<昼の出来事>
時を少しさかのぼり・・・前日の昼
お母さんとタマルさんが部屋の外で話し込んでいる間、私はお父さんが眠るベッドの上に乗るとその横に座って顔を覗き込む。
弱くてお母さんがいないと何もできないようなお父さんだけど私のことを体を張って守ってくれた。でも今見てみてもお父さんはいつもの弱いお父さんのままだ。
あの時だけ強くなったのかな。それとも強がっただけ?全部知っていると思っていたけど本当は知らないことも多いお父さんのこと。これからもっと知れるようになるのかな?
でもまた同じようにお父さんが強くなるのは私が弱いとき、それだけはわかる。なんだかそう考えると私があの時にお父さんに負けたようで悔しい。私の方が強いのに。
だったらお父さんは弱いままで十分だ。私がもっと強くなればいい。
だから今の私はこのお布団の温かさ以外には負けないと心に決めた。
・・・・・
私がタマルと部屋に入ると、まだ眠りについたままのハヤトさんとその横でうたた寝をするサクラがいる。
「ありがとうタマル」
「あとは自然に目が覚めるのを待ってればいいのにゃ」
下手な治癒魔法師であれば骨折を足が曲がったまま治療してしまって後遺症が残ることがあるというが、タマルほどの治癒魔法師であれば骨折でも難なく治すことができる。治癒魔法も使う者次第だ。
「それでマリにゃんはどうするのにゃ?」
「え?何が」
「サクラにゃんみたいに布団に潜り込むのにゃ?」
なるほど、そんなこと考えてすらいなかった。さすが色恋沙汰が好きなタマルらしい発想。
「まあ好きにするといいのにゃ」
タマルが部屋を出ていき二人の寝るベッドに腰を下ろすと私はハヤトさんの頭をゆっくりと撫でる。
まったく心配をかける人だ。台所では私たちが火傷をしないか洗濯の時には川に流されたりしないかと小さなことばかり心配する臆病なのに、今回みたいな大きな危険には無茶をして立ち向かっていく。この人は時に臆病で時に無茶をする人だ。
でも私はそれでも愛しているしだからこそ守りたい。私も愛しているからこそサクラを身ごもった。
サクラと同じぐらい私にとって大切な人。それが種族も性別も違うこの人なのだから。
その後お茶とお茶菓子を持って訪ねてきたタマルが、三人仲良く寝る一家を目撃したのはそれからしばらくしてからのことだった。