<洗濯日和>
俺たち三人が住んでいる家は森の中にぽっかりと広がる野原のど真ん中であり、そんな野原の端には川が流れていて下流から獲物の解体場所、トイレ、洗濯場、温泉が川沿いに整えられている。
そして俺とサクラが今来ているのは洗濯場だ。常に川からの水は入ってきては流れていくが、入り口の岩によって水流は弱められ、出口には木の棒一定の間隔で刺さっているため洗濯物が川に流されることもない。
「ほら、お父さん行くよ」
「はいよっと」
俺は洗濯場のすぐ隣でサクラから投げられたびしょ濡れの服を受け止め、それを絞ってはカゴの中へと放り込んでいく。先日サクラが力任せに俺の普段着を絞り上げて服を破ったことがあり脱水は俺の担当である。
マリアがイエナの町に毛皮を売りに行っている日、俺とサクラは洗濯に精を出していた。下着など毎日着替えるものは毎回洗うのだが、今日は普段着など数日に一度しか着替えないものも洗濯しているのでいつもより多い。
そしてカゴに入れられた洗濯物を俺は少し離れた物干し場の地面へと置く。垂直に建てられた二本の丸太とそこに渡された木の棒、そんな物干し場が三か所、今回の洗濯物は三か所全部を使って干すことになるだろう。
「とうっ!」
そしてサクラはその物干し場の正面に立つと助走もつけずに飛び上がり、空中で体を捻ると先ほどと同じように真正面からそれと向き合う。
「お父さん見てた!?」
「見てたぞ、すごいじゃないか」
まるで走り高跳びの器具のようにも見える物干し場をサクラは助走もなしに飛び越える。棒の高さは俺や耳を立てたマリアの身長とほぼ同じぐらいあり、耳を立ててもその四分の三程度しか身長がないサクラが助走もなしに飛び越えられるとはかなりの跳躍力だ。
「それじゃあ干すぞ」
その後サクラが広げた洗濯物を俺が受け取って物干し竿へと掛けていく。普段着にタオルと洗濯物が掛けられて物干し竿が次から次へ埋まっていく。そして最後の最後、いたずらっ子でもあるサクラのいたずらが始まったのである。
「おぶっ!」
俺の顔に投げつけられたのは白いサラシ、マリアがいつも胸に巻いている下着である。だが、こんなことで動揺するほど俺も子供ではない。
俺はサラシの端に結び目を作って鞭のように持つとサラシをサクラに当てて捕まえる。サラシは結び目の遠心力もあってサクラはサラシでぐるぐる巻きとなるのだ。
「きゃ!解いてよ~」
いたずらにはいたずらを。そのまま俺はサクラを横目に洗濯ものを干し続け、結局サクラは最後までそれを解くことができないままだった。結局サクラが自由になれたのは俺がそのサラシを干すときになってからだったのである。