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東京リバースギフテッド  作者: 黄原凛斗
厭世者たちの狂想曲
17/33

三姫集結



 上機嫌な吉田さんだったが前回説明したことと同じように、現状とこれから起こることを伝えた。もちろん、3周目の鈴檎の情報も。


「で、死んだら寝て起きたタイミングまで戻るんだっけ?」


「多分……今までは少なくともそのタイミングでした」


「へぇ。じゃあまた説明するのも大変だし……」


 吉田さんは懐から何かを取り出したかと思うと俺にひょいっと投げつけてくる。咄嗟に受け取ると小さな袋のようで、くらっとする香りがツンと鼻の奥に染みる。

 それと同時に意識が暗転した。



――――――――――



 美沙杜の世界には誰もいない。静かな水面と瓦礫があるだけだ。


「美沙杜……?」


 今までつきまとっていた彼女が急に消えたからか不気味さを感じる。

 この夢を見ているということは完全に離れたわけではなさそうだが……。


 ふと振り返ると突っ立っている美沙杜が俺をじっと見ていたことに気がつく。

 その目はどこか呆れているようだった。


「み――」


 美沙杜に声をかけようとしてすぐ、夢から覚める感覚に引き上げられた。



――――――――――



「おーい、起きろー」


 ペチペチと軽く顔を叩かれる。

 目を覚ますとこちらを見下ろしている吉田さんと目があった。

 倉庫代わりの部屋。さっき吉田さんが投げつけてきたもののせいで意識を失っていたらしい。


「さて、お前今どのタイミングだ?」


「吉田さんがなんか投げてきたのは覚えてます……」


「あ、じゃあまだループしてねーのな。オッケー。んじゃそろそろ動くぞ。3分くらい経ったから」


 せめて先に言ってほしかったがこれがうまくいっているなら再開(セーブ)地点が吉田さんの信用を得た後なので悪くはない。


「んで、鈴檎ちゃんはいきなり下手に触らない方がいいとして……異能のヒントになりそうなことあったか?」


「あ、そういえば……」


 鈴檎はやたら視線を合わせないようにしていた。そして、異能が発動したときは顔を上げ、しっかりとものを見ていた。


「もしかしたら……魔眼か炯眼、かもしれない……?」


「うげ、マジか。だとしたら厄介だな」


 嫌そうに顔をしかめながらポケットをゴソゴソ漁りながら部屋から出て言う。


「識文を暴走させない。鈴檎ちゃんの能力を使わせない。とりあえずはここを目指す。残り1つしかねーけど、これ使え」


 そういって投げられたのはさっき俺に使われた小さな袋のようなもの。

 今度は鼻にくる匂いはしなかった。


「眠り香っていってな、霊具(れいぐ)の一種だ。使うときは袋の紐を解いて匂いを嗅がせればいい。ま、識文相手だと嗅がせるのがまず難しいからどうせ使えないしな」


 そうか、識文さんがそもそも強いし、暴走してても反応速度が早いから意味がないのか。

 だとしたら鈴檎本人はそこまで身体能力が高そうではないから使いどころだろう。


「んで、鈴檎ちゃんには急いで触らない方針でいこう。たしかそのうち勝手に出てくるはずなんだろ? 結依ちゃんがやたら喧嘩腰っぽいのも変だし、俺もついててやるから」


 ついててくれると言われホッとする。正直、能力すらわからないが吉田さんは識文さんと和泉さんがあれだけ信頼してるし、二人の喧嘩を止めてることから強くないわけがない。

 いざ揃って3人のところに戻ると、大人組が少し驚いたような顔をして吉田さんを見る。


「あれ、起きたんだ?」


「綜真の用は何だったのさ」


「ん~、ナイショの話。それより何してたんだ?」


 勉強会とかをしていた流れだったが俺が戻ってくる前は勉強というより結依の異能についての話をしていたようだ。


 なんでも、結依の異能は結依の兄とおおよそ同じ能力らしく、彼ができていたことが結依もできるのでは?ということらしい。


「そういやルフはワイヤーとか有刺鉄線出してたな」


 思い出すように吉田さんが言う。それができたら今までの縄だけより色々応用ができそうだ。


「結依はできねーの?」


 結依に問いかけると気まずそうな顔をされたかと思うと、手を出して異能を発現させる。出てきたのは柔らかい毛糸。


「硬いものがうまく出せなくて……」


「イメージですよ、イメージ。生成系は他の異能よりもイメージすることで生成物の自由度があがりますからね」


 識文さんが紙に描きながら説明をし、結依はふんふんと頷きながら生成しようと頑張っている。

 和泉さんは暇なのかタブレットでニュースを見ているようだ。


「そういえば田吉。夕子さんと連絡取れた?」


「いや、まだ無理そう。一応送っておいたけど既読すらつかないし忙しいんだと思う」


「ふーん。じゃあ時葛くんの鑑定はまだかかりそうだし、ほか当たる?」


「それも考えたけどあっちは気難しいから保留」


 俺の異能鑑定についてらしいがこれは吉田さんの反応を見るにまだ先になりそうだ。

 話が一息ついてから吉田さんに耳打ちする。


「このままだと鈴檎が水を求めにやってくるんですけど、どうしましょう?」


「おー、じゃあ俺行ってみるわ」


 軽いお使いというノリでミネラルウォーターのペットボトルを取って一旦リビングから離れると、結依がそれをじっと見て吉田さんを見送った。


「どうした?」


「ううん。吉田さん、あの子のところ行ったのかな」


「そうだよ。俺より吉田さんの方がトラブルあったときより安全だろうし、お願いしたんだ」


「ふーん」


 結依の機嫌が心なしかよくなった気がする。が、まだどこか刺々しい。


「なあ、なんか鈴檎に怒ってる?」


「そういうわけじゃないけど……なんか……嫌な感じして」


 嫌な感じ、という漠然としたコメント。

 ただ個人の好き嫌いならいいのだが……いや全然よくないけど個人的な感情まではどうしようもないし。


 ほどなくして吉田さんが戻ってきた。特に何かあったわけでもなく、穏やかすぎて逆に怖くなってくる。


「異能使う気配はなかったな。まあ俺に警戒してただけかもだけど」


 耳打ちしてきた吉田さんに「わかりました」とだけ返して結依たちを見る。

 ここまではいい。

 ここから先が肝心――


 そう思っていたら、急に窓から巨大な鉄骨が突っ込んできた。


 幸い、誰も怪我はしていないが一瞬のうちに鉄骨でリビングが破壊され、その場に降り立った少女が一人、舌打ちする。


「あーもう我慢できない! そろそろ暴れるから! 二つ名持ちだろうと狩れば問題ないわよ!」


 それは最初にも見た赤ずきんだった。そういやあれ以来こいつのこと見てないから忘れていた。

 鈴檎もだけどなんとかしないといけないものが複数あってどれかを抑えたらどれかが爆発する。理不尽すぎるだろ。


「まったく~。せっかくの仕込みも働いてないようじゃ突撃したくなるのもわかるけど」


 赤ずきんに続いて現れたのはエプロンドレスの少女。一周目のときに会ったときは既にボロボロだったのであまり脅威は感じないが……。


「じゃ、結依た~ん」


 微笑みながら結依の方を見る少女は次第ににんまり笑って「おけ~」とだけ言う。

 結依の方を慌てて確認するため振り返る。


 結依が消えていた。


 やべぇ、何が起こった?

 侵入してきた赤ずきんはあの妖怪女に突撃するようなやつだ。結依がいきなり消えた原因とは思いづらい。とすればあっちの少女――!


「目的は?」


 吉田さんが極めて冷静な声音で二人に問う。和泉さんと識文さんも警戒しているが、吉田さんに制される。


「ブッ狩る(コロス)!」


「結依たんは殺しちゃダメだよ」


 赤ずきんが好戦的な一方でエプロンドレス少女は冷静に赤ずきんにツッコんでいる。自白してくれて助かる。

 結依目的だとして結依はどこいった?


 結依のことに意識がいっていると吉田さんが声を張り上げる。


「識文! 受けるな!」


 えっ、と声を出す前に識文さんがその場で押しつぶされる。

 ハッとして扉の方を見ると顔を半分覗かせた鈴檎が涙目で視ていた。


「うっ、うぅ……ごめんなさい、だ、だって怖くて……」


 このままだと識文さんの暴走――


 そう焦りを覚えた瞬間、痛みすら感じる間もなく死の感覚が訪れる。

 なぜ、と考える前に、識文さんではない誰か(・・)に首がへし折られて暗転した。




――――――――――



「死にました……」


「お、おう。おはよ」


 第一声がこれだったからかちょっと反応が引き気味だった。吉田さんの視点だといきなり起きたらこんなこと言ってるようにしか見えないだろうし仕方ない。


「死因は?」


「すいません……識文さんが暴走したと思ったらなぜかいつの間にか死んでて……」


 考えられるのは赤ずきんだろうか? でもいつの間、どうやって?

 いや、それを言ったらエプロンドレスの少女も同じだし、方法はこの際ノーヒントなら気にしても……いや、ノーヒントではない。


 ふと、1周目のときのことを思い出す。


 あのエプロンドレスの少女は取り出した鉄骨が急に大きくなっていた。

 そして、エプロンドレスの少女がアジトに投げつけてきた鉄骨も、やけに大きかった。

 身体能力を霊術で強化したところであんな風に投げられるものではないし、そもそも1周目のとき『大きさを変えていた』気がする。


 先日の新入者二人もそうだが、急に現れたようで『気づかれないよう、小さな隙間から入り込んだ』のだとしたら……?

 結依も消えたのではなく、足元をよく見ないと気づけないほど小さくされたのだったら……?


「敵の異能、1つわかったかもしれません」


 大きさの範囲はわからないがそういう異能があるとわかればまだ対処できるかもしれない。


「大きさ……それだとしたら地味にめんどいな~……無条件で変えてくるなら対策が限られるし」


「赤ずきんの方は結局なんの異能かわからなかったな……」


「鈴檎ちゃんも騒ぎに乗じてやってくる、と。うーん、先に鈴檎ちゃん眠らせるか?」


「そういえば仕込みがどうのって言ってたし、ある程度こっちの状況を把握してるみたいです」


「……じゃあ鈴檎ちゃん眠らせてもそれが相手にバレて裏かかれる恐れもあるか。チッ、厄介だな」


 本当に厄介である。前回俺が死んだ理由もはっきりしないし。


「そういえば気になったんですけど……」


 はっきり確認しておかなかったことがある。もっと早く確認しておけばよかったが、そもそもそうならないように意識していたせいですっかりし忘れていた。


「識文さんの暴走状態とか異能の発動ってどうしたら止まるんですか?」


 暴走はともかく、初期段階でも理性が飛びかけているような状態から普段の状態に戻る方法はあるはずだ。

 それが他人がどうにかできるのであれば……。


「識文のなー。あれ、程度が低いなら自前で持ってる霊薬使ってるんだよ、たしか。軽めの怪我なら治せるんだけど、識文の異能は傷が治ったり、霊薬を飲むと収まるよ。んで、あとは一回気絶か眠らせる。これが暴走したときの対処法。さすがに俺も一回しかしてないけど」


「眠らせる……」


 眠り香を使うにしろ、識文さんの動きを止める方法がなければ難しい。


「暴走した識文さん止める方法ってないんですかね」


「あ、あるには……ある」


 俺の疑問に吉田さんは言いづらそうな反応をする。なんというか、気まずそうな顔だ。


「ただー……まあ、あんまり使いたがらないだろうから……いざとなったら使わせるけど」


 あれ、吉田さんの異能関係じゃなかった。となるともう一つ異能がある和泉さんか?


 作戦会議も煮詰まったので俺にとっては再び、吉田さんにとってはようやく下に降りて3人のいるリビングに合流した。

 この間に鈴檎を眠らせるか?


 そう考えていると、リビングに巨大鉄骨が襲来した。

 いやなんで!? タイミングとしてはまだ先のはずだ。


「暇暇暇~! どうせ白雪のやつ使えそうにないし! さっさと狩るわ!」


 嘘じゃん……。


 普通こういうのってループ前と同じ条件になるもんじゃん?


 マジで気まぐれ行動すぎて前回のタイミングが一切反映されてねぇ!


 咄嗟に結依の手を掴む。これで異変が起これば確定。起こらなければそれはそれで安全を確保できる。


「あらら、きょーすけくん、今頃頭抱えてるだろうなー」


 エプロンドレスの少女が現れ、呟いたキョウスケ、という名に俺だけでなく結依や吉田さんも反応を示す。

 その反応を見越してか少女と結依の目が合うと、結依が小さくなった。


「結依!?」


 小さくて手のひらどころか親指くらいの大きさにまで縮んだせいで手が離れたがすぐに見つけることができた。

 結依は何か言っているようだが声が小さくなっていて聞き取りづらい。

 敵に盗られないよう手のひらに乗せると慌ててリビングの入口を確認する。

 この騒ぎに乗じて鈴檎が来ていたら――


「ひっ……! アリスちゃん……赤ずきんちゃん……!」


 いた。しかし、俺たちや識文さんではなく、少女たちを見てびくびくしている。


「ちょっと白雪! あんたが一番槍もらえてんのになにしてんの? さっさと働け!」


 赤ずきんの怒声に鈴檎がびくっと顔を俯かせる。


「まあまあ、赤ずきんちゃん。三人揃ってんだし、怒るとあの子の異能対象になっちゃうよ?」


 エプロンドレスの少女が俺たちに向かって一礼する。


「さて、結依たそを渡してくれると嬉しいな~、お兄さん方」


 識文さんは無事。結依も小さくはされたが一旦は安否確認。

 ここからが勝負――!





"アリス"――異能(ギフテッド)炯眼(けいがん)・サイズ変化】


"白雪姫・雪平鈴檎"――異能(ギフテッド)【????】


"赤ずきん"――異能(ギフテッド)【??】





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