<温泉>
ユキノとシノブが来て一か月、二人を初めて温泉に入れる日がやってきた。まだ夕方前の明るい時間帯、ユキノとシノブはそれぞれマリアとサクラに抱かれて上機嫌だ。
そして家族五人温泉に浸かり二人の小さな娘を愛でていたのだが、マリアが体を洗うために俺がユキノを受け取るとそこで問題が起きた。
「もう、お父さん代わって」
サクラに言われ俺はユキノとシノブを交換して持つ。マリアが体を洗うためにユキノを受け取ったのだが、俺の手に渡った瞬間ユキノは泣き出してしまったのだ。
「なんでユキノは俺だと泣くのかな」
「ユキノはすぐにお腹がすくから、胸がない人に抱かれると安心できないのよ」
「そんな・・・理由か?」
本気なのか冗談なのかわからないが、ユキノはサクラに抱かれて泣き止み、シノブは俺に抱かれても変わらずに上機嫌である。そしてその後サクラがマリアにユキノを渡して体を洗っているときにもユキノが泣くことはなかった。
しばらくして、あとは適当にお湯につかって出ようかとしていた時、マリアに抱かれているユキノはマリアにしがみつくようにして母乳を吸い始めた。
「サクラ、シノブにも飲ませるからこっちに渡して」
ユキノが母乳を飲みたがる時、それがシノブにも母乳を与える合図である。シノブはカゴの中でも抱かれていても動じずに大人しいのだが、ユキノは常に手足を動かしているせいかシノブよりも先にお腹がすくのだ。
そしてサクラからシノブを受け取るとマリアそれぞれを片手で持って母乳を与える。股下から頭までを片腕で支えるあたり相当な剛腕であるが、二人はおいしそうに母乳を飲んでいて、まるでマリアに一生懸命しがみついているような光景は可愛いものだ。すると、そんな俺の視線に気づいたマリアが一言。
「あなたの分はないわよ」
「どうしてそうなる?」
「ふふ」
笑みを見せるマリア。俺も一応突っ込みはしたが・・・いや、黙っておくことにしよう。
「ふふふ、お父さん。何なら私のでも・・・いだっ!」
大体いうことが予想できたのでこっちの娘にはデコピンをお見舞いしておく。
俺が顔を真っ赤にして恥ずかしがるとでも思っているのだろうか。そんなものサクラが生まれる前にマリアで克服している。というよりマリアに克服させられている。まったくいたずら好きの似た者母娘である。
「いまだったらどうかしら。ほら、抱いてみて」
そう言ってマリアはユキノを俺に渡してきた。俺は少し緊張しながら受け取るがお腹いっぱいなのかユキノは幸せそうな顔のままだ。ようやくユキノを抱くことができた。マリアの言葉が冗談だったのか本気だったのかわからなかったがどうやら本気だったようだ。まったく、ユキノはきっと食いしん坊に育つに違いないだろう。