そして、王都へ。
どこかのタイミングでキャラ紹介などつくります。
どんな外見(髪色とか)を書いていないことに今更ながら気づいたので。なるべくネタバレにならない範囲で作るつもりです。
ドレアス領から出発してはや10日。
そう、10日なのである。
その間特に何事もなく、強いていえば3日目の魔獣といざこざがあったっきりである。
期待はずれと言うと失礼ではあるが、お約束的なものもなく実に平和な日々だった。
平和なのはいい事だ。
日本だって、元の世界ではトップレベルに平和と言っても過言ではない。
だがしかし、暇なのだ。
最初のうちはキャンプみたいで楽しさを感じれてはいたが、5日を過ぎた辺りからそのような感情は微塵も感じ無くなっていた。
勿論、過去の同胞達がオセロや囲碁、将棋などこちらでも実現可能な簡単なボードゲームは既に開発済み。
でも、それらも木製。動く馬車で遊ぶには不向きなのである。
置いたそばからズレる弾け飛ぶ。
何とかなりそうなトランプは製紙技術がまだ無いようで、魔法を使った高価なものしかまだ流通していないそう。魔法学院や魔法が使える貴族などの間で遊ばれる魔法具としてのボードゲームがあるらしい。
とても気になるので、もし魔法学院に通える機会が出来たなら遊んでみたい。
そして何故こんなにも改装時見たものが長々と続くのかと言うと……
「あー……暇だぁ……。」
「もうすぐ王都へ着きますので、それまで我慢してください。」
「分かってるけど、まさかここまで暇だとは。」
「それでも魔力循環の訓練はしているのでしょう?」
「まぁ一応ね?でも凄い地味だし、実感がわかないんだよね。」
「訓練とは得てしてそういうものですよ。そうこう言ってるうちに、王都の外壁が見えてきましたよ。」
「うむむむむ〜……、あの薄ら見えるやつかな?」
「間違っても、体の一部に魔力を集中させないで下さいね。目に集中すると慣れないうちは目が破裂したりするので。」
「怖いねぇ!?無理に見ようとしない方がいいか……。」
「王都に行けば魔力制御補助具も貸してくれると思うので、その時まで我慢してください。ハヤト様は複数の魔法適性があると思うので、これからはそれなりに忙しくなると思いますよ。」
「スカウトってこと?」
「いえ、それはまだ先になるかと。」
「と言いますと?」
「大きな力が制御出来ない状況にあるとしたら、それを野放しに出来ると思いますか?」
「あー、はい。理解しました、頑張って訓練します。」
「よろしくお願いします。」
目を顰めて薄ら見える程度だった外壁が、肉眼でも見えるところまで馬車は進んでいた。
段々と近づくに連れ、その高さと長さに思わず口を開けてしまう。
王都に入るための列も長く、馬車、徒歩、恐らく貴族用と三つの列に別れている。
ダリア曰く、今くらいの列なら1時間もしないうちに入れるという。
馬車の場合、積荷の確認などで時間がかかるらしい。
王都である以上、警備が厳重なのは仕方がない。
「はい、次の馬車は代表者と営業証明書をこっちへ。」
関所の騎士にそう言われると、1番先頭の御者が手荷物から羊皮紙を騎士に手渡した。
「うむ、確かに。荷馬車は人だけか?」
「はい、人と各人の荷物になります。」
「わかった、では中を確認させてもらう。」
騎士は2人1組で順番に馬車を確認していく。
御者台と後ろから中を覗き、特に問題が無ければ次の馬車へ。
全ての馬車の確認が済むと、壁門の中に進むよう指示される。
壁門には登録された危険物がないか察知できる魔法具があるようで、馬車を一旦止まらせると騎士達が数人係で魔法具を馬車にかざしていく。
この魔法具は金属探知機のような形をしており、危険物があると輪の中にある特殊加工された魔石が光るという仕組みだそうだ。
勿論、何事も問題なくそのまま壁門を越えることを許された。
「ようこそ。エルドラ王国、王都エルドラドへ。」
恐らく、毎日同じことを言ってるであろう1人の騎士の営業スマイルは完璧だった。
壁門をくぐり抜けると、そこは王都。
エルドラ王国のほぼ中心部にあり、王都の中心部には立派な王城がそびえ立つ。
どうもこの街は中心部にかけて緩やかに登っていっているようだ。
リンゴを落とそうものならどこまでも転がっていく……、という訳でもない。
区画整理がされており、坂と平地が交互になるように作られている。
また外壁ほど分厚く高くはないが、王城に向かうまで三つの円状の内壁が存在している。
言わば、内側になればなるほど審査等は面倒ではあるが安全なのである。
治安もより徹底され、街自体も綺麗に保たれている。
貴族階級との揉め事がないように第一門より内側には住むことが出来ないが、第二門以降は税金や寄付次第では誰でも住むことが出来る。
また、内に住む住人であろうと、門の内側に移動する時は騎士による検査が必要である。
それは王や貴族も例外ではなく、等しく行われる。
一応、緊急時の特例はあるものの、この国の憲法として尊重されている。
「王都って、こんなにも凄いのか……。」
「この大陸でも、この規模の都市は数える程しかないと言われていますよ。」
「それにしてもだよ、ここだけでひとつの国って言っても分からないくらい。」
「この国が興った時代、どこも争いが絶えなかったそうで領土もこの王都含む周辺の土地しかありませんでした。それゆえ、籠城することになって最低限の自給自足が出来るようにと当時から計画されていたようです。」
「その計画が、今の王都?」
「はい、その通りです。今となっては領土も増え、人口も増加したことから当時のように自給自足は出来ませんが、数ヶ月であれば食いつなぐことが出来るようになっているそうですよ。」
「それはすごいね、ということは畑とかもこの中にあるのか。」
「あるにはありますが、大抵は高級品やそれに準ずるものになりますね。牛や豚、生野菜などの新鮮なものはどうしても高くなりますので。」
「それでも凄いや。政治や経済の中心でありながら、特産品があるのは珍しいね。」
「これでもかなりの歴史がありますからね。国家が続いてきた分の知識や経験がありますから。」
この国の事や王都の事をダリアに話してもらいながら、馬車は王都内にある乗合馬車所に着いた。
代金は出発時に半値、到着時に残りの半値を支払う。
これは盗賊や魔物に襲われた時の為だという。
乗合業者が護衛などを雇うが、最後は自らで命を守らなければならない。
なので、無事に辿り着いたらその時に残りの半値を支払うことになっているそうだ。
後は最初に全額払えなくとも、最後に払えればいいと言う理由もある。
お金が少ない村民や旅の者を救済する仕組みでもある。
「ハヤト様、支払いは完了致しましたので早速詰所に向かいましょう。」
「え?」
見たことの無い道具を売っている店や、食べ物に目がいっていたハヤトは本来の目的を忘れて観光をする気満々であった。
「まさか、ドレアス様とのお約束をお忘れになった訳ではありませんよね?」
「いや、まさか!でもその前に少し寄り道したいなぁって……、だめ?」
「ダメです!どの道暫くは王都にいなければならないのですから機会などいくらでもあります!」
「わ、わかったよ……。だからそんなに怒らないで?ね?」
「別に怒っていません。ほら、行きますよ。」
ふん!と顔を背け、スタスタと歩き出すダリア。
「あっ、ちょっと待ってよ!置いてかれるとさすがに迷う!」
一緒に馬車で移動をするようになってから、角が取れたというか、本当の彼女の部分をたまにではあるが見せてくれているように思える。
初めこそよそよそしく、感情を感じさせない雰囲気だった。それは今でも大して変わらないのだが。
でも、たまに見せる素の部分にハヤトは可愛いなとつい思ってしまうのであった。