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19.これからの計画①

 ルーシャスの置いた魔鉱石を食べ始めたフロウの毛むくじゃらの足元からにょろりと白いものが這い出てきた。

 あれは蛇、のような、そうでないような。あるいはイタチにも見える生き物だ。

 フロウの前にぬるりと出てきたそれが、すっと立ち上がった。


 足は二本。鳥のような三趾足(さんしそく)だ。体は細長い流線型をしていて、頭から尾の先まで純白の羽毛で覆われている。長い胴体にぴったりと沿う折り畳んだ翼は大きく、腕はない。

 尾は太く、蛇というよりもトカゲのように太い。

 顔は細くマズルが突き出ていて、竜種の獣魔のようにも見えた。


 しかしエデルは内心で否定する。

 竜種は緑層(りょくそう)には生息していないからだ。こんなところにいるわけがない。

 珍しさからぼんやりと見つめていると、白い獣魔のたくさんの目と合った。


 ――目がたくさん?


 エデルは首をかしげた。

 その獣魔には、宝石のような青い目が十以上はあった。まるで蜘蛛のようである。もしかしたら、目玉は十以上ある中のふたつだけで、あとは模様なのかもしれない。

 そんな鳥のような竜のような獣魔がよたよたと前に出てきた。どこかおぼつかない足取りだ。フロウが育てている様子からも、おそらく他種族の妖獣なのだろうと見て取れた。

 その獣魔が無邪気に進み出て、ルーシャスが置いた魔鉱石を嬉しそうに拾い上げたのだった。


 木陰から漏れ出る朝日が、その獣魔の白い羽毛をきらきらと照らし出している。

 美しい獣魔の幼体だった。


 あれは昨夜、エデルの首に巻き付いて髪をかじっていた獣魔だ。あのときは暗がりでろくに姿も確認できなかったが、この無邪気な様子からすぐにわかる。

 しかし、昨夜首にかじりつかれたときには、あんな足はなかったように思えたのだが。エデルの首によじ登ってきたときも、フロウの咆哮に怯えて逃げ出したときも、動きは蛇そのものだったはずだ。


 昨夜のエデルに懐いてきた個体はあの子ではなかったのだろうかと首をかしげていると、不意に浮遊感が襲った。


「うわぁ!?」

「おっと、すまん。身体がクタクタだな」


 上半身は骨をなくしたようにぐにゃぐにゃで、すぐに背中に大きな手が添えられる。

 珍しい獣魔に見とれている間に、エデルはルーシャスに抱き上げられていた。ルーシャスの腕に座る形で危なげなく抱き上げてはくれているのだが、如何せんこちらの力がなさすぎる。ないというより、疲弊しすぎて上半身をまっすぐに保つ体力も残っていなかった。

 ぐらぐらと定まらない身体に不安を覚えて、エデルはルーシャスの太い首にかじりつく。


「ル、ルーシャス」

「よしよし、掴まってろよ」


 ぽん、と背中を叩かれた直後、ぐんと重力に引っ張られた。


「わ……」


 ルーシャスが跳んだ。エデルを抱えたまま、身長の何倍もあった崖の上まで軽々と。

 そうして重力を感じさせない軽やかさで崖上まで跳び上がると、待っていたナイジャーも急いで駆け寄ってくれたのだった。


「おお、エディ……ボロボロだな……。ごめんなぁ、ひとりにして」


 ルーシャスに抱かれたままのエデルを覗き込み、ナイジャーが太い眉をハの字にして申し訳なさそうにした。


 陽の光の下で見るナイジャーは、またいっそう美しい人だった。

 滝のようにまっすぐに流れる艷やかな濡羽色の黒髪を揺らし、憐憫に染める目元は薄氷のようなごくごく薄い青をしている。鞣した革のような褐色の肌と相まって美しく引き立てられていた。

 昨晩気づいたように、彼の瞳はきゅっと細く縦に絞られた瞳孔をしている。もともと目尻の垂れた甘やかな目元をしているが、痛ましそうに眉を下げるともっとやさしげな印象になる。


 びっくりするほどきれいな人だなぁと呆然と眺めていると、大きな手のひらが伸びてきてルーシャスと同じようにあちこちを検める。


「悪かったなぁ、ひとりにして。怖かっただろ。よく頑張ったなぁ」


 ナイジャーはそう言って、毛玉だらけでもつれたエデルの髪をわしわしと撫でた。


「大丈夫だよ。ありがと」


 ナイジャーがぽかんと大きな目を瞠り、エデルを抱き上げていたルーシャスは眉をひそめた。

 ちゃんと笑えていたはずだ。失敗しただろうか。


 エデルは内心ヒヤリとした。

 せっかく良くしてくれたのに、泣きそうな顔をして不快な思いをさせたくなかった。


 おろおろとふたりを見比べると、ナイジャーは口を開きかけ、結局は黙った。そのままぷらりと揺れるエデルの足を大切そうに手に取る。

 もともと養父のものでサイズの合っていなかった靴は脱げて、片方はなくしてしまった。いつなくしたかも覚えていない。素足のまま歩き回った記憶もなかった。だが、靴の脱げた足は靴下も破れ、爪が剥がれていた。そんなことにも気づかないくらい、昨夜は生き延びるのに必死だった。

 血と泥にまみれた足を手に取ろうとするから、エデルはひょいと引っ込めた。


「汚れるよ」

「汚れなんていつでも落とせるんだから」


 大きな褐色の手で包み込まれる。


 ――暖かい。

 

 この段になって、エデルは自分が体の芯から冷え切っていることにようやく気づいた。

 ナイジャーが何をしようとしているのかじっと眺めながら、改めて自分を抱きかかえているルーシャスも見つめてしまう。

 明るい中でふたりを見たのはこれが初めてなのだ。どちらもタイプの違う美丈夫であることに驚きつつも、観察してしまう好奇心を隠せないでいた。


 ナイジャーは誰が見ても目を奪われるだろう完璧に整った顔立ちをしている。「国の宝で世界的にも有名な美術品だ」と言われたら納得してしまいそうな風貌だが、一方でルーシャスもかなり整った顔立ちをしていた。

 眉ははっきりと弓なりに太く、同じようにまつ毛も色濃く長い。そして、それに負けないくらい黄金の瞳は大きく、強く印象に残る。


 ナイジャーが浮世離れした美貌だとしたら、ルーシャスはしっかりと人間味のある華やかな美丈夫だった。

 そうっと観察していると、ふと足に反発を覚えて引っ込める。


「あれ?」


 同時に、ナイジャーが首をかしげた。

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