ろうか?」


 秋留の言葉にカリューが「あっ」と小さな声を上げて自分の頭に生えている耳を触ったり、身体中の青い毛並みを触ったりした。

 どうやら、自分が獣人化している事を忘れていたようだ。

 人間、慣れと言うものは怖い。


「じゃあ、そろそろ出発するか!」


 カリューが元気に言う。獣人化を治したいという気持ちがまた復活したようだ。


「僕達のアジトはこっちだニャ」


「冒険者としてどこかで会ったら、その時はまた一緒に冒険しようニャン」


 クロノとシャインは手を振りながら言うと、俺達とは反対の方向へ走り出した。あいつら最期まで元気一杯だったなぁ。



 クロノとシャインと別れた俺達は二頭の引く馬車に揺られて港町ヤードを目指して進んだ。


「ああ、そうだ。ブレイブから借りた短剣返しておくぞ」


 俺はカリューから短剣を受け取った。

 モンスターからの返り血により色が少しおかしくなっている。宿屋に着いたら少し磨いたほうが良さそうだな。


 俺は腰の鞘に短剣を戻した。


 ……あれ? 短剣のサイズが合わない。モンスターの返り血が固まって少し大きくなったかな?

 俺は深く気にせず背中の鞘のサイズを調整して短剣を収めた。


「町に着いたら、美味い飯を一杯食うぞ〜!」


 俺の叫びに他のメンバーが答える。

 俺達の長い洞窟探検はこうして終わりを告げた。

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