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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
獣人に転職した勇者と獣人盗賊団
27/75

罠罠罠

 あの人口的な通路から歩き始めて何回目だろうか。

 俺の後方で再び爆発音が聞こえた。


「あ〜クロノ! また罠を踏んだニャン!」


 シャインが自分の罪をクロノに着せる。煙の中からは身体のあちこちが欠けたジェットが出てきた。その欠けた部分はミミズが這い回る様に自然修復されていく。


「さっきから痛いですぞ!」


 いくら不死身のジェットでも、いい加減うんざりしてきた様だ。

 シャインとクロノはジェットの不死身っぷりが面白いらしくて、わざと罠を踏んでいる様だ。ゾンビと言えども痛みを感じているという事を、二人はまだ分かっていない。


「シャイン! クロノ! あんまりふざけてると魔法で吹っ飛ばすよ!」


 秋留が二匹の獣人を叱った。さっきからシャインとクロノは辺りを飛び跳ねているからだ。パーティーに加えた事を後悔しているのだろうか?

 しかし、どこか秋留も楽しそうだ。


 隣には「滝はまだか」と何回も聞いてくるカリューがいる。俺の耳には滝が流れる豪快な音などは全く聞こえてこない。


「お! 敵だニャ!」


 これも先程から何回か繰り返されてきた事だ。シャインとクロノはモンスターを見つけると、まるで遊んでいるかの様に戦闘を始める。


 弱気でのん気なクロノと強気でお嬢様気質のシャイン。まるで正反対の性格の二人がピッタリと合った呼吸で出現したモンスターを即行で倒していく。


「実際凄いもんだな」


 カリューが二人の戦闘を見ながら関心して呟いた。


「さっき聞いたんだが、シャインとクロノのレベルは7とか8らしい」


 カリューの今のレベルが42だから数値的に見ると到底敵うようなレベルの差ではない。しかし、カリューとの戦闘内容を思い返すと、なかなか良い線をいっていた様に見える。


「二人の息がピッタリなら、その力は足し算ではなく掛け算になるという事かな」


 俺は頭に思い浮かんだ格好良い台詞を秋留に聞こえるように少し大きめの声で言った。


「ガウウウウウ……」


 俺の声に反応する様に、洞窟の奥から灰色の身体をした熊の様なモンスターが現れた。


「ブレイブ! 大きい声出しすぎだよ!」


 うっ、秋留に注意されてしまった。


 再びシャインとクロノは喜びの声を発しながら灰色熊モンスターに攻撃を仕掛けた。シャインが右手を灰色熊に繰り出す。しかしその攻撃がまるで水を切るかの様に身体の中をすり抜けた。


「フニャーーー!」


 シャインが灰色熊の体の中をすり抜けた右腕を叫び声と共に素早く引き抜く。その腕からは白い煙が上がっている。


 それを見たクロノは、足元にあった岩を熊の顔面に蹴りつけた。顔面へ飛んで行った岩が体内に取り込まれて一瞬の内に溶かされる。


 その間にクロノはシャインを抱きかかえて熊の目の前から離脱する。そして少し離れた所に着地すると手早く回復魔法を唱え始めた。


 俺は松明を熊の前方に落とした。灰色をしていたはずの熊の毛並みが真っ赤に変わる。


「液体だ」


 俺が見た灰色の毛並みは、熊の身体の向こう側の岩が見えていたに過ぎなかった。

 その熊の身体から垂れた液体が足元の松明を消す。


「また厄介なのが出てきたな」


 カリューが剣を構えて言う。しかし奴に攻撃をしかけた時点で、剣が溶かされる事は眼に見えている。しかもダメージを与える事が出来るかも分からない。


「任せて」


 秋留が両手に杖を構えながら全身する。


「女王シヴァの口づけは全てを凍らし、その抱擁は全ての自由を奪う……」


 秋留の呪文の詠唱と共に周りの気温が低下していく。隣にいる俺も寒くなってきた。


「アイスバインド!」


 秋留の呪文と共に氷の塊が液体熊目指して進んでいった。

 氷の塊が液体熊に当たった途端に熊の氷像が完成した。


「やったか?」


 カリューが氷像を見つめながら言う。だが氷像からうっすらと湯気が立ち始めているのが見える。


「駄目! 伏せて!」


 秋留の叫び声と同時に氷の塊が四方八方に飛び散る。

 俺はその一瞬に全神経を集中してネカーとネマーをぶっ放した。

 秋留と、シャインを回復しているクロノに飛んでいく破裂した氷の塊を片っ端から打ち落とす。

 俺に飛んできた氷の塊はカリューが剣を振り回して落としたが、カリューが俺を守って何発か食らったようだ。


「サンキュー」


 俺は尚もネカーとネマーを構えながらカリューに言った。


「弱者を守る事こそ正義!」


 カリューは背中で語っている。相変わらずな性格は獣人になっても変わらないようだ。

 ちなみにジェットは不死身のため、弾丸のフォローはしなかったが、まぁ大丈夫だろう。


 俺は液体熊に再び視線を移した。

 氷と化したのは周りだけだったようだ。サイズが一回り小さくなったが、まだまだ襲ってくる気満々らしい。


「何回か凍らせればそのうち無くなるんじゃないか?」


 カリューが無神経な事を言っている。

 俺が氷の塊を打ち落とすのに相当な精神力を要した事を分かっていない。


「もっと強力な奴ないのか?」


 俺は秋留に聞いた。


「氷系の魔法はあんまり得意じゃないの。かといって風とか火はどうなるか分からないし」


 その台詞を聞いていたのか、右手を抑えながらシャインが立ち上がった。


「まだ回復終わってないニャ!」


 隣でシャインを回復していたクロノが言う。


「やられっ放しじゃ、獣人として情けないニャン!」


 シャインは気合を入れると魔法を唱え始めた。


「迫り来る影は凍える吐息、生命の息吹を止めるクサビとなれ」


 俺と秋留がヤードの通りを逃げている時にシャインが唱えた呪文だ。どうやらシャインは氷系の魔法を得意としているらしい。


「チェイスフリージング!」


 シャインの両手から眼に見える程の濃い冷気が、液体熊に向かって突き進む。

 その冷気が液体熊を取り巻き、一瞬のうちに氷の彫像を作った。暫くしても氷の彫像はそのままだ。


「やった……ニャン」


 それだけ言うとシャインはその場に倒れた。




「シャイン、大丈夫ニャ?」


 シャインを背負っているジェットに向かってクロノが尋ねた。


 俺達は氷漬けとなった液体熊を後にして、更に洞窟の奥へと進んで歩いている。


「大丈夫だよ、気を失っているだけだから。クロノは回復魔法が得意みたいだね」


 秋留がクロノの隣を歩いて言う。


「そ、そんな事ないニャ」


 真っ黒な毛に覆われた顔を赤らめながらクロノが言った。


 あれから特に危険なモンスターが出現する事もなく、一時間程洞窟を歩いている。

 途中で松明が燃え尽きたが、道具袋にはまだ予備の松明が入っている。


 シャインの性格や癖をクロノが暴露しながら歩いているうちに、俺達は再び人の手で作られたと思われる通路へと辿り着いた。


 通路は三人が並んでやっと通れるくらいの幅しかないが、奥行きは100メートル位ありそうだ。魔法の力で輝いていると思われる松明程の大きさの石が通路の所々を照らしている。


「あ、明らかに怪しいな」


 正義しか頭にない阿呆なカリューでもこの通路の危険さは分かったようだ。通路の左右の壁には、硬貨大程の不気味な穴がびっしりと開いている。


 俺は他のメンバーに待っているように合図すると、一人通路に進んで壁や床、天井を調べ始めた。


 この通路の床全体がスイッチになっているようだ。床を踏むと壁の穴から何かが飛び出てくる仕掛けらしい。まぁ、罠の王道といったところか。


 俺は試しに傍に落ちていたコブシ大の石を掴むと、通路に向かって強めに放り投げた。

 石が落ちた場所の左右の壁から鋼鉄製の矢が通り抜け、壁の反対側の穴へと入って行く。


「なるほど……。矢を無駄にしない効率的な罠の様だな」


 俺は一人で呟きながら、後方で待っていたパーティーの元に戻っていった。


「どうしよっか?」


 秋留が腕組みして言う。


「穴の中をちょっと覗いてみたんだ」


 俺は少し自慢しながら言った。


「う〜ん……よく見えるニャ〜」


 同じ盗賊であるクロノが言う。確かにある程度経験を積んだ盗賊じゃないと、暗闇を見通したり細かな罠の作りに気づくのは難しいかもしれない。

 まぁ、獣人だから夜目は効くかもしれないが。


「矢を射出する装置は通路に並んだ三人分位の長さしかないんだ」


 俺は地面に小枝で図を書きながら説明を続けた。勿論説明している間も俺の視線は常に秋留を捕らえている。


「魔法とかで巨大な岩を通路の向こう端に落とす事は可能か?」


 秋留が火と土系の魔法が得意なのを知っていて聞く。


「ふぅ〜ん……任せてよ。誰の体重よりも重い岩を出現させてあげる」


 盗賊の職に就いたこともある秋留が俺の意図を察したらしく答えた。

 カリューやジェットは俺と秋留の会話を聞いても理解出来ないらしい。盗賊であるクロノの頭の上にもクエスチョンマークが浮かんでいる。


「この罠は床に乗っている一番重い場所に対して矢を発射するんだ」


 説明終了の合図に、持っていた小枝を放り投げて言う。


「矢が向こう端の岩を狙っている間に俺達は岩のある所まで安全に歩く。向こう側に着いたら通路の反対側に更に重い岩を出現させて矢射出装置を移動させる。それでステージクリアだ!」


 準備を整えると秋留が俺の指示通りに呪文を唱え始めた。


「力強き腕を持つノームよ、汝の力で巨岩を操り、我に仇名す全ての者を押し潰せ……」


 秋留は呪文を唱え、右手を高く掲げた。

 その動作と共に近くにあった巨大な岩の塊が宙に浮かぶ。


「ロックストライク!」


 秋留が右手を勢い良く振り下ろすと同時に、宙に浮かんでいた岩が通路を突き進み、轟音を発して通路の終端に落ちた。

 岩が通路の終端に落ちた途端に今まで手前にあった矢射出装置が一瞬で通路の一番奥まで移動し、巨大な岩を鋼鉄の矢で攻撃し始める。


「よし、今のうちに行こう」


 俺はパーティーの先頭に立って通路に足を踏み入れた。俺の予想通り、矢は一番奥の岩を攻撃し続けている。

 俺が足を踏み入れたのを確認してから他のメンバーも続く。


「あ、そうそう、言い忘れてたけど……」


 俺は後ろを振り返って言い掛けた途端に、今まで一番奥で岩を攻撃していた罠が俺達の方へ近づいてきた。


 俺は仲良く並んで歩いていたジェットとカリューの姿を睨みつけ、思いっきりカリューを蹴飛ばした。カリューは俺の咄嗟の蹴りにより通路から吹き飛ばされる。


「い、痛ってーな! ブレイブ!」


 カリューが尖った歯を剥き出しにしながら唸る。


「言い忘れたけど、岩より重い体重を通路が感知すると、罠が移動して蜂の巣になるから気をつける様に。特に油断して並んで歩いたりすると危険だぞ」


 俺は何事も無かったかのように再び歩き始めた。罠は再び一番奥の岩を攻撃している。


「だからって俺を蹴る事ないだろぉ!」


 青い毛並みから覗く顔を真っ赤にてまだ怒っている。


「だからってシャインを背負っているジェットを蹴る訳にはいかないだろう?」


 俺の台詞にカリューは黙ったが、口が達者な秋留なら俺のこんな台詞にすぐ反論出来る事だろう。


「私が操った岩は、ジェットとシャインの体重以上はあるから安心して良いよ」


 少しビビッていたジェットとクロノを安心させるように秋留は言った。あ、その事は考えてなかった……。


 その後もカリューはブチブチと文句を言っていたが、俺の作戦通りに無事に矢通路の罠はクリアした。


「さすがブレイブ。うまくいったね」


 秋留が俺の背中を叩いて言う。褒められる事に慣れていない俺は何も返事が出来なかった。心なしか顔が暑い。

 ちなみにジェットとシャインの体重を足す事を全然考えていなかったとは言っていない。


「ふう、そろそろ休憩しませんかな?」


 矢の罠から更に30分程歩いたところでジェットが言った。

 シャインを背負っているせいか、ジェットの息が上がっている。


「そうだな。ここは少し広くなっているし、ちょっと休憩するか」


 カリューが辺りを見渡して言う。


 俺達は荷物を降ろしてその辺の岩に座った。神経を張り詰めていたせいで、眼が疲れて肩が凝った。

 眼を瞑り軽く肩を揉み解した。


「盗賊の仕事って見た目以上に疲れるんだよね」


 そう言って秋留の手が俺の肩に置かれる。これから何が起こるのか必死で頭を回転させたが、頭が真っ白になっていて働かない。


「お客さん、気持ちいいですか?」


 秋留が俺の肩を揉みながらおどけて言った。


「お、おう……」


 今日は人生で最良の日に違いない。しかもお世辞無しに秋留のマッサージは気持ちいい。傷を癒すような魔力も込められているのかもしれない。


「いいですな、若いもんは」


 ジェットがからかった。俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。


「ブレイブがミスったら致命的な罠にはまりかねないからね」


 照れなくても良いのに、と俺は心の中で思いながら辺りを見回した。


 この洞窟……。まるで侵入者を試しているかのようだ。どれも即致命傷になる様な罠が仕掛けられていない。


 洞窟の中に死体がない事も気になる。


 定期的に何者かが片づけているのだろうか。その人物はこの洞窟に作られた罠を知っている。罠の作成者かもしれない。


 とにかく今は前に進むしかなさそうだ。ゴールで洞窟の主の目的が分かるに違いない。


 暫くしてシャインが眼を覚ました。秋留と同様、寝起きは余り良くない様だ。


 それから俺達は軽い食事を取ると、再び洞窟の奥目指して歩き始めた。

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