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100.出発

 緑層(りょくそう)のある街に、その空港はある。

 青層(せいそう)へは空の旅になる。魔導具で浮遊力を得た船を魔力で動かし、空を飛んで青層へと向かうのだ。その発着場が緑層の大きな街に存在するのである。


 エデルは初めて訪れる都市とも言える街の規模に好奇心を隠せずにいたが、それよりもさらに驚かされたのが、ルーシャスの所有する〝船〟だった。


 空を飛び、青層から白々層(はくはくそう)までをつなぐ主要な交通手段となるこの船を、飛空船(ひくうせん)と呼ぶ。その大きさは定員によりまちまちだが、ルーシャスの所有する〈アエロ・ブロンデ〉号は見上げるほど大きい。船首から船尾までは走ってもなかなかたどり着けない長さだった。

 これでも個人所有だから小型なほうだと言われたら、公共交通機関として運行している船はどれほどの大きさなのか。


「なんで青層の島は見えるのに、この大きさの船がたくさん空を飛んでるのは見えないの?」


 船が大きいことに驚いたエデルの疑問はまさにそこだった。

 緑層では、常日頃から青層の島が上空を通過し、たびたび太陽の明かりを遮る。それが原因で戦争が勃発することだってあるほどなのに、こんな大きさの船があちこち空を飛び交っていて一度も姿を見たことがないのは一体どういうことか。


 ぱちくりと瞬きながら隣のルーシャスを見やると、彼はちょっと難しそうな顔をしながら腕を組んだ。


「航空法があるからだな。船で空を飛ぶときには、それ相応の幻影魔法を施して下層の人の日照権を遮らないようにする法律で……」

「そんなのがあるの? じゃあ青層の島も幻影魔法で見えなくすれば緑層が暗くなることもないんじゃない? どうしてやらないの?」

「あー、まあ、島ごと隠すのは色々と問題があって……」

「エディ、船に乗って落ち着いたらシーファに聞きな。あいつのほうが詳しいよ」

「ほんと? そうする!」


 エデルは興奮してうなずき、ドゥーベから降りた。


「ここで歴史と法律の授業が始まるのかと思ったぜ」

「どう要約して説明したものか迷ってな……」


 ルーシャスが困ったように眉を下げ、ナイジャーが笑いながら小突く。

 ふたりも馬から降りて、エデルがレテ村から持ってきた数少ない荷物を運び始めた。


 ここまでエデルの荷を運んでくれたのは、黒層(こくそう)との境の街に預けていた馬系獣魔(じゅうま)のドゥーベだ。エデルが最初に誘拐されたとき、彼女を逃がしてくれた立役者でもある。


 ドゥーベの仕事はここまでで、このあとはエデルとは別れ、緑層のルーシャスの知り合いに引き取られることが決まっていた。〈アエロ・ブロンデ〉号は大きいが、それでも大地を飛ぶように駆ける馬系獣魔のエスローにとっては狭く、連れて行くには向かない。ここで大事にしてくれる人に引き取られるほうが幸せになれるだろうと話がまとまったのだ。


 ドゥーベとはしっかり別れを惜しみ、船に乗ってからのエデルは忙しなくあちこちを探検している。出航までは好きにしていて良いと言われたから、大きな帆船を走り回るように隅から隅まで見て回っていた。


「空の船なのにどうして帆船と同じ形なの?」

「こんな大きなものを動かすには莫大な魔力量が必要になる。ずっと魔力で動かしてたんじゃ燃費が悪くて仕方ないからな。気流に乗ったら推進力を風の力で補うんだ。海の船と一緒だよ」

「へえ」

「エディ」


 あちこち探検してはルーシャスのもとに戻ってきてあれこれと質問を重ねるエデルに、出航準備で忙しいはずのルーシャスは丁寧に答えていく。そのエデルのもとに、苦笑を滲ませたナイジャーがやってきた。


「ルースの邪魔するなとは言わねえけど、もうちょっと落ち着いてくれ。どこにいるかわからなくて船倉まで探しに行っちまったよ」

「ごめんなさい……」

「しばらくは白蛇ともども、どこにいるか知らせてくれるように鈴でもつけとくかねえ」

「白蛇? ――あっ!」


 ナイジャーの懐からなにかが勢いよく飛び出してきたかと思えば、白い矢のようなそれはエデルの身体をぐるぐると這い回り、首元に巻き付いて落ち着いた。そうして、くるるる、と機嫌の良さそうな鳴き声を上げながら、ふわふわの白い羽毛をエデルの頬へと擦りつけたのである。


「白蛇ちゃん!」

「ようやく手続きが終わってさ。他の捕らえられてた獣魔と一緒に青層の依頼主のとこまで送られたかと思ったけど、まあ間に合って良かったわ。でも一度依頼主に見せに行こうな。そいつも違法売買の被害者だから、ちゃんと調査したいって先方から話があったのよ」

「うん。白蛇ちゃんも助けてくれてありがとう」


 エデルがバガスの街で誘拐されたあと、エデル自身を迎えに来てくれたのはルーシャスだったが、その一方で違法売買に出品されていたこのウィットランドーグの幼獣はナイジャーが救出してくれたのである。


 もちろん他の獣魔たちも既に保護されていて、各々あるべき場所へと返されている。

 だがこのウィットランドーグの幼獣は孤児だった。自然に返そうにもひとりでは生きていけない。だとしたら、一番懐かれているエデルが引き取るのが最善だろう、と話がまとまっていたのだ。


 エデルは喜びを爆発させながらぐねぐねと身体に巻き付いてくる白い蛇のような幼獣を抱きしめ、撫でくりまわし、甘える仕草に応えてやる。

 そんな彼女を微笑ましく見つめながらルーシャスは尋ねたのだった。


「名前はもう決めたのか?」

「実はまだ。だって、一生の名前でしょ? 考え出したら悩んじゃって……。アンリが街で本をいっぱい買ってきてくれたから、それを見ながら決めるつもり」

「そうか。ゆっくり考えたら良い」

「しかし、エディも騎竜持ちかあ。魔力操作と合わせてこっちも訓練していかないと、そいつあっという間にでかくなるからな」


 ナイジャーがしみじみと息をつくので、エデルも身体に巻き付いた白蛇の胴体を持ち上げてみる。


「確かにこの子、ちょっと見ない間にだいぶ大きくなった気がするんだよね……」

「最終的にはこの船と同じくらいのサイズになるぞ」

「えっ!?」


 それでは、この船で育ててあげることはできないのではないだろうか。

 驚いて声をあげると、ルーシャスは呵々と笑った。


「まあ、ウィットランドーグは身体変化魔法で大きさは自由自在だからな。本来の大きさはそれくらいになるが、普段はおまえの扱いやすい大きさでいてくれるさ。ちゃんと躾けて言うことを聞かせられれば、だが」

「そっか……。じゃあ、訓練がんばらなきゃね」

「そういうこと」


 ナイジャーが軽く笑って船室へと戻っていった。


「団長ー! 出航準備できたぜ」

「ああ」


 団員の合図にルーシャスが答え、穏やかな金の目をエデルへと向ける。


「さて、青層へ向けて出発するぞ。準備は良いか?」

「うん!」


 エデルは弾けるような笑みを浮かべ、ルーシャスの手をぎゅっと握った。


 これから、エデルの新しい生活が始まる。

 ひとりで生きていくのではない。ルーシャスとその仲間とともに、これから先の人生を始めるのだ。




【最弱でチートの無能娘、最強戦士に拾われまして。 完】

エデルとルーシャスの物語、これにて完結です。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。少しでも楽しいお時間をお届けできていれば幸いです。

最後に、ぜひ下にある評価「★」×5とブックマーク、そして一言でも構いませんので、感想をいただければ大変うれしいです。

読み終えたのでブックマークを外される方もいらっしゃると思います。

ここまで大変お疲れ様でした。

ブックマークを外す際は、ぜひ外す代わりに「★」をひとつでも押して行っていただけると嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。


「なろう」に出そうと思って初めて書いた作品だったので、色々と迷走したり足りない部分があったり、やり直したいこともたくさんあります。

ですがふたりの物語は一旦これにて幕を閉じます。

このお話を糧に、今後もより楽しんでいただけるよう工夫していきたいと思っております。


7/14追記

新連載はじまりました。→https://ncode.syosetu.com/n0507jh/

今回よりもう少し恋愛要素をスパイスに、異世界転移(転生?)の王宮ドタバタ劇、になる予定です。

どうぞよろしくお願いいたします!


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