表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
獣人に転職した勇者と獣人盗賊団
24/75

さよなら、人間のカリュー

「ホー、ホー……」


 頭上でフクロウが鳴いている。


 ここは、港町ヤードへ向かう街道の途中。少し開けた場所にある古びた小屋の前。

 俺達はいつも交代で見張りをしていて、今は俺の順番だ。次はジェットに交代する事になっている。


「夜は涼しくていいなぁ〜」


 俺は大きく伸びをしながら独り呟いた。

 辺りのモンスターの気配も、全くと言って良いほどにない。

 平和って素晴らしい。


 しかし、全世界が平和であれば、俺達冒険者の存在など必要なくなってしまう。


 まぁ、そういう永遠の平和が訪れるなら、秋留と幸せな家庭を作れば良い。いや、平和な家庭を築きたい。


 俺は一人でニヤけながら、色々妄想に耽っていた。


 その時、すぐ近くで獣の気配を感じた。


「嘘だろ? さっきから近づいてくるような気配は無かったのに!」


 俺は素早くネカーとネマーを構えると、辺りを観察し始めた。


 しかし動く様な物体もなければ、先程感じた獣の気配もなくなっている。


 暫く銃を構えて寂れた小屋の周りを回ったが、何も発見する事は出来なかった。

 俺はネカーとネマーをホルスターに戻すと、余計な雑念は捨てて真面目に見張りを再開した。

 すると、先程感じたものと同じ獣の気配をすぐ後ろから感じた。

 俺は前転しながら、後方に向かって銃を構える。


 獣の姿はどこにもない。

 いるのは小屋の外でゴロ寝しているカリューとジェットだけだ。秋留は馬達と共に小屋の中で眠っている。


 大きなイビキをかいているカリューと死んだように眠っているジェット。

 そのイビキの主であるカリューから僅かだが獣の気配を感じる。

 人間の能力の限界を超えて、とうとう獣となってしまったか。


 俺はそんな筈はないと、カリューの顔を覗き込んだ。



「うぎゃあああああ!」


 寂れた建物の中で、銀星・アレキサンドラと共に眠っていた秋留が杖を持って飛び出し、カリューの隣で死人の様に眠っていたジェットが慌てて起きる。


 そして、頬まで避けた大きな口で欠伸をしながら、カリューが眼を覚ました。


「何事ですじゃ? ブレイブ殿!」


 ジェットがレイピアを構え、辺りを注意深く見渡しながら聞く。


「昼間の盗賊団?」


 秋留もジェットの隣に来て言った。


「転寝してたら恐い夢でも見たか? ブレイブ?」


 俺は悪態をついてきたカリューの顔を指差しながら口をパクパクさせている。


「ん?」


 秋留が俺の指の先を見る。暗くてカリューの顔があまり見えないようだ。

 盗賊の職についた事のある秋留だが、夜目はそこまで効かないらしい。


 俺は野営には必須の焚き火から松明を持ってくると、それをカリューの顔にかざした。


「きゃああ!」


「ぬおおおお!」


 秋留とジェットがカリューを見て叫ぶ。


「ヒヒヒィ〜ン!」

「ヒヒヒヒィ〜ン!」


 一緒に様子を見ていた銀星とアレキサンドラが鳴く。


「どうしたんだ? 俺がどうかしたか?」


 相変わらずの大きな口でカリューが言う。


 青い髪の毛の隙間から青い毛で覆われた巨大な耳。

 昼間出会った獣人を思い出させる鋭い眼。

 鎧の隙間から見える青い体毛。恐らく全身が毛で覆われているのだろう。

 足の間からは、足と同じ長さ位ある立派な青い尻尾も見えている。


「か、顔……尻尾……」


 秋留が口を押さえながらカリューに言った。

 いつも冷静な秋留も慌てている。一人冷静なのは当の本人だけだ。


 秋留に言われてカリューは左手を口に持っていった。

 頬まで避けて、飛び出した口を触ってカリューが怒鳴る。


「ブレイブ! また俺に変な装備させただろ! お面か!? 被り物か!?」


 違うって!

 カリューのアホさ加減に俺は少し落ち着きを取り戻した。


「じゃあ、なんなんだよ、これはっ! 俺はどうなっちまったんだああぁぁぁぁぁ!」


 冷静になる俺達とは逆に、カリューが叫んだ。青い毛で覆われた頭を掻きむしりながら、俺達の周りをグルグルと回った。。



「まるで獣人だよ。犬の獣人? 狼かな?」


 秋留がカリューの身体を色々観察しながら言う。


「魔剣ケルベラーの呪いが残っていたんですかなぁ?」


 ジェットがカリューの尻尾を掴みながら言った。


 魔剣ケルベラーとは、以前カリューが誤って装備してしまった呪われた魔剣だ。装備者は魔剣の呪いにより魔獣ケルベロスへと姿を変える。

 だが、カリューが獣になる前に魔剣自体を破壊したので、呪いは解かれたのだと思っていた。


「う〜ん。全く分からないねぇ」


 秋留が腕を組んで悩んでいる。

 その間、カリューは自分の身体をくまなく調べて落ち込んでいた。


「まぁ、それ程気にする事でもないですぞ! 見た目は変わってもカリュー殿はカリュー殿ですじゃ!」


 ゾンビになってもジェットはジェットという事か。

 そんなジェットの慰めは勿論効果なく、俺達は大きい街の魔法医に見てもらうべく予定通り港町ヤードを目指す事にした。




 街道ですれ違う人が増えてきた。港町ヤードが近い証拠だ。


 今朝カリューが獣になった以外は特に問題もなく、港町ヤードの目前までやって来た。


 大きい街は必ずといって良いほど頑丈な城壁に囲まれ、数少ない門には数人の兵士が見張りに立っている。

 港町ヤードも例外ではなく、門の前に立っている兵士に身分証の提示を求められた。

 街などに魔族や犯罪人が入り込まないようにある処置だが、力ずくで入られるケースも少なくは無い。


「え〜っと、ジェットさんにカリューさんに秋留さんにブレイブさん……」


 門番は手渡された身分証と俺達の顔を見ながら確認している。


「おや? ジェットさんは116歳ですか? そんなお年には見えませんけどね。長生きの秘訣はなんですか?」


 どこか抜けている門番が聞いた。


「やはり人間、早寝早起きが一番ですじゃ」


 人間を辞めているジェットが真面目に答える。


「これなら、魔法とか使って通してもらう必要は無さそうだね」


 秋留が門番に聞こえないように、小声で言った。

 いつもならジェットの年齢に疑問を持った門番を、秋留の魔術で惑わしてから通してもらっているのだが。


「カリューさんは獣人に転職でもしたんですか?」


 聞かれたカリューは「ガルルル」と唸っている。

 獣人に転職など出来るはずはないが、ここは突っ込まないでおく。


「ようこそ、港町ヤードへ! 海の香りと共に新鮮な魚を堪能していって下さいね」


 門番はそう言うと、頑丈な鉄の扉を開けて俺達を街の中へと通してくれた。


「あれじゃあ、門番の意味はないよね」


 門から街の中へと歩きながら秋留が言う。


 港町ヤードは、旅人や商人で賑わっていた。冒険者の数より多いかもしれない。


「日も暮れてきたし、今日は宿を探して明日の朝、魔法医にカリューを見せに行こう」


 こういう事はパーティーのリーダーであるカリューが言う台詞なのだが、リーダーは極端に落ち込んでいるので秋留が代わりに言った。


 港町ヤードは他の大陸との交流が盛んなため、数多くの種族が生活しているようだ。


 宿屋を探している途中も、カリューと同じ獣人族や肌の黒い人間の種族とすれ違った。珍しいエルフの姿も時々見かける。


「いらっしゃいませ、四名様ですね?」


 俺達は大きめの宿屋シーサイド・インを見つけて中へ入った。

 歳の若いアルバイトと思われる女性が、カウンターの向こうから早速話し掛けてきた。


「二部屋空いてるかな?」


 秋留が言う。俺的には同じ部屋でも問題ないのだが。と言うか、むしろ同じ部屋がいいのだが……。


「ちょうど二部屋空いてますよ。ご案内します」


 残念なことに二部屋空いているらしい。俺達は一階の角部屋に案内された。室内は海をイメージする様な青一色で統一されている。


「じゃ、また明日ね」


 秋留は一人隣の部屋に入っていった。

 秋留の後に着いて行こうとする俺の襟首を掴んで、ジェットが別の部屋に引っ張っていく。


「ブレイブ殿の部屋はこっちですぞ」


 俺は秋留とは別々の部屋になった事に改めて肩を落としながら、荷物や装備を外してベッドの脇に置いた。


「はぁ〜。疲れたし、最初に風呂に入らせてもらおうかな」


 シーサイド・インは各部屋にトイレと風呂が備えつけられている、値段が少し高めの宿だ。

 宿代は一人18000カリムもするが、代わりに海の幸を使った美味い夕食がセットで出るらしい。



「ふぅ〜」


 俺は湯船に浸かりながら大きく息をついた。やっぱり風呂は落ち着く。冒険者の中には風呂嫌いな奴も多いらしいが、そいつらの気が知れない。


 ちなみに、俺は特別一番風呂が好きという訳ではない。


 ジェットとパーティーを組んでからは、少なくともジェットの前に風呂に入るようにしている。理由は深く考えたくないが、湯船にオゾマシイ物が浮いてそうで恐い。


 そして、獣人となったカリュー。毛が一杯浮いてそうで嫌だったので、今日は即行で風呂に入る事に決めたという訳だ。


 「気分転換だ」と言いながら俺の後に風呂に入ったカリューは、案の定余計に落ち込んで風呂から出てきた。

 ちなみに二時間位は風呂に入っていただろうか。身体中が毛だらけで暫く放心状態だったに違いない。


「じゃあ、次はワシが……」


 そう言いながらカリューの後にジェットは風呂に入っていった。


 部屋に取り残されたのは、俺とカリューの二人。

 カリューの周りには重い空気が漂っている。


「まぁ、元気出せよ。ここは酒の肴が美味いに違いないぞ」


 効果がないと思っていた俺のなぐさめの台詞は、想像以上に威力があったようだ。

 今までカリューの周りを覆っていた黒い空気が一気に弾けとんだ。


「そうだな! 日も落ちてきたし、ジェットが風呂から出たら一杯やって来ようかな」


 カリューの機嫌が分かりやすく良くなった。安心した俺は二丁の愛銃の手入れをし始める。


 暫くしてジェットが風呂から出てきた。

 あまり不機嫌そうな顔をしていないところを見ると、湯船はそれ程荒れていなかったらしい。


「ジェット! 飲みに行こう! ここは酒の肴が美味いに違いないぞ!」


 俺が先程言ったなぐさめの言葉をそのままジェットに言っている。

 カリューの台詞を聞いたジェットは、急いで支度をすると、二人仲良く部屋を出て行った。


「カリュー殿、今夜は共に人間を辞めた者同士、仲良く語り合いましょうぞ!」


 宿屋の廊下を歩きながらジェットの言った台詞が、盗賊である俺の耳に聞こえてくる。その後カリューの唸り声がこだました。


「さて」


 俺は銃をホルスターにしまうと、俺達の部屋を出て隣の秋留の部屋のドアをノックした。

 暫くしてシャンプーの匂いを漂わせながら秋留が部屋から顔を出す。


「あれ? どうしたの、ブレイブ?」


「そろそろ夕食の時間だろ? 宿の食事はいつでも食えるし、今日は一緒にどっかに喰いにいかない?」


 わざとらしく前髪を掻き分けながら格好良く言ってみる。


「あははっ、そういう仕草似合わないよ」


 即行で撃沈。


「カリューとジェットは美味い酒の肴求めて旅立って行ったよ」


 気を取り直して秋留に説明する。


「ふぅ〜ん、ブレイブがうまい事言って追い出したわけじゃないんだ?」


 内心「その通り」と思いつつ顔に出さないように否定すると、秋留は「準備するから待ってて」と部屋に戻っていった。


 暫くしていつもの冒険者の装備をした秋留が姿を表す。背中にはボディガードのブラドーもいるようだ。


「じゃ、行こう!」


 秋留が外に向かって指を向ける。やった! 秋留と二人っきりのデートだ。


 小高い丘の上に建てられた宿屋の外に出ると、丁度海の向こう側に太陽が落ちるところだった。

 目の前に広がる海が真っ赤に染まっている。


「わぁ〜、綺麗〜」


 秋留が真っ赤な光景を目の前にして眼を輝かせている。


「あ、秋留の方が綺麗だよ」


 俺は秋留の肩に手を回そうとした。しかし隣には誰もいなくて危うく転びそうになる。

 秋留は既に10メートル程離れた所を歩いていた。


「さすが、元盗賊!」


 俺は半分涙目になりながら、秋留に追いつくべく軽く走り始めた。



「ここが良いなぁ」


 秋留が立ち止まったのは、独特な雰囲気をかもし出している海鮮亜細安亭だ。かいせん……あじあんてい?

 入り口の両脇には、変わった生物の置物が並んでいる。


「この獅子みたいな置物は亜細李亜アジリア大陸の守り神、ゴーザーだよ」


 秋留がゴーザーの頭を撫でながら説明した。どうやらこの店は亜細李亜大陸の料理を出す店らしい。それで亜細安亭か……。


「いらっしゃいませ〜」


 店内に入ると、陽気な女性店員が話し掛けてきた。

 秋留が今着ているチャイニ服と同じような格好をしている。


「あら? 亜細李亜大陸の人?」


 店員は秋留の格好を見て聞いてきた。


「そうですよ」


 気さくに秋留は答える。人見知りが激しい俺には出来ない芸当だ。今の俺の顔も第三者から見ると酷く無愛想に見えるに違いない。


「ここのマスターは亜細李亜大陸出身なんです。特別席に案内しますので、ゆっくりしていって下さいね」


 俺達は二階の見晴らしの良い席に案内された。どうやら店のマスターに特別扱いされているようだ。


「いい眺めだね」


 俺達が座っている席からは広大な海が一望出来る。太陽はもう海の向こう側にほとんど隠れてしまったようだ。


 秋留と過ごす楽しいひと時。


 その時俺の耳は、二階から見える通りの角の向こうから、聞きなれた声が近づいてくるのを感じた。



「ジェット、次はどこに飲みに行くか?」


「ここの角を曲がった先に、亜細李亜料理を出す店があるようですぞ」


 素早く両手にネカーとネマーを構え、カリューとジェットが飛び出してくる通りにあるゴミ箱を吹っ飛ばす。


「うおっ! なんだ?」


「不吉な予感がしますなぁ」


「せっかくの酒飲みデーを無駄にしたくないな。他の店を当たろう」


「そうですな」



「どうしたの? ブレイブ?」


 気づくと秋留が俺の顔を覗いていた。


「ちょっとデカイ虫が飛んでたんだけど、無事に追っ払ったよ」


 秋留が不安そうに辺りをキョロキョロしている。秋留は大の虫嫌いだ。


 俺が本気を出せば、元盗賊の秋留でも見えない程の銃さばきが出来る。

 秋留との二人っきりの時間を邪魔されないためなら、俺は限界以上の力を引き出す事が出来る、に違いない。


 暫くすると、先程の店員が大きめの皿に乗せた料理を運んできた。


「あれ? まだ頼んでないけど……」


 秋留が言うと、店員は笑顔で「マスターの奢りですよ」と言って、俺達のテーブルに料理を置いていった。


「わぁ! 肉ジャガンだ」


 秋留が嬉しそうに言った。


 秋留が言うには、亜細李亜大陸の有名な家庭料理で、肉とじゃがいもを長い時間掛けて煮込んだ物らしい。


 一口食べると、口の中に幸せが広がった。大きめに角切りされた豚肉は、とろける様に柔らかい。


「こりゃあ、美味いな!」


「でしょ? 私も大好きなんだ」


 そう言いながら、秋留も肉ジャガンを次々に口に放り込んでいる。


 秋留は店員にとろろん御飯を二つと、ダイコーン汁を二つ、亜風タコサラダを一つ頼んだ。

 秋留が頼んだ料理はどれも美味しく、二人ともあっという間に食べ終えてしまった。


「ふぅ〜、喰った喰った」


 俺は腹を擦りながら言う。久しぶりに美味い料理を食べた気がする。


「ご馳走様でした」


 秋留が行儀良く手を合わせて言っている。亜細李亜大陸独特の食べ終わった時の挨拶だ。


 俺達は店員に御礼を言うと、会計を済ませて外に出た。会計は勿論俺持ちだ。

 カリューやジェットの分は払いたいとは全く思わないが、秋留のためならいくらでも払いたいと思ってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ