入学式と特進クラス
入学試験から一週間。
この日は、セントリア魔導学院の入学式の日だ。
二日前、学生寮に移った時に用意されていた制服を着用し、入学式が執り行われる大講義室に向かっていた。
学生寮から学院建物までは徒歩で五分程度、みんなが同じような時間に動くので同級生となる人が周りに何人もいる。
学生寮は学年ごとに別れているので、一箇所の学生寮の部屋数が百部屋と決まっている。
造りは、一階部分に玄関と食堂、厨房、管理人室。
二階からは二棟に別れており男女ではなく、50人ずつ別れる。この二棟を繋ぐ廊下にはミーティングルームもある。
一階層あたり10部屋、全体で六階建てとなる。
各部屋にトイレとシャワールームがあり、使用人用の部屋を合わせて学生寮としては二部屋とかなり広い。
食堂を利用しない場合も考慮して、調理スペースも設置されている。
備え付けの家具として、ベッド、机、椅子、防具掛け、冷蔵庫、タンスがある。あとはそれぞれがいつ様なものを順次取り揃えていくようだ。
学生寮に入寮した二日後の本日、学院の入学が執り行われる。
ハヤトが大講義室に着くと、十五分前にもかかわらず、ほとんどの生徒が決められた席に着席していた。
席は前方の黒板に張り出されており、ここで確認して席に座るらしい。
縦列をA〜J、横列を1〜10で表し、わかりやすいようにされていた。
きっとこれも、過去の異世界人がもたらしたものだろう。
ハヤトの席はA列の4番と、最前列の端の方だった。
左隣の3番にはエリュシオン・スカーレッドの名前があり、気が重くなる。
ガキ大将のようなタイプは正直いって、苦手の部類に入る。
出来れば関わりたくはなかったが、今回だけど信じて我慢するしかない。
幸いエリュシオンはまだ来ておらず、その時が来るまでは安心出来る。
番号が振られている机には、書類や教科書といったこれから必要となる物が一式揃えられていた。
この中に鞄も含まれており、ここに来るまでは皆手ぶらだった。
ここにある書類は、今日の流れを記したものと、魔導学院入学による誓約書と学院内の地図の3種類。
教科書は魔法史、魔法理論、魔術式、魔道具、魔法近接、魔法戦術の6冊。
そして、魔道具のペン。
ノートはなく、教科書に直接書くようだ。
この学院で使われる教科書は珍しく、地球にあるような薄い紙で作られている。
どれほどの資金援助が各国から行われているのかが、これ一つとっても思い知らされる。
入学試験を受けられるだけでも同年代の中でも頭1つ抜けている。
学院に入学出来たということは、その同年代で上位100人。
卒業することが出来れば、将来国を背負って経つ英傑となる。
各国が自国のことを考え、将来に投資している。
入学式が始まる2分前にはエリュシオン以外の全員が揃っていた。
教員も揃っており、時間になるのを待っている。
エリュシオンは入学式が始まる時間丁度に姿を現した。
「あっぶね、危うく遅刻するとこだったぜ。」
慌てて走ってきたのか、エリュシオンの額には汗が───流れてはいなかった。
慌ててる様子から、急いできたのは間違いないだろうが、恐らくは魔法を使い加速して来たに違いない。
ちなみに、学内での無断での魔法の使用は校則で禁止されている。
魔法を使った決闘が過去にあったことから、安全面と事件発生を未然に防ぐ目的で後から作られた校則だ。
魔法を使わない決闘及び私闘ももちろん禁止されている。
「第三席、エリュシオン・スカーレッドだな。魔法の無断使用は後で問いただすとして、とりあえずは座りなさい。」
「っち、バレたか。」
「いいから早く座れ。」
「はいはい、座りますよーっと?」
「どうした?」
「いんや。お前、確か最終試験で変な魔法使ってたヤツだな?」
いるんだよなぁ、こういう人。
遅刻しかけたくせにマイペースなやつ。
とハヤトがため息をついていると、エリュシオンはハヤトによって来た。
「お前だよ、無視してんじゃねーだろうな?」
「……ん、僕?」
「そうだ、おめぇだ。」
「おい、エリュシオン・スカーレッド。入学取り消しされたいのか?もう一度だけ言う、直ちに席に着きたまえ。」
この学年の主任であるライデンの威圧の籠った声に、場の空気を読まない行動が目立つエリュシオンですら、言い淀んだ。
「さぁ、どうなんだ?」
「っち……、話は一旦後回しだ。」
予定から1分遅れで入学式が始まった。
入学式と言っても特別何かする訳でもない。
学院長の挨拶、学年担当の教員紹介、各種必要な情報共有。
ライデンが司会を務め、入学式の予定を話していく。
諸々の準備が整うと、遅れて部屋に入ってきた一人の女性が壇上に立つ。
「全員揃っているようだな。私がセントリア魔導学院を預かる学院長モルネリア・セント・ルミリオンだ。この学院に所属する限り、私の方針に従ってもらう。今年は問題児もいると聞く、あまり調子に乗るとどうなるか分からない愚か者は居ないと思ってはいるが、私を怒らせないことだ。諸君らが学院生として、相応しく在ろうとする限り、私達は諸君らの味方であろう。良く学び、良く鍛え、そして高めあえ!諸君らは選ばれし者である。いずれは国を、世界を牽引する傑物となれ!私からは以上だ。」
誰にも有無を言わせない演説をし、誰も声を発する間もなく学院長は部屋を出ていった。
しばらくの静寂が過ぎ、残りの教員と紹介や情報共有ののち、学院生であることを証明する魔術具のバッチの授与が行われた。
この魔術具のバッチは特別性で、半自動的に発動する防御魔術に緊急信号を発信できる優れものだ。
バッチの授与が全て終わると、前の列から2列ずつ順番に教員の案内で通常授業棟へと移動する。
移動した先は教室、1クラス20人の計5クラスとなる。
ハヤト達は大講義室と同じ番号の振り分けで、教室の席に座る。
横列5人、縦列4人、ひと席ずつが別れているので隣との間隔もあり、教室自体も広めである。
「この特進クラスの担任となるジーク・バルトラだ。専門は魔法近接戦闘だが、魔術式の研究を趣味でしている。長い者は4年間、短いものは1年間になるが、これからよろしく頼む。では、番号1番から自己紹介をしてもらう。」
話に聞くに、この番号とは入試試験での得点順らしい。
ハヤトは4番目、エリュシオンは3番目となる。
そして、学年首席となる1番は16才の美少女だった。