<平凡な日々>
「それじゃあ行ってくるわね」
「ああ、気を付けてな」
俺たち家族の平凡な一日はマリアと白い狼であるルーナの狩りから始まる。ルーナは猟犬ならぬ猟狼で俺がこの世界へ来て初めて見たあの狼である。白い毛並みをした体長3m~4mほどあるルーナはとても力強く何かと頼りになる存在だ。
「私も行きたいな~」
そしてもちろんのことサクラは俺と一緒に留守番だ。まだ小さいサクラを森に連れていくのは危険だし、狩りという命のやり取りをするところにまだ幼いサクラを連れていくのは足手まといなのだ。
「サクラは7歳になってからね。その時はもう嫌になるぐらい教え込んであげるわ」
「はーい」
マリアはサクラにそういうとルーナに跨って森の中へと入っていった。今日は一体どんな獲物を狩ってくるのかくれぐれも無理はしないでほしいものである。
・・・・・
放たれた二本目の矢は一直線に飛び、すでに的の中心に刺さっている矢を真っ二つにして的に刺さる。
「おお、すごいな」
サクラはたった今、矢で矢のお尻を射貫いたのだ。もちろんその大きさは矢の直径と同じであり、誰にでもできる芸当ではない。できれば矢が一本丸々使い物になるのでやってほしくはないのだがこれもサクラのために仕方のないことだ。
実はマリアやサクラといったウサギの獣人の狩りにはとあるルールが存在する。それは狩られることになる獲物にはできる限り苦痛を与えないようにするというものだ。小さな獲物であればその頭を弓で射貫き、大きな獲物であれば、斬るも良し・突くも良し、といった日本刀のような狩猟刀で一気に獲物の頭部を切り落とすか首の中心を背後から一気に突き刺して一瞬で絶命させるのだ。
そのため小さな獲物でもきちんと頭を射貫けるように弓の腕は重要だ。サクラは冒険者になるとは言っているが、この家に生まれたからには狩りの仕方もしっかり教え込むというのがマリアの子育てなのである。
「お母さんがそろそろ帰ってくるよ!」
そして三本目の矢を放とうとしたサクラが急に耳をピンと立ててそう言った。耳のいいサクラは森の中からこちらに近づいてくる音を聞き、その音からどんな相手が近づいてきているのか聞き分けることができるのだ。
さてここから俺とサクラはマリアの手伝いである。狩りをしたマリアはその場で血抜きをし、解体は家の近くにある川沿いの解体場所でやる。そこで肉や皮を採取してそれを干し肉や毛皮に加工して生計を立てていくのが狩猟者一家としての生活のサイクルなのだ。
それからサクラは一目散に解体場所へと駆けて行き、俺はサクラの放り出した弓を片付けてサクラに遅れて解体場所へと向かっていった。