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【改訂版】 盗賊ブレイブ@勇者パーティー御一行様  作者: 我道&九尾
呪われた勇者とジェーン・アンダーソン村
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再びの阿鼻叫喚

 俺達は、治安維持協会J・A村支部を出て、外で待機していた銀星の背中にカリューを乗せた。銀星は「また野郎かよ」という眼でカリューを見ている。


 カリューを銀星に乗せると、ジーニスに連れられ、ジェーン・アンダーソン村の入口近くにあるという宿屋のリフレッシュ・ハウスを目指して歩き始めた。


 宿屋に向かう途中に何人かの村人とすれ違ったが、突然泣き出したり、うずくまったりする事はなかった。どうやらジーニスが巻いた聖なる羽衣の効果のようだ。

 すれ違う人々は銀星の背中で倒れているカリューの姿を心配そうに眺めていた。


 暫くすると落ち着いたたたずまいの宿屋が見えてきた。

 他の民家や武器屋などと同様に赤い色のレンガで作られている。


「皆さん、着きました。ここがこの村一番の宿屋、リフレッシュ・ハウスです」


「助かりました、ジーニスさん。私達はこの町でフランスキーさんの言う「本部の対応」とやらを待ちます。カリューの剣について相談するために、アステカ大陸を目指すのはその後になりそうですね」


 秋留が嫌味を込めて言った。


「すみません。フランスキーさんも悪気があった訳ではなくて、この村の事を第一に考えた結果、ああいう態度に出てしまったのだと思います……」


「ジーニスさんが謝る事ではないですよ。悪いのは全部、あの中年デブのせいですから」


 相変わらず、秋留は言葉がキツイ。それを聞いたジーニスは笑いながら言った。


「ふふ、そうですね。あの中年ハゲ親父のせいですね。それでは、私はこれで失礼します。何かありましたら、この町のガイア教会にいますので呼んで下さい。それでは」


 ジーニスは中年ハゲ親父発言を残して、そそくさと宿屋を離れていった。


 早速俺達は宿屋の外に銀星を繋げて、チェックインを済ませた。


 秋留はいつも通り、俺達男三人とは別の部屋にチェックインを済ませている。何かあった時のために隣の部屋を借りているが、俺は一緒の部屋でも一向に構わない。むしろ同じ部屋がいい!


 俺達が借りた部屋は、宿屋の二階にあった。

 部屋に備えつけの家具はモノクロでまとめられていて気持ちを落ち着かせてくれる。


 ふと、部屋にあった姿見を覗くと、モンスターの返り血やほころびの目立つボロボロの装備をしているのに気付いた。

 昨日から今日にかけて、一日中森の中を駆け抜けモンスターと戦闘をしていた俺達の装備は、モンスターの返り血で汚れきっていたのだ。

 綺麗好きな俺の提案で『松屋クリーニング』を呼ぶ事にした。


 松屋クリーニングは、冒険者専用の、装備品を新品同様にしてくれると評判の店だ。

 クリーニングに出している間は、俺達の装備は予備で用意していた皮の鎧や布の服になってしまうが、町の中ならモンスターに襲われる事もそうそうないだろう。

 いつもならカリューの持つ魔剣の影響があるので町の中でも油断出来ないが、今はジーニスが巻いてくれた聖なる羽衣があるので更に安心だ。


 暫くすると、俺達の部屋に松屋クリーニングの受取係がやってきた。


 俺達は汚れてしまった自分の防具と、未だに気を失っているカリューの装備を外して受取係に渡した。念のため剣やロッドなどの武器は装備しておく事にする。勿論、俺の愛銃ネカー&ネマーも装備したままになっている。


 ついでに汚れてしまった銀星の身体も洗ってもらえるように、宿屋の主人に頼んだ。ただし健康チェックはしなくてもいい、という条件をつけておいた。


 俺達は身支度を整え、最近気を失う事が多くなってきたカリューをベッドに横たえると、遅めの昼御飯を食べるため定食屋を探しに宿屋を離れた。



 俺は森の中で見たワイルドウルフの後ろ足が忘れられず、ワイルドウルフの肉を扱っている店を探したが、無駄な努力に終わった。

 俺達が見つけたのは、町の広場から少し奥に入った場所にある、牛肉のステーキを食べさせてくれる牛肉天国という店だ。

 この際、肉が食べられればどこの店でも良い。すでに俺の腹は獣の雄叫びのような音を発していた。


 店内は薄暗く、まだ午後五時を回ったばかりの時間だったため、客は少なかった。俺達三人は町の噴水が見える窓際の席に座った。


 席について暫くすると、若いヒョロっとした男性のウェイターが注文を取りに俺達の席にやってきた。


 ジェットはステーキ500グラム・ライス付き、俺はこの店イチオシらしいステーキ丼を頼んだが、秋留は牛肉天国でチキン煮込み定食を頼んだ。

 一通り注文を聞き終えたウェイターは俺達の出で立ちを確認してから、話し掛けてきた。


「お客さん達、冒険者ですね?」


「ああ、そうだ。サーカス団にでも見えるか?」


 俺は凄みを効かせて意地悪っぽく言ってみたが、またしても童顔では迫力がなかったようで、ウェイターは俺の冗談は無視して話を続けた。ここの勘定を払う時は、ネカー&ネマーで硬貨をぶっ放して払ってやろうと心に誓った。


「お客さん方、結構屈強なパーティーに見えるんですが、もしかして惑わしの森を抜けてきたんですか?」


 ウェイターは気になる事を言い、その言葉に秋留が反応した。


「惑わしの森?」


「そうです、惑わしの森です。この町の北にある森で、野生の凶暴なモンスターを手なずけて操っている、魔術師の魔族がいるらしいですよ」


 それだ。俺達が必死で駆け抜けた森は惑わしの森という名前らしい。


 マップを確認した時は、森を迂回するように街道が通っていたのだが、『遠回りは弱虫のする事だ』という熱血漢のカリューの意味不明な意見で、森を突破する事になったのだった。


 それにしても、あのモンスターの大群は魔族が操っていたのか。どうりで秩序もないモンスターが隊列を組んで襲ってくる訳だ。


 暫くすると注文した料理が運ばれてきた。牛肉の美味そうな匂いが漂い、俺は思わず唾を飲み込んだ。

 肉を一切れ、口に運ぶ。ステーキソースが見事に肉にからみ、旨みを引き出している。

 俺は昨日からまともに食事を取っていなかった事もあり、ステーキ丼をただ無心に食べ続けた。空腹だったのは、他の二人も一緒らしく、特に会話もなくただひたすら料理を口に運んでいる。


 俺の右の席に座っているジェットが、器用にナイフとフォークで肉を切り分けていた。そのナイフ捌きは、モンスターをレイピアで細切れにしているかのようだ。

 ジェットのマナーの良さは育ちの良さを表しているが、寝たり食べたりする死人のジェットは俺の中で最大の不思議となっている。


 全員で食後の酒を飲みながら、テーブルの上にマップを広げて今後の予定について話し合った。前までは酒に強かった俺も、最近ではめっきり弱くなってしまったため、運ばれてきたビールを少し飲むと、黙ってマップを見る事にした。


「とりあえず、今いるジェーン・アンダーソン村が……マップのココだから……」


 秋留はマップを広げ、ジェーン・アンダーソン村を指差していたが、本当にあっているのかどうか疑問だ。俺も秋留もどちらかというと方向音痴な方だからだ。


「チェンバー大陸の港町ヤードまでは、順調に進めたとしても二週間はかかりそうですな」


 ジェットがマップを見つつ答えた。どうやらマップを指差している場所はあっていたようだ。


「後は、治安維持協会本部の対応を待つしかなさそうね。どれくらいで結果が出るのかな」


 秋留は頬杖をついて外を眺めている。夕焼けに秋留の顔が染まりとても幻想的だ。

 さすが幻想士、というところだろうか。


 俺が暫く秋留の顔を見ていると、向こうも気付いたのか、少し照れた顔をして言ってきた。


「ブレイブ、何見てんのよ?」


「見てるだけだよ、悪い?」


 俺は赤くなりそうな顔を必死で抑え、さりげなく、且つ、それなりの好意をアピールしてみせた。

 隣ではジェットが俺と秋留のやりとりを聞いて、ニヤニヤしている。まるで「若いもんはいいなぁ」と心の中で思っているようだ。


「ふぅ〜ん」


 秋留はそう言い、再び窓の外の景色を眺め始めたが、その秋留の顔が一気に青ざめていった。

 俺も気になり窓の外を眺めようとした瞬間、店の扉を勢いよく開け、子供が泣き叫びながら転がり込んできた。


「ぱぱ〜〜〜〜〜〜、助けてよ〜〜〜〜、怖いよぉ〜〜〜〜!」


 店を入ってきた子供が、この店の店主と思われる30歳位の男性の腰にしがみついて叫んでいる。


「おい! シェーン! 男が簡単に泣くなと前にも言っただろう?」


 どうやら、店に入ってきた男の子はここの店主の子供らしい。しかし一体、何があったのだろう。

 まるで何かに怯えているようだ。まさか、モンスターが町に侵入して来たのだろうか。


 店の中にいた他の客も心配そうに子供を見ている。


 今まで薄暗くて気付かなかったが、店の丁度反対側には、あのJ・A支部長のフランスキーもいた。

 治安維持協会の支部長を務めるフランスキーは子供の過剰な反応に、今にも席を立ち上がり子供の元へ近づきそうだ。

 フランスキーは同じ店で夕食を食べていたようだが、店内の暗さもあり、向こうはこっちに気付いていない。


「おい、秋留。店の反対側にあのフランスキーがいたぞ。ちょっと悪戯してやろうか?」


 俺は左手にネマーを構えながら言った。

 しかし、秋留はフランスキーが店にいる事を知って、更に青ざめたようだ。


「ブ、ブレイブ、ジェット。店の窓から広場の方を見て……」


 俺とジェットは同時に窓から噴水のある広場を見て絶句した。

 夕日の明かりが町を照らして赤いレンガの家が綺麗に輝いていたが、広場の一角だけは異様な空気と共に闇が落ちている。カリューだ……。


 カリューは魔剣ケルベラーを背中にかけた鞘に入れている。

 カリューは鎧を着けている時は腰の鞘に剣を収めているが、今のように普段着の時は背中に鞘をぶら下げて剣を収めているのだ。


 異様な殺気が少し離れたこの店でも感じるという事は、ジーニスの巻いた聖なる羽衣は取ってしまったらしい。


 泣き叫ぶ子供。傍にいるフランスキー。確実にこちらに近づいてくる呪われた剣を持つカリュー。


 どう考えても良い状況とは言えない。秋留が青ざめていたのも納得出来た。これ以上の問題を起せば、今後の冒険者活動に支障をきたすかもしれない。

 今やカリューはこちらの三人の姿を確認して、のん気に手まで振り始めている。


「三人同時に席を立って店を出たら、フランスキーに気付かれるかもしれない。俺が一人で店を抜けてあいつを止めてくる」


 俺はそう言うと、フランスキーに気付かれないように牛肉天国を出て、一目散にカリューの元へ走って行った。こんな事ならカリューをベッドに縛りつけておけば良かった。


「おい、ブレイブ。一体何がどうなったんだ?教えてく……」


 俺はカリューが最後まで話し終わる前に奴の口を抑え、宿屋のある方へ引きずっていった。


「カリュー! なんで聖なる羽衣を取ったんだ!」


 俺は、秋留と一緒に夕日を見ているのを邪魔された事もあって、カリューを怒鳴りつけた。


「もがもが……」


 口を俺に抑えられているカリューは喋る事が出来なかったが、俺の必死の形相に気付いたのか、暴れる事もなく、ただ素直に宿屋まで引きずられていた。

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