ドレアス騎士団長
まだしばらくは短い話が続きそう……
強いていえば少しずつ情報開示をしていくつもり。
何事もなく出立したか。
騎士であり、領主でもあるドールはほっと一息ついた。
「まぁ、我がドレアス騎士団が目を光らせているところでおかしなことをする輩はいないとは思うが。」
「決して動きが無いわけではありませんからね。」
「うむ。ユーリスよ、暫くは騎士団を任せる。わしは先んじて王都へ向かい、女王陛下に謁見してくる。」
「かしこまりました。だからこの街から魔導機関車に乗せなかったんですね。」
「ん?それもあるが、やはり旅といえば馬車であろう?」
「はぁ……、全く考えてなかったんですね……。これだから脳筋は……」
「なんだ、なんか言ったか?」
「い、いえ。さすが団長、感が冴え渡っているなと。」
いつものようにうっかりと声に出してしまったユーリスは、筋肉のすばらしさを語らうという鬼の訓練を思い出して思わず身震いする。
(なんとか誤魔化しきれたようですね……。)
ドレアス騎士団としては珍しい弓使いであるユーリスとしては、剣でぶった斬るや槍で貫くといった力任せの戦い方は専門外である。
「……さもありなん。いくら魔導機関車に乗るとはいえ時間はあまり無いのでな、早速行ってくるとする。」
「はっ!後のことはお任せを。」
ドールはユーリスがなにか誤魔化していると気づきはしたが、何かが分からないことには言及出来ないため忘れることにした。
「さて、いつまでもアレを待たせるわけにいかぬからな。」
ドールは手早く鎧と数本の剣のエンブレムが施された特殊な騎士鎧を身につけ、地下にある魔導機関車ドレアス駅に向かった。
そこにあるのは全15両からなる機関車。しかし、それは蒸気機関ではなく、より早く進むために異世界人によって開発された魔導機関を取り入れられている。
魔導機関とは、蒸気機関と違って石炭ではなく魔石によって運用される。
魔石を砕き魔石内に含まれる魔力をもって動力を動かす仕組みである。
1度動かすだけで魔石の消費量はかなり多く、コストパフォーマンスは決して良くないので限られた人間にしか乗る機会は訪れない。
そんな魔導機関車を待たせているということは、ドール・ドレアスにはそれだけの権力がある事の裏返しである。
補足しておくと、魔石は適切な処置をしなければ、内部にある魔力が暴走する性質にあるため、その暴走に耐えうる耐久性と制御装置の開発に異世界の知識が必要である。
「みな、待たせたな。」
「いえ、他の乗客にも理由をご説明させて頂いたところ、是非挨拶をさせて頂けるのであればと色良い返事を頂いております。」
「うむ、まぁそれくらいは仕方ないか。全く、商人や貴族たちはタダでは転ばんな。」
「かのドレアス卿と顔を繋げるとあらば万金の価値がありますゆえ。」
「よせ、堅苦しいのは苦手だ。わしはいつもの部屋におるから順次通してくれれば良い。あとは全て任せる。」
「かしこまりました。ではこれより、5分後に魔導機関車ドレアス号出発致します。」
ドールが乗るのは7両目。機関部と魔石庫、客室3両に食堂と荷物庫の間に用意されている。魔導機関車の客室がある車両の中で最も静かな場所になっている為、上客にはこの場所が当てられる。
「王都までの8時間、果たしてどれほど休めるか……。」
そんな憂いを他所に、初めの来客が戸を叩いた。