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神となった異世界人は、異世界の知識をもって世界を繁栄させる。  作者: 千寿
第一章 異世界の国エルドラ王国編
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十一騎士オオヅチ・ミコト

 鉱山麓の戦場は死体だらけと言うわけではなかった。

 もちろん、魔者が喰っていると言うこともあるが、冒険者のヒットアンドアウェイと、騎士団による小隊規模での囲い込みが作戦が上手くハマったからである。

 それでも被害としては大きく、一時間が過ぎようとしている今、既に残された人数は半数近くにまで減っていた。

 副団長であるガイルですら、骨折した左腕を盾にすることで命は助かったが、盾にした左腕は肩から先が無くなっている。

 最低限の止血をし、残された右腕で剣ではなく、盾を持つことで戦線に何とか参加している。



「ガイル副団長、ここは一旦下がってください!さすがにあなたでもこれ以上無理をすれば!」


「構わん……、ここは戦場だ。多少後ろに下がったとしても死ぬ時は死ぬ。それにヤツは未だに俺を狙っている。現状維持するためにはここを離れるわけにはいかんのだ。」


「ですが……」


「くどい!……参謀には全て使えと言っている。その時が来れば、お前も躊躇するな。」


「ッ!それは……」


「今は、最小限の被害で抑えることに集中しろ。恐らくだが、アレはまだ遊んでるに過ぎん。」



 ガイルは集中こそ欠いていないが、左腕を失った時の出血の影響で血が足りていなかった。

 仕方がないとはいえ、即座に傷を焼きつけて止血したのも不味かった。

 時間が経つにつれて呼吸は乱れ、顔色は悪くなっていく。

 ガイルは、動けなくなる時は自らが餌となることも考えている。

 きっと、参謀も部隊長達も理解してくれる。



「そろそろヤツも飽き始めてきたか……」




 魔者は遊びながら食事を楽しんでいた。

 時々、周りを囲われ動けなくなるが、一番最初程ではなくその気になれば壊せる程度。

 ある程度の力を込めて殴りつけるだけで壁は砕け、怯える餌を喰う。

 既に喰った餌の数は数え切れなくなり、それなりに魔素を取り込むことが出来た。

 人間を喰うたび、不思議とどうすればより効率よく力を使えるかが分かるようになっていく。

 ただ体当たりするのではなく、フェイントを入れたり、足で踏み込み腕で殴ったり。

 新しく得る知識を、ひとつひとつ試すように餌にぶつける。

 少しずつだが着実に、自らが強くなっていると実感する。



「モット……モット……モット……、喰ゥ……!」






「ねぇ、二人とも。アイツだんだんの喋るようになってきてない?」


「えぇ……、そうね。」


「恐らく、喰った人間から知識として学習しているのではないでしょうか。」


「十中八九そうだろうね……。」


「到底許されるべき行為ではない。騎士として、人間としての在り方を冒涜するような行為です。」



 ダリアの怒りは限界まで来ていた。

 しかし、ハヤトの存在が彼女をここにとどめる。

 それに、今の自分では到底敵わないことも理解させられた。

 人が今まで培ってきた経験や知識、それらを喰うことで奪う。

 その人の生き様が、最終的に同じ人を喰う為に使われている。

 それも遊び半分で。



「ここも直ぐに落ちるでしょう。直ぐに逃げることをおすすめします。」



 だからこそ、ダリアは逃げの一手を勧める。

 しかし……



「いや、最後まで見届けたい。」


「なにを!?」


「そうよ!逃げましょう?今なら私たちだけなら逃げ切れるわ。」



 いつの間にかハヤトは、練り上げた魔力を手放し魔者から離れているとはいえ、無防備を晒している。



「感じない?とてつもないナニかがこっちに向かってる。」


「ナニか……?十一騎士のこと?」


「どうだろう、正直分からない。でも多分二人くらいだと思う。」



 ハヤト達は魔者が居る地点を挟んで街の反対側五十メートル程のところにいる。

 多少ではあるが、高低差を活かして魔法を撃ち下ろすためだ。



「……来たね。」





 ガイルは己の死を悟っていた。

 自分の意思とは関係なく、腕は上がらなくなり、片膝をついた状態から体を起こすことも、既に出来なくなっていた。

 何とか顔を上げた時には、魔者に喰われる瞬間であった。



「……ぁ」



 最後に一矢報いることも出来ず、ただ喰われていく。

 そう悟った瞬間、夜空から六本の金属製の棒が降ってきた。

 六本の金属製の棒は魔者を取り囲むように、地面に真っ直ぐ突き刺さる。

 よく見るとそれは、棒ではなく棍であることが分かる。

 長さが三メートルはあるそれは、均等に並び円もしくは、六角形を描いている。


 魔者は待ちわびた食事を邪魔され不愉快な気持ちになっていた。

 思わず食事を中止し、顔を上げる。

 しかし、特に何も無く、ただ単に棒のようなものが周りに刺さっているだけ。

 ()()()()()()()攻撃に思わず笑ってしまう。



「ガャハャハャハャハャハ……」



 意味の無い攻撃に笑い、気を取り直して獲物を()べようとした瞬間、笑い声に反応したかのように突き刺さった棍が微細に震え脳を揺らす衝撃と音に襲われた。

 魔者に襲われ、地に伏せっているガイルも例外ではなく。


 魔者は今までの()()で味わったことの無い苦しみに、もがき叫ぶ事しか出来なかった。

 見えない何かに拳を振るい、周りを殴りつける。

 しかし、鳴り止むことはなく意識が飛かける。

 その刹那に本能が戻り、傍にあった餌を一口に喰うことを優先した。

 最早、今までの形は残らず流動的に変化し、この苦しみから逃げ出そうと、棒の外へ逃げようとする。


 しかし、空から降ってきた槍がそうはさせなかった。

 魔者を地面に縫いつけるように突き刺さり、雷が迸る。

 魔者はただ、何も出来ずゆっくりと体が溶けだしていく。



 騎士たちはただ、呆然とその光景を眺める。



「皆、待たせた。」



 後ろから声をかけられやっと我に返る。



「騎士団長……」


「よい、今はヤツを討ち取る事を優先せよ。」



「貴様だけは許さん。《居合──》」



 一瞬で魔者との間合いを詰め、腰に帯びた刀を抜く。

 その一振の残像が過ぎ去る頃には、魔者の核は真っ二つになっていた。


「《居合》断斬(だんざい)

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