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54.ルーシャスの安否と恋占い

「ミューリアさんは、ここにいないルースが今どうしてるかもわかるんですか?」


 エデルが尋ねると、ミューリアは首を振った。


「ここにいない、赤魔鉱石(せきまこうせき)に魔力を込められない人のことを直接占うことはできないわ。けれどね、あなたを占うことでだいたいのことはわかるわよ」

「わたしを?」

「ええ。あなたの未来を占って、この先エディにとって良いことがある、と出たとするでしょう。今のあなたにとって一番求めていることは、ルーシャスがここへ来てくれることでしょう? だとしたらそれはきっと、ルーシャスが帰ってくるってことよね。それはいつか、あなたがどういうふうに過ごしていればその未来が訪れるのか、〝あなたのこと〟として具体的に視ていくことはできるの」

「へえ……」

「回りくどいやり方だけれど、占いってだいたいそういうものなのよ。私があなたたちがやってきた日にそのことがわかっていたのも、あなたとナイジャーを占うことはできなかったけれど、事前に〝私の未来〟を占ったことでこの先あなたたちと関わる私の姿が視えたからなの。エディの魔力のことがわかったのも、〝私の未来〟でそのことについて関わることがある、と視えたからね」

「それで、わたしが魔鉱石を壊しちゃうことを知ってたんですね」

「ええ。正直、それほどに大きな魔力量を持つ人は私も出会ったことがなかったから、やっぱりちょっと信じられなかったわ。自分の占いなのにね、そういうこともあるのよ」


 ふふふ、とおかしそうに笑うミューリアがくるりと瞬いてエデルを見つめた。


「今のエディは、恋占いをするときと似ているわね」

「恋占い……ですか」

「ええ。恋占いで相性を視てほしいってお客様がいるとするでしょう? でもこれから良い仲になりたいのだから、お相手はもちろん一緒に占いに来ているわけじゃないわよね。だから私たち占者は、来てくれたお客様の未来が良いものになるかどうかを占うの。恋占いのお客様は、気になるあの方と良い仲になれるかしらって心配しているから、そのことが石に現れる。今のエディはどう? ルーシャスが無事にあなたのもとに帰ってきてくれるかどうかを心配しているでしょう? 同じことよ」


 恋占いと同じと言われてしまうと、なんだか、ルーシャスのことばかり気にしているエデルが彼に恋をしている、と言っているように聞こえる。

 そんなわけがないのに、と思いながらも、耳のあたりが熱くなってくるのは否めなかった。


 エデルの心境をわかってか否か、ミューリアはにっこりと笑うと、「さあ」とエデルの手を取って赤魔鉱石に触れさせた。


「具体的に視てみましょうか」

「ここに魔力を込めれば良いんですか?」

「そう。でも魔力を込めるときに、あなたが考える一番素敵な未来を思い描いてね。叶うかどうかは考えなくて良いの。それは石が視てくれるわ。だから、一番こうなってほしいなと思う未来だけを考えて」

「あのう……。心配なので先に聞いておきたいんですけど、どれくらい魔力を込めたら良いんでしょうか」


 先ほど、ミューリアは「ない」と断言してくれたが、それでもこの赤魔鉱石を壊してしまったらと思うと気が気でない。

 恐る恐るエデルが尋ねると、しかしミューリアは嫌な顔ひとつせず「少しで大丈夫よ」と答えてくれた。


「本当は、ほんのちょっとあなたの魔力があれば占えますから。中には本当に持っている魔力が少ない人がいるから、いつも「思い切り魔力を込めて」とお願いしてるけど、ふつうの魔鉱石に魔力を溜めようと思う程度に込めてくれれば良いわ」

「う、はい。がんばってみます」


 その〝ふつう〟でさんざん魔鉱石を壊してきたエデルには難しい注文のように思えたが、緑魔鉱石(りょくまこうせき)より多くの魔力を溜められるものならばそうそう壊れることはないだろう。そう信じて、エデルはそうっと、本当にほんのちょっと(・・・・・・・)だけ、恐る恐る魔力を込めたのだった。


「――っ!」


 瞬間、赤い光があたりを包む。

 眼前のミューリアは黒目がちの目を瞠り、隣で成り行きを見守っていたナイジャーも驚いて仰け反る。


 ――これはたぶん、とてもまずい。


 エデルは急いで手を離して、光の収まった周囲を見渡し、それからミューリアの赤魔鉱石に釘づけになったふたりを見やった。


「あっ、あの! ごめ、ごめんなさい……!」


 確かに、赤魔鉱石は壊れなかった。けれどふたりの反応を見る限り、やっぱりとんでもないことを仕出かしてしまったらしいことはわかる。

 おろおろとふたりを見比べると、はっとしたようにミューリアがエデルに視線を向ける。


「ああ、いえ。こちらこそ驚いてごめんなさいね。――私が未来を視たときに視えたのはこの光景だったのねえ」

「え?」

「さっき、エディの魔力について〝私の未来〟を視ることで事前に知っていたと言ったでしょう。ちょうど今の光景が視えていたのよ。こんなに大量の魔力を込める子が来るんだってそのときにわかったんだけれど、実際に見てみるとやっぱり驚いてしまったわ」

「そうだったんですか」

「俺も、エディの魔力量はギレニア山脈で一度見てたはずなんだけどな。久しぶりに見た気がしてびっくりしちまったよ」


 確かに、エデルがナイジャーの前で魔力を放出したのはこれが二度目かもしれない。だとしたら、驚くのも無理はないだろう。

 非常識だとか、なにか危機感を抱かれているわけではないようだったので、エデルはほっと胸を撫で下ろした。


「結果は視えたのか?」


 ナイジャーに尋ねられ、ミューリアは苦笑気味に言った。


「ええ。それはもちろん。ちょっと視えすぎたくらいね」

「なにが視えましたか?」


 ミューリアはふたたびじっくりと赤魔鉱石を見つめる。エデルも反対側から同じように見つめてみるが、そこには透き通った赤い石の中に赤黒いもやがゆらゆらとしているだけで、エデルの未来が視えるようなものは何もない。これでなにがわかるのだろうと首をかしげると、ミューリアはひとつうなずいたのだった。


「まずは、ルーシャスね。彼は無事にここへたどり着いてくれそうよ。その未来にくもりはないから、このまま待っているだけで良いわ。――だけど、このまま大人しく待っていれば、ということだから、あなたが不用意に探し回ったりすると未来は変わってしまうの。覚えておいてね」


 ルーシャスは無事にここへ来てくれる。その言葉だけでもエデルの中から大きく力が抜けるのを感じた。しかしすぐに大人しくしていなさいと釘を差され、エデルはしっかりとうなずいた。


「次に、それがいつになるかだけど……ちょっと違う色が出てるわね。なにかしら」


 じっとミューリアが赤魔鉱石を見つめる。なにか問題があるのだろうかとエデルも身を乗り出すと、「あら」と彼女が声を上げた。


「あらあら。あらまあ」

「な、なんですか?」

「いえね、これは……ねえ」

「なにが視えたの? 姉さん」


 ナイジャーも首をかしげ、赤魔鉱石を覗き込む。しかしエデルと同様読み取れるものはまったくないようで、そうそうに眉をひそめてしまった。

 その間にも、ミューリアはなにやらくすくすと笑っている。実に楽しげだ。


「ええ、なるほどね」


 うなずいて、ミューリアは黒い目をエデルへと向けた。

 じっと見つめると、吸い込まれそうな色合いをしている。


 彼女の目は漆黒ではない。星明かりに照らされた、限りなく黒に近い紺、だった。

 緑層(りょくそう)のすっきりと晴れ渡った夜空のような目が、やわらかくエデルを見つめる。晴れ間が貴重な緑層にとって、その緑層に生きてきたエデルにとって、星明かりの美しい夜は心が躍るような心地にさせられるものだった。

 今の彼女は、そういう気持ちにさせる目をしていた。


「ルーシャスはここへ来るわ。だけど、いつになるかはあなた次第のようよ」

「わたし次第?」


 エデルはきょとんと瞬いた。ルーシャスがここへ来るためには、エデルが余計な真似はするなと釘を差されたばかりである。けれども、彼がいつここへ来られるかはエデル次第だ、と言う。どういうことだろうか。


「そう。占者はこの石に見えているもやから読み取れることを解釈して、それをあなたたちにもわかりやすい言葉で伝えるのが役割なのだけれど。このもやに出ていることを直訳するとね、あなたの想いの強さが願いを叶える鍵となる、とあるのよ」

「うーん……?」


 言葉の意味自体はわかるが、抽象的すぎて、それが〝いつルーシャスがやってくるのか〟とどうつながるのか、わからない。

 難しい顔をすると、ミューリアはころころと笑った。


「ね? ちゃんと伝わる言葉にしなければ意味がわからないでしょう。占者というのは、石の教えてくれる言葉をお客様にわかりやすく伝える翻訳者なのよ。――だからこれを私なりに解釈すると、あなたが自分の気持ちにちゃんと向き合えば、きっとその想いが届いて、彼はまたあなたのもとへ帰ってきてくれるでしょう、といったふうに読めるわね」

「……ますますわかりません」


 ついに口をへの字にすると、ミューリアはいよいよ声を上げて笑ったのだった。


「エディがエディの気持ちを見つけることが鍵なのよ。だから、これ以上はあなたが自分に向き合うしかないわねえ」

「わたしがわたしの気持ちに……」


 まだ腑に落ちなかったが、とにかく、とミューリアは手を打った。


「ルーシャスは無事よ。そのことがわかっただけでも安心なさいな。あとはあなたはここでゆっくり過ごせばいいの。ここにいる間はエディの安全は守られているから、誰かに脅かされるんじゃないかとか、あなたの魔力のことで嫌われてしまうんじゃないかとか、今日これからをどうやって凌いでいこうかとか、生きるために思考することはやめることね。――私たちはあなたの味方よ」

「……はあ。ありがとうございます……?」

「ナイジャーお兄さんもエディの味方だぜ」

「うん、ありがとう……?」


 エデルにはどうにも理解できなかったのだが、とにかくゆっくり過ごすこと、と決められてしまったので、その日の占いはお開きになった。


 このあと、やることもなくなり、ルーシャスの無事がわかった以上大穴に覗きに行くことも禁止されてしまったエデルは、本格的に時間を持て余すことになる。

 そうして実に退屈な日々を送ることになったのだった。

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