<プロローグ>
以前からこんな感じの話を書いてみたいと思っていたのですが、今回ようやく書きあがったことから投稿させていただきました。
また、書くのに長い時間をかけている関係から自分の頭の中で自己完結してしまい飛躍や分かりにくいところがあるかもしれませんがどうかご了承ください。
木の根を枕にして寝転がると俺は大きく息を吐いて脱力する。何の手掛かりもないままどこにあるのかもわからないこの樹海の中を彷徨い続けるのにはもう疲れたのだ。
目を閉じても起きているが目を閉じているだけなのか、それとも自分でも気が付かないうちに眠ってしまい今ふとした瞬間に意識が覚醒したのかさえ分からないほどであり、はっきり言って起き上がることさえ面倒である。
そしてそんな状態がしばらく続き、欠伸をして出た涙を擦って拭きながら目を開けた瞬間、目の前には俺のことを丸飲みにできそうなほど大きくて白い狼がいた。今から立ち上がって逃げても逃げられないだろうし、起きるのも走って逃げるのも面倒であきらめた。だが・・・。
「こんなところでいったい何をしているの?」
狼の陰から現れた人影は落ち着いた優しい声で俺に問いかけてきた。見ればその人物は白く長い髪に人間にはない白いウサギの耳を備え、木漏れ日を浴びたその姿はまるで光り輝いているようである。
そしてそんな彼女の姿はとてつもなく美しく、ひどく疲れ切った俺にはまるで女神のように見えた。
・・・・・
「へー、じゃあお父さんって行き倒れになってるところをお母さんに拾われたんだ」
ある日の夕食の席、白いウサギの獣人と小さいピンク色のウサギの獣人が二人仲良く話していた。
「さすがの私でも驚いたわ。子供ならまだしも大の男が倒れてるんだもの」
「マリア、それ以上は勘弁してくれ。大の男でも倒れるときは倒れるんだから」
俺は二人の会話に顔を赤らめながら割り込む。妻であるマリアと娘のサクラの間で俺のみっともない話をしているとなれば口を挟みたくもなる。二人が話しているのは俺とマリアの出会い、この世界へ来たばかりの俺が森の中で目を覚まして三日か四日ぐらい彷徨って行き倒れになった時の話だ。
異世界の森の中で三日も生きていた時点でたいしたものだと思うが、ほかの世界から来たなんていう話をするわけにもいかないため父親としての威厳は失われる一方である。・・・そもそも十分あるような威厳ではないが。
「昔からお父さんってお母さんに助けられてるんだね」
「ハイハイ。サクラはそうならないようにもっと大きくなってから森に入ろうな」
好奇心旺盛で将来は世界を見て回る冒険者になりたいと言っているサクラはいつも森に入りたがる。しかしサクラはまだ5歳、14歳が成人のウサギの獣人だとしてもまだ成人の半分も行っていないため森に入ることは許されていないのだ。
「む~、ハイは一回でしょ!それに私はお父さんとは違って絶対行き倒れになんかならないってば!」
「どうだかな」
「も~、冒険者になっていろいろな世界を見てきてもお父さんには話してあげないんだからね!」
頬を膨らませて怒っているサクラ。怒っているはずなのだがその光景は笑ってしまうほど可愛らしくマリアもそれを見て笑みを見せている。一つ屋根の下、俺は家族とともに何の縁もなかった異世界で平和で幸せな生活を送っていたのである。