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おかけになった電話番号は。

真珠の色は透きとおり。

作者: 由宇ノ木





今日は娘の結婚式。

真っ白なウエディングドレスに真っ白な真珠のネックレスが輝いている。


相手の方は実直な照れ屋さん。

お父さんに似てるわね。

お父さんっ子だものね。

誠実なひとを選んでくれてうれしいわ。


私はあれからお見合いで、望まれそのまま嫁ぐことを選んだ。


大きな体で見合いの席で、真っ赤な顔で緊張してるのがなんともいじらしくてかわいいと思った。


最初のデート。

お見合い相手が高校の、ひとつ上の先輩なんて偶然ね、と話したら、

彼はやっぱり真っ赤な顔で、実はお見合いしたいと自分から頼んだのだと聞かされ驚いた。


結婚間近で破談になった事情を伝えた。

人の気持ちなどいつ変わっているかわからない。はた目からはわからない。


あなたは真剣な顔で、自分はずるい男だと言った。

何もかも知ってて、君の悲しみにつけこんでいる。君と結婚したくて。

君の悲しみも苦しみも全部一緒に背負いたい。背負わせてほしい。

あなたはそう言った。


人の気持ちなどいつ変わっているかわからない。

そこには私も含まれている。


私だっていつ変わってしまうかわからない。

いつか裏切るかもしれない。

どうやってあなたを信じればいいかわからない。

どうやって自分を信じればいいかわからない。

何もかもわからない。

私はどうすればいいのか。




二度めのデート。

柔道をこよなく愛し、子供達に教える(さま)は、見ていてなんとも清々しく楽しかった。

子供たちを叱るあなた。

子供たちの笑顔を受け止めるあなた。

子供たちと同じ瞳で私に笑いかけてくれるあなた。


信じたいと思った。あなたを。

いま、あなたを信じなければ、私は一生誰も信じられなくなる。自分さえも。

だから、


「結婚してください」


私からのプロポーズに、あなたは腰を抜かして座り込んでしまった。

子供達がはしゃいで大騒ぎをしている。

子供達が証人よ。


結婚式には子供達も呼んで、あなたは見事な大泣きを披露してくれた。







裏切りを知った日、あの人と二人で暮らす部屋に涙の粒が転がっている幻をみた。


真珠のようにコロコロと散らばってゆく、涙の粒は透きとおり・・。







「お母さん?どうしたの?」


娘に声をかけられて、私はいまに引き戻された。

「お母さんの結婚式のときを思い出してたのよ」

「ああ、お父さんが号泣した伝説の結婚式ね」

「きっと今日も泣くわよ」

「そうね。お母さん、なぐさめてあげてね。お父さんは結局お母さんがいればそれでいい人なんだから」

娘が笑う。

私も笑う。


「おーい、ちょっと来てくれないかー?」


ドアの外から声がした。

「お父さんだ」

「そうね。ちょっと行ってくるわ」

私がドアを開けて出ると、夫は鼻をぐずぐずさせ、鼻先はすでに赤くなっていた。

「あなたったらもう泣いてるの?」

「いやいや泣いてないよ。花粉症だよ」

「今年だけね」

私が笑うと、夫は苦笑いをこぼして鼻をかんだ。


笑いあえる幸せを、つくってくれた私の大事な(ひと)


あなたが私をみつけてくれてよかった。






いい人生だったわ。

心からそう思える。

私のまわりにはみんないてくれる。優しい家族に囲まれている。


心配しないで。

こぼれ落ちる涙は幸せに生きた証しの涙よ。


先に逝ったあなたは私を迎えにきてくれると約束してくれた。


目を閉じればほら、あなたがいるわ。

約束守ってくれたのね。


みんな、みんな、ありがとう。


素晴らしい人生をありがとう。









~fin~



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