<ユキノとシノブ>
サクラが急に耳をピンと立てて家を飛び出す。
「お母さんが帰ってくるみたいだから迎えに行ってくる!」
そういうとサクラはルーナに跨って街道へと通じる林道へと走って行き、そのままこの家と街道をつなぐ林道へと姿を消していった。あの歳でルーナを乗りこなすとはなかなかのモノだが全く慌ただしい娘である。
耳のいいサクラのことなのでマリアはきっとまだ遠くにいるのだろう。しばらく時間がかかると思い俺は新しい二人の娘を受け入れるための準備を整える。寝室に置いてある二つのカゴをリビングのテーブルに置いてすぐに二人を乗せられるように毛布をカゴの外に置いておく。
「ただいまぁ!」
ドアが開いたかと思うとユキノを抱いたサクラが家へと帰ってきた。そしてその後ろにはシノブを抱いたマリアが続く。
「おかえりマリア」
俺は数日ぶりのマリアを撫でまわそうとするが、マリアは小さな声で「あせらないで」とつぶやいて俺の手を取るとシノブを手渡してくる。ウサギの獣人の赤ちゃんというものは人間よりも小さく30㎝ほどしかない。
「お母さんが生まれたときもユキノみたいな感じだったのかな?」
「サクラも生まれたころはこれぐらい小さかったから、そうだろうな」
「私たちの子供は人間よりは小さいけど、その分お腹に子供がいても動けるし生まれるときも簡単なのよ」
ただでさえ安産型であるウサギの獣人なのだが、生まれる赤ちゃんが小さいこともあって基本的に出産は安産で済む。出産という母体に危険が伴う出来事を最大限安全にできるように進化したということなのだろうか?
「それじゃおやすみなさい」
そう言うとサクラはユキノをカゴに寝かし、俺もシノブを隣のカゴの中へと寝かして毛布を掛ける。果たしてこの二人は一体どのように育っていくのだろうか、実に楽しみである。
・・・・・
その日、ユキノとシノブをマリアとサクラで挟んで就寝し俺はマリアの隣で眠りについた。そして夜にふと目を覚ますとマリアがユキノとシノブに母乳を与えているところであった。
「起きてたのか」
「この子たちお腹がすくと自分たちで胸に吸い付いてくるから」
「サクラと一緒だな」
マリアがどこにいるのかを知っているかのようにユキノとシノブはマリアの方へと寄ってくる。おそらくお腹の中にいるときと同じ心臓の音を頼りにしているということなのだそうだが、こんな赤ちゃんでも聞こえているということは、もしかしたら俺がマリアに対して心臓をバクバクさせていたのも聞こえていたのだろうか。そう考えるとなんだか恥ずかしいし、おいそれと嘘もつけないだろう。