二人の団長
王都は夜になろうともその光は失われない。
魔法具によって道は街灯に照らされ、家の中は魔術具によって明かりを確保されている。大通りには宿や酒屋、飲食店が並び何処も賑やか。
午後6時、日が沈みかけ、空が茜色に染まる頃。
ドールは王都に着いていた。
「ドレアス卿、待っていたぞ。」
「これは近衛騎士団長自らがお出迎えとは、王城の護りは良いので?」
「ははは、俺1人抜けたところで変わりないさ。それに、これも訓練の一環であろうて。」
「まぁ、違いない。かくゆうわしも抜けてきているわけだしの。」
駅までドールを迎えに来たのは、エルドラ王国近衛騎士団長であるヘルメス・エル・アードゥル。
王国最強の盾使いと、守りに特化した騎士である。だが消して攻撃手段がない訳では無い。身を覆うほどの大盾から振り出される攻撃は意外にも多彩で、並の騎士では1歩も動かすことも出来ないほどである。
2人は同じ国の団の長と言うだけでなく、大きな得物を扱う者としても特に仲がいい。
歳は10は離れてはいるが、その実力はほぼ拮抗していると言っても過言ではないだろう。
この場合、若い方がすごいと言うのか、歳を感じさせないというのが正解なのかは誰にも分からないことだ。
「こんな時間だ、久々に1杯どうだ?と言いたいところだが、このまま陛下に謁見してもらう。」
「むぅ、それは仕方がないのぉ……。」
「早く終わらせた方がいいだろうと、陛下なりに気を使って下さった結果だ。どうせ何日か滞在するのであろう?」
「あぁ、5日は王都にいる予定だが。」
「なら、その間にどこかで奢るさ。」
「さすが近衛騎士団長様は違うな!それなら存分に飲ませてもらおう!」
「気を取り直してくれたようで何よりだ。それに、奢ると言っても近衛予算からの経費だ。いくら騎士団長の給金とはいえドレアス卿に本気で飲まれると財布が持たん。」
「男の友情の中に経費を持ち込むとは……」
「はいはい、文句は後で聞くからさっさと行く。陛下も馬車も待たせているのだぞ?」
「おい、それを早く言わんか!急ぐぞ!」
王城、執務室。
「陛下、ドレアス卿を乗せた馬車が門を通過したようです。そろそろご準備を。」
「そうか、そのままここへ通せ。」
「宜しいのですか?」
「構わん、この時間に大臣達を招集する訳にも行かんしな。」
「かしこまりました、では失礼致します。」
王城の門にて
「して、陛下は今どちらに?」
「恐らく執務室であろうな。」
「わしからすれば有難いが、相変わらずであるな。」
「無駄を嫌うお方ですからね、それにこの時間に大臣達を集めては時間もかかる上に不満を募らせるだけですから。」
「前王の頃に比べれば、かなりマシになったものよ。」
「私はまだ新参ですからね。」
「政変の時にアレだけ活躍しといてよく言うわい。」
「アレは運が良かっただけですよ?あの人がいなければ私は未だに剣を持つことすら出来なかったでしょう。」
「まぁ、過去は過去じゃ。今はこうして同じ主に使えている者だ、そこに長さなどない。」
「ドレアス卿にそこまで言って貰えるとは心強い。」
「うむ、もう着いてしまったか……。」
「では、私は近くに控えていますので後ほど。」
コンコンコンと、執務室のドアを叩く。
「ドール・ドレアスであります。」
「入って良いぞ。」
中には今まで執務をしていただろう、少し疲れた様子のエルドラ王国のトップである女王陛下がいた。
「失礼します。」
「ちょうど執務が一区切り着いたところだ、紅茶でも淹れてくれ。」
「女王陛下におかれましては相変わらずのご様子であるな!騎士に茶を淹れさせるとは……。」
「お前こそ、相変わらずだなドレアス卿。主君に向かってそのように砕けた口調とは。その方が楽ではあるがな。」
「そうでなければわしはここまで仕える気はせんな。がはははは。」
「はぁ……、今まで通り公式の場では取り繕ってくれるなら文句はないよ。それで、わざわざ王都までどうした?私の顔を見にいたという訳ではなかろう?」
「うむ、その様子ですとあの方にしばらく会えていないようですな。」
(執務ではなくそっちか……、あの方も困ったお人だ。)
ある程度の事情を知る者として、ドールは苦笑いせずには居られなかった。
若くして一国の主となった彼女には背負う荷が重すぎるのは確か。
(これも、惚れた弱みと言うやつか。)
「では、茶も出来たことですし早速本題に入らせて頂きます。」
「渋いな……」
「ごほん!先日報告した通り異世界人ハヤトの件です。本日ドレアス領を馬車で出立、順当に行けば10日ほどで王都に着くでしょう。王都に着いたらまずは騎士団詰所に向かうように言ってありますのでその時に報告が来ると思われます。」
「して、護衛はつけているのであろうな?」
「ダリアをつけているので問題はないかと。」
「確か、次代の候補であったか?」
「はい。」
「ならば問題はないか、私の方からも大臣らに話しておこう。」
「ありがとうございます。」
「用はこれだけか?」
ドールの冴え渡る感が危険だと信号を出す。
(これは……、少々まずいな……。)
「え、えぇ。それでは、陛下もお疲れのようですしわしは失礼する。」
「まぁまて、ドレアス卿。折角王都に来たんだ少しは付き合え。」
「ぐぬぅ……、分かりました。」
「聞いてくれ、最近の・・・・・」
女性の話は身分が違えど、等しく長いようだ……。