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魔族デール

 俺はネカー&ネマーのトリガーを引き、今にもカリューに向かってハンマーを振り下ろしそうなキングサイクロプスの目玉を狙って硬貨の弾を発射した。


 サイクロプス系モンスターの弱点はその大きな目玉だからだ。


 しかし、硬貨の弾がキングサイクロプスの眼に当たる寸前に、空からフライ・アイが降りてきて、キングサイクロプスの盾となった。

 硬貨はフライ・アイの身体を吹っ飛ばしたが、キングサイクロプスへのダメージはない。


「デールの野郎がモンスターを操ってるな!」


 俺は悪態をついて、ネカー&ネマーのトリガーを連続で引いた。


 キングサイクロプスは右手に持っている鉄のハンマーを振り回して、迫り来る硬貨の弾丸を弾き飛ばしたが、何発かは奴の腕に命中した。

 しかしそれでもキングサイクロプスは怯む事なく、その傷ついた右手で持ったハンマーでカリューを攻撃しようとする。


 俺は慎重に奴の腕目掛けてトリガーを一回引き、少しの時間を置いてから、奴の眼に向かって再度トリガーを引いた。

 キングサイクロプスは俺の予想通り、腕を上げて一発目の硬貨の弾丸を避けたが、その体勢からでは眼に向かって迫り来る弾丸をハンマーを使って防ぐ事は出来ない。


 肉を抉る気持ち悪い音と共に、二発目の弾丸は見事にキングサイクロプスの弱点である目玉を破壊した。

 キングサイクロプスは館の柵に寄りかかるように倒れた。


「ちゃんと操ってやらないと、次々と大事なモンスターが死んじまうぞ!」


 俺は館の中にいるであろうデールに聞こえるように、大声で罵った。


 その時、俺達の周りの空気が、門を守っているグリーンドラゴンの口に吸い込まれていくのを感じた。

 その足元では、長い尻尾の攻撃を華麗にかわしつつ、カリューがドラゴンの身体に剣を突き刺している。

 カリューの剣により傷つけられていたグリーンドラゴンの口が、大きく膨らみ出した。どうやら炎を吐く準備をしているらしい。空気を吸い込んでいたのはそのためか。


 隣を見ると、秋留が魔法の詠唱をしていた。


「女王シヴァの口つけは全てを凍らし、その抱擁は全ての自由を奪う……、アイスバインド!」


 秋留の言葉と共に、ロッドの先から氷の結晶を大きくしたような塊がドラゴンの顔目掛けて勢い良く飛んで行った。

 正にグリーンドラゴンが炎を吐こうとした瞬間、秋留の放った魔法がドラゴンの口元に命中し、顔のほとんどを凍らせてしまった。


 その一瞬の隙を見逃さずに、上を向いたまま凍ったドラゴンの首を、カリューは剣で切り裂いた。

 ドラゴンは首筋から血の雨を降らしながら、口元が凍っているため断末魔の叫び声を上げる事もなくキングサイクロプスの隣に倒れた。


「館の周りにモンスターが集結しつつあるぞ!」


 俺の叫びにカリューは剣についたモンスターの血を払いながら言った。


「館に入るぞ!」


 そう言うと目の前に倒れている巨大なモンスター二匹を飛び越え、館の柵の前面にある扉に手を掛けた。


「ぐあああああああ!」


 柵に左手を掛けたカリューが叫び声を上げた。その身体からは、金色の稲妻が走る。

 カリューは扉から手を離し、全身から煙を出しながら地面に片膝をついた。


 戦闘中、傍で震えていたジーニスを含めた俺達三人は、カリューの元に駆け寄った。


「これは物理的な電撃のバリアみたいだな。館全体を覆っているぞ。大丈夫か? カリュー?」


 俺は柵を調べながら言った。館を覆う柵ごとドーム型の電撃のバリアに守られているようだ。


「我が神、ガイアよ、この者に癒しの力を……」


 気付くとジーニスが、身体中から煙を出しているカリューの腕に触れて呪文を唱えていた。


「癒合の雫!」


 ジーニスが呪文を唱え終えたと同時に、カリューの身体が黄色の暖かい光に包まれた。

 みるみる内に、身体から出ていた煙も消え、電撃により受けた火傷の傷も治っていく。


「あ、ありがとう、ジーニスさん。しかし、この結界はどうすればいいのか……」


 立ち上がったカリューが言った。


 結界をどうこうする以前に、既に俺達はモンスターに取り囲まれていた。

 俺達は、前面を覆っているモンスターの群れと後方のバリアの壁に挟まれてしまった。

 しかし、モンスターの群れは一向に俺達に襲ってこようとはしない。


「ようこそいらっしゃいました。我が館へ……」


 突然後で、男が裏声を出しているような気持ち悪い高い声が聞こえてきた。


 緑色の長い髪の毛と真っ黒の不気味なローブが風に揺れ、細い顔にある眼は真っ赤だ。

 写真で一度見て覚えている。館から出てきたのは魔族のデールだ。


「館の中から拝見していたところ、暗黒剣士のケルベロスさんが見えたので、こうして直々に外に出てきました」


 デールは武亮の行き先だけではなく、暗黒剣士ケルベロス自体を知っているらしい。

 しかし、どこを見て暗黒剣士ケルベロスと言っているのだろう?

 魔剣ケルベラーを持っているカリューを、暗黒剣士ケルベロスと勘違いしているのだろうか?


「お前、デールと言う魔族だな? 暗黒剣士ケルベロスって誰の事だよ? この魔剣ケルベラーって一体何なんだ?」


 カリューは言った。カリューの言葉を聞いて、デールは驚いたようだ。


「き、貴様、まだ人間としての心が残ったままなのか? どうりで普通の人間と一緒に行動している筈だ!」


 人間の心?

 俺の頭の中に魔剣ケルベラーに関する最悪のシナリオが浮かんだ。

 呪われた魔剣ケルベラーを装備し続けると人間の心を失い、暗黒剣士ケルベロスとして生まれ変わってしまうのではないだろうか。


「てめぇ、そこから出やがれぇ!」


 カリューはバリアの中にいるデールに向かって言った。


「ふふ、まあいい。まだ人間の心を残しているというなら、この俺がその邪魔な心を排除して立派な暗黒剣士ケルベロスにしてやろう。おまけの人間共には、俺の手足となっているモンスターで相手をしてやろう……」


 そう言うとデールは右手に持っていた髑髏の飾りがついた杖で地面をポン、と一回突いた。

 それが合図となったのか、俺達の周りで様子を窺っていたモンスターが一斉に襲い掛かってきた。


「ジェットにはさっき合図を送ったよ。ジェットが来るまでは、この場でなんとかしのぐよ!」


 そう言って、秋留はロッドを構えて、モソモソと呪文の詠唱を始めた。


 俺はネカーとネマーのトリガーを引いて、近づいてくるモンスターの眉間を狙って、打ち続けた。

 俺はネカーとネマーでモンスターを確実に倒しながら、デールを観察した。

 どうやら、デールは沢山のモンスターを同時に細かく動かす事は出来ないようだ。しかし、これだけ数がいれば関係ないような気もする。


 カリューも前へ出てケルベラーでモンスターを薙ぎ払っている。


「幻惑の霧!」


 秋留は敵モンスターを混乱させる幻想術の幻惑の霧を唱えた。辺りに紫色の霧がかかる。


 途端にモンスター達は同士討ちを始めたが、レベルの高いモンスターの何匹かは、尚も俺達へ攻撃を仕掛けてきた。俺は、数が少なくなり狙い安くなったモンスターを一匹ずつ倒していく。


「幻想士がいたか……。どうりで、館に近づくまで気付かなかった筈だ。しかし、その悪あがきもそこまでだ!」


 デールはいつの間にか呪文の詠唱を終えていたようで、奴の身体の周りからは異様な妖気が出ている。


「ダーク・ピラー!」


 デールは魔法を唱えた。今までに聞いた事のない魔法だ。

 デールが魔法を唱えたと同時に、前線で戦っていたカリューの足元に六亡星が現れた。


「危ない!」


 咄嗟に六亡星からカリューを突き飛ばしたのはジーニスだった。

 ジーニスはカリューの代わりに六亡星の上へ倒れ、それと同時に、六亡星から黒い光の柱が上がった。その黒い光は天高くまで舞い上がる。


「ジ、ジーニスゥゥ!」


 カリューは叫んだ。


 辺りは、黒い柱の威力により風が吹き荒れている。

 俺達が倒した何匹かのモンスターが、竜巻のような柱に吸い込まれていった。


 暫くすると、直径十メートル程あった黒い光の柱は、少しずつ小さくなり、やがて消えた。

 光の柱があった地面は大きく抉れ、その中心に、半分土砂に埋まっている人の姿がある。


「ジ、ジーニス……」


 カリューは半分虚ろな眼をして、土砂を下り始めた。

 その無気力な姿に俺も秋留も言葉を発する事が出来ないでいた。


 後ろで様子を窺っているデールは、その光景を見て、薄ら笑いを浮かべている。

 こんなバリアなどなければ、奴の身体中に、ありったけの硬貨をブチ込んでやるのに……。

 怒りに身体を震わせ、カリューの行動を見ていると、土砂に埋まった身体が突然何事も無かったかのように起き上がった。


 これには、その場にいる誰もが驚いた。

 土砂の中から姿を現したのは、ジーニスを抱いたジェットだった。


 バリアの向こう側で様子を窺っていたデールは、口を半分開けた状態で固まったようだ。


「なんとか間に合ったみたいじゃな」


 ジェットは地面が抉れて出来た穴から這い上がり、ジーニスを近くの木に寄りかからせた。

 木の傍には、銀星もいる。

 ジーニスの身体の土や埃を払いつつ、ジェットが口を開いた。


「黒魔術ダーク・ピラーは、丁度セイント・インディグネーションと反対の性質を持っている魔法で、聖なる心を持つ者にのみ、絶大なダメージを与えるんじゃ」


 ジェットがデールを睨みつけながら言った。


「そ、そんな事は知っている! 貴様はなぜ無事なのだ!」


 デールはそう言うと、杖を振った。


 それと同時に空中で待機していたドリルのようなくちばしを持った鳥、ピッガーがジェット目掛けて急降下してきた。

 鈍い音と共に、ジェットの背中にモンスターの鋭い嘴が突き刺さった。

 小さく呻き声を上げたジェットだったが、倒れる事なくそのままデールを睨みつける。


「ワシは死人なんじゃ。聖なる心など持っとらん……」


 そう言うと、ジェットは背中に突き刺さったモンスターを引き抜き、地面に叩きつけた。


 そのまま腰につけた鞘からマジックレイピアを引き抜くと、地面のモンスターに突き刺した。

 普段の紳士的なジェットでは、考えられないような行動だ。

 その眼は獣のように険しい。ジェットは怒っているようだ。


「ジーニス殿は、ワシを信じて安心してこの旅に参加してくれた……。ジーニス殿はワシが守ると約束したんじゃあ!」


 ジェットの迫力にデールは顔が引きつっている。

 ジェットは今にもデールに向かって飛びかかりそうな勢いだったが、まだ冷静さは無くしてはいないようだ。


 辺りはモンスターの屍だらけだが、デールのいる館の周りだけ、屍が転がっていない事を確認し、今はデールには近づけないと判断したらしい。さすが、戦いの年期が違うといったところか。


 ジェットの肩に手を置き、落ち着かせるように秋留が言った。


「危うくジーニスを殺されるところだったね。きちんと仕返しはしないと……」


 秋留は電撃のバリアの向こう側のデールを睨みつけて言った。


「岩山の巨人ジャイアントロックよ、我の前にその力を示せ! ジャイアント・フット!」


 デールがバリアの向こう側から魔法を唱える事が出来たという事は、あの電撃のバリアは物理的なものしか弾き返す力がない。秋留もその事を理解したのか、召喚魔法を唱えた。


 デールは何が起こるか分らず辺りを見渡していたが、奴の上空の空間が歪み出したのに俺は気付いた。


 空間からは、巨大な岩で出来た足が出てきたかと思うと、轟音と共に大地を踏み砕いた。


 しかしデールは寸前のところで空中にジャンプして、巨人の足を避けている。


「岩山の巨人ジャイアントロックよ、我の前にその力を示せ! ジャイアント・アーム!」


 秋留は連続で召喚魔法を唱えた。すると、空中で身動きの取れないデールの目の前の空間が歪み、そこから巨大な岩で出来た腕が飛び出してきた。


 空中のデールは避ける事が出来ずに、巨人の腕の攻撃をまともにくらった。

 骨が砕けたような鈍い音と共にデールの身体が吹き飛び、電撃のバリアを突き破って外に飛び出した。

 巨人の腕の攻撃の威力は高く、百メートル程吹き飛んだデールの身体は、近くの大きめの岩に叩きつけられた。


 デールは岩の前に倒れ込む。それと同時に今まで襲ってきていたモンスターの群れも動かなくなった。デールが意識を失ったためだろう。

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