<出産>
「赤ちゃんって小さくてかわいいね」
「サクラも生まれた時はこのくらいだったんだぞ」
「えー、本当?」
「本当よ。あの時のサクラと全く同じ」
家族三人で囲む小さなベッドにはそれぞれ白と黒のそれは可愛い二人のウサギ耳の赤ちゃんがいた。双子の出産というマリアにとっても初めての経験であったが幸いにも安産で母子ともに健康だ。
「きっと白いウサギの子はマリにゃんに似た子になって、黒いウサギの子はハヤトにゃんに似た子になるにゃ」
二人を取り上げてくれたタマルは俺たちに混ざって赤ちゃんの様子を覗き込む。毛の色だけで判断してないかと突っ込みたくなるが、実際には当らずといえども遠からずといったところであった。
「もう!お父さんはあっち行ってて!」
サクラに怒られた俺は部屋の隅へと追いやられる。あれだけ可愛ければ触りたくもなる。しかし黒い方は手を触っても耳を触ってもぐっすりだったのだが、白い方は俺が触った瞬間に泣き出してしまったのだ。抱いてあやすサクラに赤ちゃんはすぐに泣き止むが、この調子ではサクラに赤ちゃんを抱かせてもらえなさそうだ。
「そう言えばお母さん。二人の名前はどうするの?」
「白い方がユキノ、黒い方がシノブ、それでいいかしらあなた」
「お、おう。そうだな」
一瞬動揺した俺にサクラが不思議そうな顔を向けてくる。それもそのはずこのユキノとシノブという名前はサクラが生まれた時に白や黒い色の赤ちゃんだったらどんな名前を付けていたのか、という話をマリアと俺の二人でしていた時に俺が考えた名前だったのだ。まさかそんな昔のことを覚えてくれているとは俺も驚きである。
「それじゃあ、しばらく私は帰れないから家のことはよろしくねサクラ」
「はーい。お父さんのことも任せておいて」
「おいおい」
出産後の数日間、マリアはユキノやシノブとここに泊まることになっていて、その間家には俺とサクラとルーナだけとなるのだ。食料などはそれなりに蓄えがあるし、ルーナは一匹で森に入って勝手に獲物を狩ってくるので餌の心配もない。
そんなこともあり俺とサクラがやることと言えばマリアがいない間のサクラの特訓である。
「あなた、サクラの特訓のことお願いね」
「ああ、しっかり鍛えておくよ」
特訓といっても俺の攻撃をサクラが防御したり避けたりする程度である。サクラにはそこから反撃や俺の武器をどう捌くかといったことを学んでいくのだ。
「ふふん。お父さんの足腰が立たなくなるまで付き合わせてあげるよ」
すでに勝ち誇ったような顔をして宣言するサクラの頭を力強く撫でてやる。相手は明日いくらでもしてやるとしてやろう。
そして最後に俺とサクラは二人の新しい娘たちを見て、マリアにねぎらいの言葉をかけて部屋を後にしたのである。