<星空の下で>
サクラが寝室で眠りにつき、ルーナも家の裏で眠りについているその時間。俺とマリアは家の外で二人して野原に寝転がっていた。晴れた日の星空の下で行なうことができる唯一の二人だけの時間である。
「サクラは、一体どんな冒険者になるのかな?」
一口に冒険者といっても生計の立て方は様々だ。「賞金のかかった魔物の退治」「モノを収集する習性がある魔物や魔獣のダンジョンに入って宝物を持ち帰る」「護衛などの傭兵業」「新天地や動植物の新種の発見」「商人のように高く売れそうなものを仕入れて次の町で売る」など幅広い。
「どうかしらね。でも私はあの子を一人でも立派に生きていける冒険者にするつもりよ。あの子には仲間もいないし、いつか一人になってしまう時が来るかもしれないから・・・」
サクラにとって仲間は俺とマリアの家族二人しかいない。ウサギの獣人の村であれば家族が死んでも仲間同士で支え合って生きていけるのだがサクラにはそれができないのだ。
そんな事情もありサクラが俺たちの下から離れて生きていく冒険者という夢を持っているのは逆によかったかもしれない。それに異色種としてその力を存分に発揮して世界へ羽ばたいていくというのであれば何を犠牲にしても支える価値があるというものだ。
「だからあの子がもう少ししたら、狩りのほかにも対人戦とかいろいろな戦い方を教えないとね。あの子は大きくなれば私以上に戦えるようになるはずよ」
確かにサクラが大きくなるのも早いものだ。少し前までサクラが眠らない日は俺が背負って星空を見せながら散歩していたものだが、今では随分と大きくなったものである。
「それにあの子は異色種だから、外へ出れば必ず戦いを挑んでくるのがいるわ。そのためにも私だけじゃなくてあなたにも取っ組み合いぐらいはしてもらうつもりよ」
「コテンパンにやられそうだけどな」
・・・・・
「そろそろ戻ろうか―――ん?どうした?」
いつもなら家の中へ戻る時間、マリアは寝返りを打つように俺の上に乗っかるとまっすぐに俺を見つめる。そして俺の目をしっかりと見つめるとそのままのしかかるようにして話し出す。
「サクラを一人にしないためには、いっぱい妹を作るという方法もあるのよ」
そう言いながら俺の腕を持ってマリアは自分の尻尾を握らせる。俺の掌の中でフルフルと動くマリアの尻尾はとても柔らかい。
「昼はサクラと二人だったんだから、夜は私と二人でもいいでしょう」
マリアにしては珍しい行動である。そしてそんなマリアの目は「甘えたい」と語っているようで俺はマリアの体を受け止めたうえで優しく抱き寄せた。そしてマリアは甘い声で俺の耳元でつぶやいたのである
「サクラの妹のこと考えておいてね」