現代魔法史 -三人の魔道士-
紙に関する補足情報です。
この世界は魔素というものがあり、魔法で気軽に火を発生させることが出来るため、紙に求められる基準が高い。
燃えにくいのはもちろんの事、薄さ、丈夫さ、劣化のしにくさを揃えることが難しい。
何人もの異世界人がチャレンジしたが、未だに量産は出来ていない。
「じゃあ、自己紹介も終わったところで早速授業に入る。今日は現代魔法史だ、さっき配られた教科書を開け。」
クラス全員の自己紹介か終わり、担任のジークが授業を始める。
ジークの専門は魔法近接だが、一年目はほとんどの科目を担任が受け持ち、より専門的な内容になる二年以降はそれぞれの専門の先生の授業を受ける。
「まぁ、今日の内容は知ってるものは多いとは思うが、復習を兼ねて授業を受けてもらう。」
現代魔法史とは、統一暦以前の神話歴、統一暦以降の1~500年を古代、501~1000年を中世、1001~1500年を近世、1501~現在を現代(近代)と分けられている。この1501~現代の魔法史について学ぶと言う科目だ。
魔法史とは、主に開発された魔法や改良されたもの、禁止されたものと、魔法の発展に付いて特化した科目で、世界史などの歴史には魔法が関わらない限り触れることは無い。
〇〇年に□□が〜〜の魔法を開発した。など有名人は早見表のように並んだりしている。
正直に言ってしまえば、誰がいつ何を作ろうが、その魔法自体を理解していれば関係はない。
魔法とは手段のひとつであり、それをどう使うかが一番の肝心なのだ。
世のため人のためと便利な魔法を作ったとしても、それが人を傷つける為に使う人もいれば、戦争に役立てようと研究する国もある。
学院はこの部分を大事にするために、誰がどういう思いで魔法を作ったかなどを、教科書にまとめてある。
一流の魔法士を育てる前に、立派な人間を育てる。
人が地位をつくり、地位が人を育てるように、かつての英雄が救ったこの世界のためを想い、行動出来る人物を育てる。
学院創設の理念であり、巫女が受けた神の意志の一端でもある。
現代魔法史に出てくる人物で、特に覚えていなければならない人物は三名。
一人目は老師の師匠であり、独学で魔道士と至った異世界人。
不可視の魔道士。
本名は不明。
不可視の魔道士の姿を見たものは少なく、名前はおろか性別すらハッキリと分かっていない。
不可視の魔道士は戦いにおいて後衛職であるにもかかわらず、一流の戦士を圧倒する魔法とその技量をもって恐れられた。
一説には、エルドラ王国に雇われ暗殺部隊を率いていたとも言われている。
弟子をとることは珍しく、その弟子も老師を除いて全員死去している。
不可視の魔法の正当な後継者は居らず、既に失われた魔法として各国が密かに研究している。
二人目は、文化と学問の国ノーレットを治めていたエアリス王。
暴風の魔道士、エドミリアス・アル・フォン・エアリス前王。
彼はテンペストと呼ばれる広範囲、高威力の暴風を生み出す魔法でノーレットにある巨大な島を丸ごと覆った。
術者が生きている限り魔法は半永続的に発動され、特殊な通過証がなければその暴風の壁を抜けることは叶わない。
平和なノーレットでなぜこのような魔法を発動させたのかは不明だが、防衛に関する魔法でテンペストに敵うものなしと、評されている。
既に10年ほど前に亡くなってはいるが、エドミリアスの息子である現国王がテンペストを継承しており、今でも天にも届く暴風が王族の住まう島を守っている。
三人目は、西方にある小国連合ガネールに突如現れた異世界人。
雷霆の魔道士、タケミカヅチ・宗玄(ソウケン)。
120年前、小国連合ガネールがまだ神樹国ユグドリアから正式な保護を受けていなかった時代。
北の大国、闘国バルドールからの侵攻を受け北の海岸線一帯を奪われた時に、彼は現れた。
雷霆の魔道士が駆ける戦場は稲妻が走り、轟音と共に帝国兵が焼き飛ばされていった。
当時の記録は、ガネール側は英雄視し賞賛の言葉で飾り立て、帝国側は恐怖のあまりとてもじゃないが読めるものではなかった。
雷霆の魔道士のおかげで北の大国バルドールを退けることが出来たガネールは、彼に爵位と土地を与え一代限りとはいえ税金の免除に彼好みの美女をあてがった。
それ以降、雷霆の魔道士は表舞台に出てくることはなく、与えられた領地の発展に尽力したとされている。
雷霆と呼ばれる魔法(?)は門外不出とされており、後継者がいるのかさえ分からない。
彼ら三人は、現代魔法史においてもっとも世界に影響を与えた魔道士として色んな意味で有名である。
他にも、この世界に家電のような魔道具や魔術具を広めた異世界人や、魔法開発や使い手として有名な魔法士は何人もいる。
それらは世界史や魔道具の観点から見れば三人に劣らない。
だが、現代魔法史においては一段劣る扱いとなる。
魔導師とは行かぬものの、魔道士として強大な力を持つ者が評価されているだけに過ぎない。
「偶然だが、このクラスには少なくとも二人の子孫が在籍している。もちろん、秘匿されている魔法もあるだろう、それを問い質すことは学院であろうとも許されない。しかし、学べることは多いはず。諸君らには腐ることなく、高みを目指してこの学院で学び続けて欲しい。今年度の生徒は恵まれている。学生には現代魔法史において代表とされる偉大な魔道士の子孫がおり、学院には世界最高峰の頭脳と研究機関、それについこの間まで戦闘魔法士として活躍していた教員もいる。君たちは恵まれている、君たちは才能がある、努力ができる。しかし、未熟でもある。この一年間で学ぶことは、人によっては少ないだろう。だがしかし、必要なことでもある。」
ジークはクラス全員の顔を見渡し、さらに続ける。
「才能に驕るな、努力を怠るな、恵まれている環境を、当たり前だと思うな。全ての物事には意味があり、理由がある。表面だけではなく、内面の奥深くを見分けろ。君たちは力に溺れた畜生ではない、いずれ英雄とならん為に輝き続ける原石となれ。今日は少し早いがこれで授業を終える。明日以降は基本的に渡した資料に書いてあるとおりだ。連絡事項等は一年教員室前のボードに随時書くため、適度に確認をするように。」
初日の授業は30分ほどで終わった。
クラスの面々はそれぞれ帰り支度を済ませ、教室から出ていく。
そして、ハヤトを含めた6人だけが帰らず、教室に残っていた。
キャラクター名簿
第563期生
第一席、エリス・アル・フォン・エアリス(16)(女)
暴風の魔道士の孫にあたり、ノーレットの現王の娘でもある。
得意魔法は風、特技は槍術。
度々被害を出す海の魔獣、魔魚相手に実践も経験している。
王族としての誇りはあっても驕り昂ったりはしない。
自身は厳しく他者には優しくあろうとするが、基準が高すぎるため周りに厳しい言葉をかけてしまうこともしばしば。(実は可愛いものが好き)
セントリア学院には魔法を学ぶことはもちろん、友や共に戦う仲間を探しに来ている。
ちなみに、友達はいない。




