<異色種>
家から十五分も歩くと家の周りを囲んでいる森を抜けて町と町をつなぐ街道へと出ることができる。今日、俺はマリアの友人であるタマルに商品である毛皮を届けるために町へと行くことになったのだ。
本来であればマリアが届けるべきなのだろうが今日は天気が良く、先日大物を仕留めたこともあって必要以上に狩りをする意味もない。このような日、マリアは自分が持っている知識と技術のすべてをサクラに教え込むために一日中みっちり教育しているのだ。
マリアとお茶友達であり、きっとおしゃべりを楽しみにしてるタマルはマリアに会えないのを寂しがるだろうがサクラのためだと言えばタマルも納得するだろう。俺もマリアもサクラの冒険者になりたいという夢を応援していると同時にサクラには大きな期待を持っていることをタマルは知っているからだ。
なぜならサクラはウサギの獣人であるが、普通の獣人とは違う特別な獣人なのである。
普通、ウサギの獣人というのは白色や黒色、茶色といった色をしているものであり、サクラのようなピンク色をしているのは非常に珍しい。これはサクラがまれに存在する異色種というものであるためで、この異色種といわれる個体は普通の個体と比べて能力が高いのである。
簡単に言えばサクラは生まれながらの天才であり、マリアによれば将来的には自分は足元にも及ばないだろうというほどだ。しかしサクラはまだ幼いうえ、サクラが生まれながらの天才だとすれば、マリアは努力の天才である。
サクラがこれから育っていってもマリアを超えるのが一体いつになるか、狩りや戦闘という面で見ればいくらサクラとはいえマリアを超えるのは容易ではないだろう。既にサクラがマリアに勝っているものと言えば鍛えられない能力、例えば聴力といったものぐらいである。
ある日のこと、純粋な能力であればサクラはマリアを上回っていることを証明させられることがあるのだ。
「今何か聞こえたよ。なんかね、獣たちの声みたいな・・・」
それはいつも通りの静かな一日だったある日のこと、サクラはどこかで起こった何かを聞いた。
どうやらマリアには聞こえなかったらしいが、マリアはそれを否定するようなことはせず狩猟刀を持ってサクラの案内でその音の聞こえた場所へと向かったのである。
「それでね、お母さんがね―――」
そしてその日の夕食、サクラは興奮しながら見てきたことを語る。
あの後マリアは一頭の大型獣を担いで持ち帰り、その後マリアはルーナとともに再び出かけるとそれぞれ一頭ずつ同じような大型獣を担いで持ち帰ってきたのだ。
どうやらサクラが聞いたのは街道に現れた三頭の大型獣と街道をゆく旅商人の馬車団が襲われたときの音だったらしい。そしてサクラによるとそこに駆け付けたマリアはその三頭を真正面から相手をして倒したのだという。
森という本来のテリトリーから出てきた相手に狩猟のルールは適用されない。そもそも平野という奇襲もできない状況下でそんなことをするようでは命取りになるだろう。
そんなこともあり、マリアの自らの能力と狩猟刀を最大限利用した戦いを行ない、それを見たサクラはずっと興奮したままでその日の夜は寝かしつけるのも大変な夜となったのである。