馬車の旅三日目、初めての魔獣
初めて乗る馬車ではあったが、3日目にして早くも適応し始めている。
領都近郊は道も整備され、揺れも少なかったが数時間もすれば土を踏み固めただけの道になっていた。
揺れもそれなりに大きくなり、その分酔いやすくもなる。いくら座席にクッションがあろうとも、備え付けのものではおしりの痛みを回避することは出来なかった。
それでも3日目には慣れ始めているのだから、ある意味才能であろう。
これまでの旅は順調のそれであり、移動中に襲われる事も、脱輪することも、誰かが吐き気を催す事もなく平和そのものであった。
今この時までは。
「総員警戒!馬車は全車直ちに停車せよ!」
ヒヒィーンと、馬が鳴き、乗客を乗せた馬車は全車停止した。
「護衛騎士は総員戦闘配置に付け!あと数十秒もすれば魔獣と接敵する!数は5~10、恐らく全て小型だ!」
「これは、まずいんですか?」
「いえ、10匹それも小型ならここの護衛騎士であれば余裕を持って対処できます。ですのでハヤト様はここで終わるのを待っていただければ。」
「大丈夫だって、さすがに危険なことはしないよ。出来れば面倒ごとは起こしたくないし。」
「ハヤト様、それはふらぐと言うやつではないのですか?」
「よくそんな言葉知ってるね。それも過去の異世界人が?」
「はい、かの大冒険家エイジ様がおっしゃっていらしたと。」
「確か、この世界に冒険者組合を作った人だよね?」
「その通りです、約三百年前の偉人になりますね。」
「結構昔なんだね。」
ちょっとした歴史の復習が終わる頃には無事に、何事もなく魔獣は処理されていた。
この世界に「フラグ」がなくてハヤトはほっとした。
「それにしても、魔獣ってこんな所にもいるんだね。」
「これまでの遭遇率が少なくなかったといえば嘘になりますね。ごく稀に自然変異しますし、我が国は国土が広いので無人地帯もそれなりにあるのです。それゆえ必然的に小型魔獣が発見されずに群れをなすことがあります。」
「その小型魔獣って、どれくらいの強さなの?」
「そうですね。種類にもよりますが、この国の騎士なら1分もかからないと思います。中型なら、安全性を考えて小隊で対処しますね。」
「それは見てみたいなぁ。」
「王都に行けばその機会もあるかと。冒険者登録するにも1度王都には行かなければなりませんし。」
「分かってるよ、さすがに日本とは違うし、自立して生活できるようになるまではちゃんと言うことを聞くよ。」
「私は今のままでも……」
「ん?何か言ったかい?」
「い、いえ、なんでもありません。そろそろ馬車が動き出すようです。」
(まさか、今のを聞かれた……?)
平穏(?)な旅はもうしばらく続くーーー