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神となった異世界人は、異世界の知識をもって世界を繁栄させる。  作者: 千寿
第二章 セントリア魔導学院編
57/71

魔導学院入試

二章からは二話から一話投稿に切り替えます。

時間は18:00or21:00or23:00

 魔導国セントリアに入国した二日後、ハヤトは()()でセントリア魔導学院へ入試のため来ていた。


 ハヤトはこの世界に来て、初めて一人で行動している。

 これはセントリア魔導国で問題を起こすということは、それだけリスクが伴うということ。

 また、魔導学院の警備は厳重で王族であっても許可なくしては中に入ることが許されていない。

 魔導学院自体がある意味、街としての機能も備わっているので自警団も存在する。

 それは中で起きた問題は原則として中で解決し、外と分けるための役割もある。

 簡単に言うと、入試資格を持っているものでないと学院の敷地内に立ち入ることができない。

 それが護衛だとしても。



「こっちに来て一人で行動するのは初めてだから、なんだか落ち着かないな。」



 ハヤトは地図を片手に持ち、学院内にある街を歩く。

 学院の地理は、北側に学院内への一般入口があり、そこから南に行くほど教育機関としての色が濃くなる。

 北部が来客用の宿や学生も利用できる食事処、レストランなどがある街。

 北中部は学生寮や学院内組織の本部、郵便などの外部との交流組織の建物。

 中部には学院の学び舎、教授や研究者の研究所。

 南中部は教授や研究者の寮、冒険者組合や警備隊本部。

 南部は森と湖がある自然豊かな場所となる。

 この広大な土地が学院の敷地となり、半分以上が南部エリアとなる。

 このエリアは研究された魔獣や魔物を放ったり、飼育しているので学生の実践訓練として使用される。


 ハヤトが目指す入試会場は中部エリアにある(学び舎としての)学院の一階になる。

 門から入って正面、巨大な建物の玄関に当たる場所で受付がされる。


 学院の建物があまりにも大きいので、基本的に道に迷うことは無い。



「やっぱり、こうして近くで見てもデカイな……。一体何階建てなんだ。」



 ハヤトの周りには同じく入試資格を持つ少年少女、といっても学院に入ることが出来る年齢は十四〜十八となっているため、まだ幼さが残る子や体格もガッチリしている青年もいる。

 年齢はある程度バラバラ、しかし皆一様に緊張の面持ちである。

 それも無理はない、約半数の人間が国からの推薦を受けこの場に来ている。

 国の推薦を受けていると言うことは、ほぼ間違いなく入学できると言うことではあるのだが、そんなことは本人たちには関係なかった。

 ただ、受からなければというプレッシャーが襲いかかる。



「すみません、入試の受付はここでいいでしょうか?」



 国の推薦など、ついこの間まで異世界に住んでいたハヤトからすればそこまで重いものだと理解は出来ていなかったため、他の面々に比べ平常心だった。

 緊張はしていたが。



「はい、入試資格を示すものの提示をお願いします。」


「えっと、これでいいですか?」



 ハヤトが取り出したのは、エルドラ王国の推薦状。

 推薦状を持っているということは、その者の身分を保証し、信頼しているということ。

 この学院に入学するものの中でもトップクラスの実力を持っているということと、ほぼ同義である。

 それに特に緊張した様子を見せず、気軽に声をかけてきたハヤトに、この道二十年の受付係は興味を持った。



「えぇ、エルドラ王国からの推薦状ですね。確認しますので少しお待ちください。」



 受付係はテーブルの上に設置された魔道具で推薦状が本物かどうかを調べる。

 かかる時間は一分程度。いつもなら特に話すことはないのだが、他とは違う気配のハヤトに興味を持った受付係はたわいのない会話から始めることにした。



「魔導国は初めてですか?」



 事務的なやり取りだけで、まさか話しかけられると思っていなかったハヤトは一瞬、遅れて答える。



「ええ、国から出ること自体が初めてですね。」


「エルドラ王国、からですね。大国から推薦状を貰えるなんてかなり期待されていますね。」


「僕もまさか推薦状を貰えるなんて思ってなかったので、正直驚きました。大国からの推薦状ってそんなに珍しいんですか?」


「そうですね、平均すると毎年二割くらいでしょうか。決して多いとは言えないですが、珍しいと言うほどではありませんね。」


「二割ですか、意外と多いんですね。」


「この学院に入学するために来る半数はどこかしらの推薦状を持っているので、推薦状自体は持っていて当然みたいなところはありますね。ですが、大抵が入学出来ずに戻られるので。」


「推薦状があっても入学出来ないことがあるんですか。」


「ええ、勿論。入学するに値する人物でなければ例外なく入学することは出来ません。その点、大国の推薦状を持っているということは全体の上から数えた方が早いくらいのレベルですから。落ちることはほとんど無いですね。」


「あー、国や機関によって教育のレベルも質も違うってことですね。」


「その通りです。第一、飛び抜けた才能や隠れた才能を見逃すほど我々は愚かではありませんので。チャンスは等しくあると言えますね。」


「そのチャンスがなかなか掴めないんですけどね〜。」


「さすがにそこまでは感知出来ませんね。はい、確認が出来ましたのでこちらはお返ししておきます。中で受験票の発行時にまた使うので、すぐに取り出せるようにしておくといいですよ。」


「ありがとうございます。では、失礼しますね。」


「ええ、また機会があればお会いしましょう。」



 受付係に指示され、建物の中へ入っていく。順路はわかりやすいように印があるのでそれに従って進んでいく。

 受験票を発行してもらう場所は受付と似ており、同じように推薦状を魔道具で読み取り、必要事項が受験票に書き込んだものを渡される。

 さすがに印刷機のようなものではなかったらしい。



「ではその受験票を持って試験会場に入ってください。中に入れば案内に従うように。」



 受付係の女性とは違い、この男性は職務上のやり取りを続ける。



「はい、分かりました。」



 ハヤトは言われた通りにすぐ側にある試験会場に入った。


 中には既に半数ほどの受験生が着席しており、教員が数名控えていた。



「よし、受験票を見せたまえ。」


「はい。」


「うむ、こっちの席だ。時間になるまではゆっくりしてくれて構わないが、時間までにその席に座っていなければ失格となるので注意するように。」



 どうやら気軽に話しかけてくるのは受付係だけのようで、他は事務的なやり取りだけで終わる。

 周りを見渡せば、みなが皆緊張してガチガチになっている。

 ハヤトはといえば、老師やヘルメスから合格を貰っているので心配はしていない。

 実力を出し切れるかが少し不安ではあるが。


 魔導学院は高い基準を設けていて、それを超えた成績上位者から入学が決定していく。

 とはいえ、ここに集まるのは魔法使い、魔法士では無い。

 魔法使いとは、魔法士もしくは魔導士に弟子入りしたものを指し、一人前ではないということ。

 下手な魔法士よりは才能も実力もあるが、やはり本職の方が総合的には何枚も上手になる。

 そんな魔法士からのお墨付きを貰っているハヤトからすれば、そこまでの危機感はなかった。

 ただあるとすれば、上位入学を無事達成できるかどうかという点。


 これに関しては、ハヤトは開き直って自分よりも才能と実力が上の人が少ないことを祈ることにした。


 そんなこんなでソワソワすること二十分、気が付けばほとんどの席が埋まっており、時間となったため入試試験が始まった。




「では時間となったため、試験を始める。」



 教員の一人が代表して場を仕切る。



「俺はセントリア魔導学院の学年主任のライデン・グレイダルだ。君たちが無事入学した暁には、俺が学年主任となる。本日の試験に関わる人間のほとんどは、今後とも君たちと何らかの関わりがあるだろう。いついかなる時も試験を受けているという気概で受けて欲しいと思う。」



 ライデン学年主任が頷くと他の教員は紙束を持って、席の一番前に座っている受験生に配り始める。



「では、最初の試験だ。今配っている試験用紙を裏を向けた状態で後ろまで配るように。こちらで合図をしたら問題を解いていい。……時間は四十分間となる、では初め!」



 試験用紙の内容は筆記試験。

 設問が並び、随時それに応えていくスタイルだ。

 基本的に魔法理論や魔法学の基礎知識を問われる問題がメインで、意地悪な問題はあまりない。

 要は、この程度で落ちる人間は場所から要らないという(ふるい)だろうとハヤトは予想する。

 実際に、異世界人であるハヤトでも全てを埋めることができた。時間もまだ十分ほどを残した状態でだ。

 周りの気配も同じようなタイミングで終わったようなので、これが一般的なスピードなんだろうとハヤトは安心した。


 実際、ここにいる人間は仮にも世界最高峰の教育を受けようとしているわけで、頭脳もそれなりに良くなければならない。

 本当の一般人であれば時間など余ったりしないのだ。

 ハヤトの異世界での教育レベルがどうしても基準となってしまうため、比べられるこの世界の一般人はたまったもんじゃない。



 程なくして試験開始から四十分間が経ち、順次試験用紙が回収されていく。

 教員たちが枚数を数え、手早く採点をしていく。

 どうやら後で採点をして後日発表という訳ではなく、その場その場で採点をしていくようだ。

 もし落ちることがあれば、その人はみんなの前でわかる形で落とされていくという何とも残酷なシステムだろうか。


 筆記試験の結果は当然というのか、誰も落ちることなく通過することがライデンの口から告げられる。

 その時、会場全体からほっとしたような雰囲気に満たされた。



「では次の試験会場と向かう。荷物を手早くまとめ、私に付いてくるように。」



 ライデンの先導により、一同が向かうのは第二室内訓練場。

 室内と言うよりは、半室内と言った方が正しい。

 この第二訓練場は、主に的に魔法を当てる訓練をするための場所であり、的がある場所は野外となっている。イメージとして弓道が近いだろうか。

 これはいくら防御術式があろうとも、それを超える威力の魔法が放たれれば建物自体が壊れるので、それを防ぐために的は野外(立ち入り禁止区域)に設置している。



「この第二訓練場は、半分が野外となっている。一つ大事なことだが、許可なくこの部屋から的の方に行くことは固く禁ずる。もし破る者がいて、例え怪我をしようとも我々学院側は一切の関知をしない。この訓練場の特性から今から放つ魔法の威力は問わない。最大火力で撃ち込むもよし、精密な一撃を撃ち込むもよし、今できる最高の魔法を見せてもらう。魔法の難易度や効果、威力それらを総合的に評価し、才能ありと認められれば次の試験へと進める。では、10人ずつ教員の側まで来て指示に従い試験を受けるように、何かわからないことがあればその都度聞くようにしなさい。」



 では、初め。とライデンが言うと、周りを気にしながら恐る恐る何人かの受験生が教員の元へと歩いて行く。

 今年の受験生は全部で250人ほどで、10人ずつ試験を受けられるので25回で全員の試験が終わる。

 一回一分だとしても約三十分かかる計算になる。


 ハヤトは他の受験生の実力がどれくらいなのか気になった為、ゆっくり試験を受けることにした。


 最初に試験を受ける10人は大勢に見られてることに緊張しているのか、操作ミスや詠唱途中で噛むなどのミスをしていたがどうやら試験は合格のようだ。


 ライデンが何度も言うとおり、才能を一番に見るらしくそれ以外は加点程度にしか見ていないのだろう。

 中には魔法の発動がまだ覚束無いものまで合格になっていて、自信満々に派手な魔法を放った人が不合格になっていたりしていた。


 他の受験生の魔法や合格不合格者の違いを興味深く見ていたハヤトは、気が付けば最後の10人にまで減っていた。

 他の9人はこれまでの人達と違い、緊張の面持ちではなくどこか確固たる自信があるように見えた。

 そして、各々が教員の指示するタイミングで魔法を放つ。

 ハヤトは指示されたタイミングで、他の人達よりも少し強力な魔法を放とうとし……

 大爆発の轟音と数瞬遅れてやってきた衝撃によって中断させられる。



「うわっ!」「きゃー!」


「一体、何が……!」



 訓練場全体が突然の出来事に驚き、混乱する。

 しかし、大声で発せられるライデンの一声で訓練場は静まり返る。



「狼狽えるな!これは魔法の試験だ、学院に入ればこの程度のこと、日常茶飯事だと思え。慣れろとは言わん、だが騒ぐ前に自らの身を守れ。」


「ったく、どいつもこいつもダセェな。ちっと殴っただけだろうが。」



 ライデンの言葉を遮るのは先の魔法を放ったと思われる、燃え盛るような赤髪の少年。

 身長は160cmを超えるくらいだろうか、どちらかと言えば小柄の方だ。


 自分の言葉を遮られたライデンはそれを咎めることも無く、少年の名前を聞く。



「見事な一撃だった、名前はなんと言う?」


「ふんっ、そんなもん答えてやる義理は……」


「名は、なんと申す?答えなければ落とすのみだ。」


「っち……。エリュシェン……、エリュシェン・スカーレッドだ。」


「ではエリュシェン・スカーレッド、お前は合格だ。速やかにこちらに移動するように。」



 エリュシェン・スカーレッドと名乗った少年は、不満げに舌打ちをしながらも指示に従い移動する。

 残された8人の受験者はなんともやりにくい空気の中で試験を受けなくてはならなくなった。

 残りの7人はエリュシェンほどでは無いが、威力や精度は飛び抜けていた。

 ハヤトはエリュシェンみたいに派手な魔法を撃とうとしていたが、あの空気になるのが嫌で地味なものを選んだ。

 地味とはいえ、制御や難易度で言えばかなり高いものになるのだが。

 狙いは約50メートル先の的、的の大きさは恐らく50cm。その的を手で握り潰すイメージを持って魔法を発現させる。



「《我は眼前の万物を掌握する者》」


「《不可視の巨人に掌圧(しょうあつ)されろ!》」



 起こり得る現象は、的の圧壊。

 取り返しやすいように作られた木製の的は不可視の力により、まるで巨人に握り潰されたかのように圧壊していた。


 ほとんどの受験生や教員が何が起こったのか分からず、また馬鹿にするように笑う中、ライデンと数人の受験生だけはこの魔法の恐ろしさと可能性に気が付いていた。

 魔法の制御力や干渉力、知覚力が優れたものであれば気づくことが出来たであろう。


 最初の詠唱でハヤトから細い糸のように伸ばされた魔素の糸が、的を捉えた時は意図が分からなかった。

 しかし、続けられる次の詠唱でこの意味を理解させられた。

 一つの魔法を二段階に分けることで攻撃の悟られず、臨機応変に対応を変えることができる。

 例えば、魔素の糸で雷や炎の魔力を伝達させ、相手の懐で発現させれば視認されることなく攻撃を放つことが出来る。もし、それに気づき魔素の糸を切ろうとしたとしても、魔法的な手段以外では切ることが出来ない。

 一段階目の時点では何も起こらないため、仕掛けられた方は警戒するが何も起こらなければ集中力を削ることも出来る。



 効果は地味だが、それなりの魔力を消費したハヤトは合否の結果を待っていた。

 そばにいた教員は気付いていないのか、なかなか合否を伝えてくれない。

 しかし、そんな疑問もライデンの言葉によってすぐに晴れた。



「合格だ。名前は、なんと言うのだ?」


「ハヤトです。」


「家名はないのか?」


「家名はありません。」


「そうか。ハヤト、君は合格だ。こちらに来たまえ、次の試験にいこうではないか。」

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