<タマル>
リーフ王国のイナエ。この町はリーフ王国の小規模都市であるが王国の治癒魔法師が集まる医療都市でありこれから会いに行くタマルも魔法でなんでも治してしまう治癒魔法師の一人である。
「マリにゃんはどうしたのにゃ?」
タマルは着いたばかりの俺の顔を見るなりそう言った。猫の獣人であるタマルは普段は持って生まれた性格なのか種族の特性なのか何を考えているかわからないことがあるが、今のタマルはマリアとのお茶会が今日はできないと考えているに違いないと容易に想像できる。
「毛皮を届けるだけだったら俺でもできるからな」
タマルにとってマリアは自由に生きている羨ましい存在らしい。この国ではタマルのような治癒魔法師は強制的に国家の所属にさせられ、金銭的な面で不自由することはないが移動の自由はある程度制限されるのだ。どういうことかというと、一般的な治癒魔法師は王国の各地にある町の病院に派遣されるうえ数年ごとに町を変えられて、その間勤務先の町から出ることはできないのである。
幸いタマルはその腕を認められていることもありこの医療都市から他の町に派遣されることはないが、逆にタマルにとってマリアとのお茶会こそが唯一の息抜きなのだろう。だが、こちらだってマリアを丸一日タマルの長話に突き合わせられるほど暇ではないのだ。
「それにしてもこんな毛皮買って一体何を作るんだ?」
「冬用のコートを新しく作ることにしたのにゃ。あとはこれを仕立ててもらうだけなのにゃ」
タマルは寒がりなこともあって冬になると一気に外に出なくなってしまう。しかし冬の間ずっと引きこもっているなんていうことはできるわけがないのでこうやってタマルなりに冬へと備えているのだ。
「それにしても随分と時間がかかったのにゃ。まあ冬はまだ先だからいいのにゃ」
「全員が全員いい毛皮を持った獣だとは限らないからな」
狩った獣すべてが質のいい毛皮を持っているとは限らないうえ、質のいいものの中からマリアが一切妥協せずにタマルのために毛皮を吟味するとなれば時間がかかるのである。
「どうにゃ?」
そしてタマルは毛皮を羽織って俺に似合っているかどうか聞いてくる。しかし、着るものとして作られたものならまだしも一枚の大きな毛皮を羽織っているだけだとデカいミノムシにしか見えないような気もする。だが、これはこれで面白いのでいい。
「もうそれでいいんじゃないのか?」
「何言ってるのにゃ。こんなんじゃ両手が使えないし、手を離したら床に落ちるだけなのにゃ」
タマルは毛皮を箱にしまうと俺を冷たい目で見てくる。そしてそのままさらに言葉を続ける。
「まったく。マリにゃんもこんなのと一緒にいるなんて本当に変わりものなのにゃ」
「こんなのって・・・そもそもタマルが言えるのか、それ」
「うにゃ~、うるさいのにゃ。マリにゃんとハヤトにゃんが一緒に暮らしている時点でおかしいのにゃ」
マリアとお茶をできなかった八つ当たりなのだろうがタマルの言うとおりである。俺とマリアの関係、それは普通のウサギの獣人とは全く違う間柄なのだ。