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リベンジ! 惑わしの森

 ジリリリリリリリリッ!


 翌日、五時丁度に目覚まし時計の激しい音に起こされた。

 暫くは心臓が高鳴っていたので、落ち着くのを待ってベッドの毛布から出た。


 部屋を見渡すと、昨日のうちに返って来ていた銀色の装備一式を、ジェットが鏡の前で身につけているところだった。


「ブレイブ殿にカリュー殿、起きましたか。今日も晴れそうですぞ」


 死人のジェットに寝起きの悪さなどないようだ。朝からナイスミドルパワー全開だった。

 今はジェット一人だけ支度も終わり、お気に入りの口ヒゲを整えている際中だ。


 隣のベッドでは、カリューが起きてベッドに腰を掛けている。

 カリューも寝起きの良い方ではない。


「久しぶりの高配当な冒険だからな。気合を入れて行こうな」


 俺はカリューに言ったが、カリューは朝から不機嫌そうな顔で答えた。


「おい、ブレイブ。今回の冒険の目的は、武亮の足取りを掴む事だぞ? あくまで魔族退治はついでだ。分ってるな?」


「あ、ああ……」


 俺はカリューの機嫌をこれ以上悪化させないように答えたが、胸の中では全く同意などしていなかった。

 俺の目的はあくまで魔族退治で、2000万カリムは必ず頂く。武亮の行方は二の次だ。


 俺はクリーニングから返って来たばかりの綺麗なスーツに袖を通した。

 この黒いスーツは特注品で、鋼の糸が編み込まれた布で作られているため、防御力が高くとても軽い。

 ベルトには俺の愛銃のネカー&ネマーをホルスターでしっかりと固定し、シーフ専用の足の裏に動物の毛皮を張った黒い靴を履いた。

 ベルトの腰の部分には、昨日カリューが買って来た短剣を装備し、最後に色々仕込んでいる黒の手袋をはめて、俺の装備は完了だ。


 カリューも光り輝く青い装備に身を包んでいた。身体にはガイア教会で清められたブルーアーマーを装備し、左手には貴重なオリハルコンで作られた盾を装備している。また、背中には世界に一つしかない風のマントを羽織っている。


 風のマントはカリューの家に代々伝わるマントで、どこでどのように作られたかは不明だが、高い所から飛んだ時は、暫くの間、空を飛ぶ事が出来るらしい。カリューは怖くて今まで一度もその能力を使ったことがないという事だったが。


 俺はいつもカリューの貴重で高価な装備品一式を売りに出したくてウズウズしていた。いったい、総額いくらになるのだろう。


「さて、出発しよう。秋留は起きて準備終わってるのか? 女の準備は遅いからなぁ」


 部屋を出て行くカリューの腰には、聖なる羽衣に包まれた魔剣ケルベラーが装備されていた。

 今回の冒険で、剣の呪いから解放されるのだろうか。


 宿屋の前で6時に待ち合わせをしていたが、10分程過ぎた頃に秋留が眼を擦りながら宿屋から出てきた。

 秋留は、黒いチェストアーマーに赤いミニスカート、背中にはブラドーを装備している。


「秋留、おはよう」


 俺は秋留に軽く右手を挙げながら挨拶をしたが、秋留は黙ったままで何も言わなかった。

 やはり、朝早いのは辛いようだ。


 俺達は荷物を銀星の背中に縛りつけ、初めてこのジェーン・アンダーソン村に入ってきた時と同じように、『ジェーン・アンダーソン村へようこそ』というアーチの下をくぐって、惑わしの森に向かおうとした。


「待って下さい!」


 後から声をかけてきたのは、ジーニスだった。


「惑わしの森に行かれるそうですね。私も連れて行ってください」


 ジーニスは真っ白のローブを身にまとい、右手には太陽をイメージさせる飾りのついた杖を握り、背中にはリュックサックを背負っていた。


「これから行く所は、モンスターが戦陣を組んで襲ってくる惑わしの森だぞ? 危なくて連れて行くなんて出来る訳ないだろ」


 カリューは言った。


「私も知りたいんです! 私の曾祖母の命を奪った魔剣ケルベラーと暗黒騎士ケルベロスの関係を! どうか連れて行って下さい! 足手まといにはなりません!」


 ジーニスは顔を紅潮させて訴えていた。

 それ程曾祖母への想いが強かったようだ。一体、ジェーン・アンダーソンとはどのような人物だったのだろうか。


「ねぇ、カリュー? パーティーに司祭がいるのは良い事だよ? ジーニスさんを連れて行かない?」


 秋留はジーニスをパーティに加えるのは賛成のようだ。

 カリューは考えているようだったが、暫くして口を開いた。


「じゃあ、パーティ全員の意見を聞こう。まず、ジェットはどうだ? 賛成か? 反対か?」


「構わないですぞ。か弱い婦女子を守るのも騎士の役目ですから、ジーニスさんは安心してついてきて下され」


 ジェットの意見を聞いて、ジーニスの顔が明るくなった。

 か弱い婦女子……。俺は思わず秋留の方を見て、秋留と眼が合ってしまった。


「ブレイブ、何見てるのよ? どうせ私はか弱くないですよ〜だ!」


 秋留はそう言って、口を膨らませていた。俺は秋留のそういう顔をした時が大好きだ。


「じゃあ、ブレイブはどうだ?」


 秋留の膨れっ面に見とれていたが、俺が唯一気にしている事は一つだけだ。


「デールを倒した時の報奨金の分け前は無しだぜ?」


 俺以外の全員の眼が白くなっているのを感じたが、俺にとっては頭数が一人増えるのは重要な問題なのだ。


 2000万カリム÷5=400万カリム。つまり一人増えただけで分け前が100万カリムも減ってしまう。


「は、はい、勿論、お金なんていりません! 真実さえ分ればそれで満足です!」


 暫く呆気に取られていたジーニスだったが、良い返事をしてくれた。

 俺の意見を聞いて、呆れて話す気にもなれないカリューの代わりにジェットが言った。


「それでは、惑わしの森に向けて出発しましょう。ジーニス殿は荷物を銀星にくくりつけて下され」


 ジーニスが荷物をくくりつけている間、銀星は嬉しそうだった。

 正直、ジェットの性格に銀星は合っていないのではないだろうかと思ってしまう。


 ジーニスの荷物を銀星にくくりつけ終わると、俺達はジェーン・アンダーソン村のアーチをくぐり、惑わしの森に向けて出発した。


 外はまだ完全に日が出る前なので、幾分か涼しかった。

 体力の少ない秋留とジーニスは銀星に乗り、俺とカリューとジェットは歩いていた。

 銀星の野郎は女性二人を乗せて上機嫌で、足も速くなっている。


「おい! 銀星! もう少しペース落とせよ!」


 俺は銀星に向かって言ったが、奴は有頂天になっていて全然聞こえていないようだった。馬の耳に念仏だ。



 太陽が真上に来る前には、惑わしの森が遠くに見え始めていた。

 照りつけられた草原から熱気が立ち上り惑わしの森の外観を覆っていたが、森自体の威圧感は離れていても感じる事が出来る。


「で、これからどうするんだ? 前みたいに全速力で森を駆け抜けるのだけは勘弁だぞ?」


 俺は銀星に乗って、爪を弄っている秋留に聞いた。隣ではカリューも同意、という風にうなずいている。お互い全力疾走は、もうコリゴリだった。


「私がホーク・アイを唱えてデールのいる館の場所を探し出して、後はそこに向かってひたすらダッシュよ」


 ホーク・アイは召喚魔法で、唱えるとその者の眼に上空からの映像が見えるようになるらしい。

 しかし秋留の作戦だと、結局はまた走るという事になる。俺はそれだけでやる気が無くなってしまう。


「館までの最短ルートを探して、なるべく森の中を走る距離を短くするから」


 俺とカリューの不満気な顔を見て秋留がつけ加えたが、結局は走る事には変わりないようだ。


「後は、幻想術で私達の姿が見えないようにする。どれくらい相手を騙せるか分らないけど、やってみる価値はあるよ」


「な、なぁ、走らないと駄目なのか?」


 俺は懇願するように秋留に聞いた。


「う〜ん、デールに存在がバレる前に館に着きたいんだけど……」


 全員が何か良い方法はないかと考えていた沈黙の時間を破ったのは、ジェットだった。


「ワシが囮になりますぞ。幻想術も何もかかっていない状態で森に入って暴れますから、その間に皆様方は館に近づくという事でどうですかな?」


 確かにその方法だと先程の作戦よりは、何倍も確実な気はする。


「そ、そんな! ジェット様が囮なんて!」


 今まで黙って聞いていたジーニスは、ジェットの意見には賛成出来ないようだった。

 もしかすると、ジーニスも「冒険者オタク」なのかもしれない。しかも、ジェットのような老兵がタイプなのか?


「ジーニス殿、安心して下され。ワシは死人だから、何があっても死ぬ事はないんじゃ」


「で、でも……」


 ジーニスは悩んでいるようだったが、結局納得したらしく、銀星の背中から降りた。

 秋留もジーニスの意図を察し、銀星の背中から地面に華麗に着地した。


「じゃあ、ジェット、銀星に乗って存分に暴れてね。私達が館についたら合図を送るから、受け取ったらジェットも館に来るようにして?」


 秋留の説明を聞いて、ジェットは銀星に飛び乗った。


「それでは皆様方、無事を祈ってますぞ。何かあった時も合図を送って下されば、即行で駆けつけます。間に合わない場合は、ワシの仲間入りですな。ふぉっふぉっふぉ」


 笑えない冗談を言ってから、ジェットと銀星は惑わしの森に向かって消えていった。


「さ〜って、いつまでもジェットに囮になってもらう訳にもいかないし、急がないと囮だとバレる可能性があるからこっちも早速始めるよ」


 ロッドを構えつつ秋留は言った。


「天空の覇者ホルスよ、その眼力で万物を捉えよ……」


 秋留は眼を瞑って詠唱している。


「ホーク・アイ!」


 呪文と同時に秋留は空に顔を向け眼を開いた。その眼は鷹の眼のように鋭くなっているような感じを受ける。


 暫く秋留は眼を開けながら空中を眺めていたが、突然、俺達の方へ向き直った。

 その時には、いつもの可愛らしい秋留の眼に戻っていた。


「ここから少し東に進んでから森に入ろう。そのルートが館までの距離が一番近い。多分一時間程歩けば、館に到着するはずだよ」


 秋留の言った朗報に俺は胸を撫で下ろした。一時間くらいなら、万が一全力疾走する事になっても楽勝で走りきる事が出来るだろう。


 早速俺達は東へ20分程歩き、森の入り口までやってきた。


「じゃあ、次の段階だね。全員に幻想術をかけるよ」


 そう言うと、秋留は大きく円を描くように腕全体を動かしながら、呪文を詠唱し始めた。


 魔法と違い、幻想術は大きな声を発して呪文の詠唱をする訳ではないため、盗賊の俺の耳にも秋留が何を言っているのか聞き取る事は出来なかった。


「静寂の蜃気楼!」


 その言葉と共に俺達の周りにうっすらともやがかかったように見えた。


「これで相手は私達の姿が見え難くなったはずだよ」


 秋留が言ったその言葉を待っていたかのように、カリューが言った。


「よし! 惑わしの森、再突入だ」


 太陽の位置からすると、昼を少し過ぎたところだろうか。

 森の中は以前と同様に静まり返っていたが、獣の気配は感じる事が出来る。


「いる、いる……。そこら中を獣が徘徊しているぞ。俺が安全なルートを探して先頭を歩くから、皆は俺の後をついてきてくれ」


 俺は全員に注意を促した後、ネカー&ネマーをホルスターから取り出して構え、先頭に立って辺りを見渡した。


「どうやら今のところはデールに気付かれていないようだね。ブレイブの五感が生きているって事は、悪意の霧は使われていないみたいだし」


 俺の後ろにピッタリくっついている秋留が言った。今の俺達の陣形は先頭が俺で、その後ろが秋留、ジーニス、パーティの後ろをカリューが守っている。


 暫く進んでいると、遠くの方で獣の叫び声が聞こえ始めた。

 もっとも、盗賊である俺の耳には聞こえているが、他のメンバーには何も聞こえていないはずだ。


「どうやら、ジェットが戦闘を始めたみたいだ。辺りのモンスターが西に集まって行っている」


「ジェットはうまく囮をやっているようだね。今のうちにドンドン進んじゃおう」


 もしかしたら、秋留はジェットが囮を志願する事を分っていたのではないだろうか?

 そう思うのは、初めに話した作戦が秋留らしくなかったからだ。問題点が多すぎた。

 しかしジェットが囮を志願した事により、この作戦は大成功間違い無しと思えるようになった。


 暫くの間は、辺りを見渡しながら森の中を問題なく進んで行った。所々にトラップが仕掛けられていたが、俺の腕にかかれば発見する事は造作も無い事だ。


 トラップを解除しつつ進んでいたため、二時間近くかかってしまったが、どうやら目の前に見えてきたのが、目的の館らしい。


 町の図書館位の大きさで、館の周りには高くて大きい柵がつけられていた。館自体は赤い屋根で壁はレンガで出来ていたが、その全体には茨が巻きついている。


 その時、目の前に突然、六亡星の魔法陣が現れた。


「感付かれた!」


 秋留が叫んだと同時に、目の前の魔法陣から凶暴な猿のモンスター、エイプスが現れた。

 エイプスは皮の鎧と棍棒と盾を装備している。


 不意をつかれた俺は目の前のモンスターに攻撃する事が出来なかったが、後方で構えていたカリューの攻撃でエイプスの頭が空中を飛んだ。


 自分の頭が吹っ飛んでしまった事に身体が反応していないのか、エイプスの胴体は暫くその場に立ち尽くしていたが、やがて地面に倒れた。


「マジック・トラップだよ。デールがただの魔術師だと思って甘く見てたね」


 秋留が言った。


 マジック・トラップとは読んで字の如く魔法の罠だ。

 魔法の罠は、ある程度魔力のある者にしか発見する事が出来ないため、俺は気付かずに魔法陣を踏んでしまったようだ。


 しかし、マジック・トラップはその辺にいる魔術師には到底仕掛ける事が出来ないような高度な技のはずだ。デールは思っていたよりもかなりの強敵なのかもしれない。


「館まで走るぞ!」


 カリューの叫び声を合図に俺達は走り始めたが、俺の耳は続々と館へ集結してくるモンスターの足音を聞き取っていた。


 森中のモンスターが集結しようとしているだけで頭を抱えたくなる程の緊急事態だが、館の目の前まで走った俺達が目にしたのは、門の前で待ち構えている大型の一つ目モンスター、キングサイクロプスと中型のドラゴンであるグリーンドラゴンだった。


 キングサイクロプスは、巨大な一つ眼で俺達の姿を睨みつけている。


 三メートルはある黄金色の身体の大きさに負けない程の鉄のハンマーを構え、今にも襲って来そうだ。

 一方、グリーンドラゴンは、ドラゴンの中でも中型だが全長は十メートル程もある。身体は緑色の硬そうなウロコで覆われ、長い尻尾を振っている。


「やるしかないな! 援護を頼むぞ! 秋留! ブレイブ!」


 カリューはそう言うと、グリーンドラゴンに向かって魔剣ケルベラーを構えつつ走り出した。

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