ファインダーごしに
消波ブロックの先の白い砂浜にさくらはいた。
裸足で、手には黒い靴をもって、首からペンタックスのカメラを提げていた。自分の足跡がなるべく砂浜に残らないように慎重に、かつステップを踏むように遊びながら歩いていた。
日差しは鋭く、砂浜に反射してぎらぎらしていた。でも不思議とその日差しに熱を感じない。僕は涼し気な顔をしている。呆けた顔ともいう。呆けた顔をするのは得意だ。意識はしていないけれど自然とそうなるのだ。
さくらは僕に向かって何かをしゃべっていた。分厚い海風のうねりに遮られ、ほとんど声が届かないけれど、僕はさくらの口元の動きに合わせて、なんとなくで相槌を打っていた。そんな僕に、さくらはぐっと親指を突き出した。砂浜よりも白くて繊細な親指だ。
全く気が付かないうちに、さくらは僕の見ているスクリーンの中の主役を担っていた。そしてさくら自身もまた、主役になっていることになど気が付いていない。そして、それに気が付いた途端嫌悪するに違いない。突き出した親指を、そのまま下に向けて僕に突き出すに決まっている。さくらは自分が目立つことが嫌いだ。
手で輪を作って即席の望遠鏡にして、砂浜にいる彼女を捉えると、彼女もまたカメラのファインダーでこちらを覗いているところだった。どちらかが目を背けるまで終わらない視線の攻防が始まった。
近くで、カンカンと甲高い踏切の音が響く。当然だけれど、砂浜には線路など敷かれていない。ならば、どこから聞こえているのか。それを探ろうとするには僕は彼女から目を離さなくてはならない。
ファインダーを覗いている彼女が再び何かをしゃべっている。というよりも、ほとんど叫んでいるに近い。相変わらず海風のうねりも強いし、カンカンと響く遮断機の音がとてつもなくやかましい。まるで僕の頬のすぐ横に踏切の遮断機があるかのようだ。もしかしたら、僕自身が踏切の上に立っているのかもしれない。
必死で何かを訴えている彼女に向かって、僕は親指をぐっと突き出す。