<強さの条件>
サクラも成長して7歳になったころ、いつの間にかサクラもマリアの身長に近づいてくるまでになった。毎日の食事の量を見ていれば納得の成長であるが、これでサクラも成人である14歳までの折り返し地点まで来たということだ。
だが、そんなサクラも成長するにしたがって反抗期が訪れるようになった。
「いーやーだー」
それは夜の寝室で起こった。俺たち家族三人はサクラを真ん中にして川の字に並んで寝ているのだが、サクラがそれに駄々をこねているのだ。なんでもウサギの獣人の習性として一番弱い個体ほど真ん中にして寝るというものがあるらしく、俺としては夫婦で子供を挟んで寝ているというだけなのだが、サクラはそれに納得がいっていないのだという。
「私の方がお父さんよりも強いもん」
マリアにそう訴えるサクラを俺はただ見ているだけである。サクラの言っていることが普通のウサギの獣人にとってどれほどのものかわからないし、否定するべきものでもないのだ。
「あのね、サクラ。強さというものは相手一人だけの強さではないの」
「どういうこと」
「もしあなたがお父さんと戦ったら勝てる?」
「勝てるよ」
随分と物騒な会話である。
「でもサクラがお父さんを相手にするのなら私も一緒に相手にすることになるけどそれでも勝てる?」
「え?」
「つまりお父さん一人だけを見れば弱いかもしれないけど、私を味方につけられるお父さんはあなたよりも強いということなのよ」
何となくわかる理論である。
「そんなのずるいよ」
「いいえ、私を味方につけるというのもお父さんの力でもあり強さなの」
サクラの立っていた耳もいつの間にかペタリと倒れていてこれ以上の反論は無いようだった。
「さあ、もう寝るわよ」
サクラはおとなしく俺とマリアの間に入って横になった。しかしマリアはそんなサクラをしっかりと抱きしめると優しい声でサクラに言う。
「でもね、もしあなたにもしものことがあったら、私もお父さんも必ずサクラの味方になるからね」
この言葉サクラは何も言わずただマリアの胸に頭をこすりつけてマリアのことを抱き返した。おそらく少し拗ねているのだろうがいちいち可愛い娘である。そして俺はそんなサクラの頭を撫でながらゆっくりと眠りについたのだった。