発ドレアス領
ハヤトがこの世界、エルドウルに来てから早1ヶ月。
ドレアス領においての常識を含めた勉強を終えた。
「ハヤト、本当にもう出るのか?」
「はい、1ヶ月間お世話になりました。」
「うむ、少し寂しくはあるが男が決めたこと、それを誰が覆せようか。供として騎士を一人付けるゆえ、頼るがいい。ダリア、ハヤトを頼んだぞ。」
「はっ!我が命にかけまして、必ずや護り通しましょう。」
「あはははは、命までかけられるのはちょっと重いなぁ。」
「いくらこの国が他国と比べ治安がいいとはいえ、よからぬ事を考える輩はいない訳では無い。ハヤト自身もその事を肝に銘じてくれ。」
「はい、肝に銘じます。」
「旅に必要なものはダリアに渡してあるので、場所の中ででも確認してくれ。王都に着いたらまず最初に騎士団詰所に行くことを忘れるな。」
「そろそろお時間です。」
「分かりました、ではドールさん改めてお世話になりました。」
「うむ!またどこかで会おうぞ!」
ドールと別れたハヤトとダリアは乗合所に向かった。
乗合所には、既に馬車と乗合客、巡回護衛の騎士数名が荷物などの積み込みをしていた。
「ハヤト様、私は受付で手続きを済ませてくるので、先に馬車にお乗り下さい。」
「では、先に行って待ってますね。」
そう言うとダリアは建物に入っていき、ハヤトは馬車のように向かった。
乗合馬車は全部で5台。荷馬車が3台に護衛騎士の馬車が2台。それ以外に馬が何匹かがいる。
乗合馬車が御者含め5人乗り、荷馬車含めると28人。護衛騎士が10人の総勢38人となる。
「うおぉ……これはすごい。これだけの人が馬車で一緒に移動するのか。」
「ん?そこの君、見ない顔だね。」
ハヤトに声をかけてきたのは40歳くらいのおじさん。
服装はかなり綺麗な格好、体格もしゅっとしている。
「あぁ、これは失礼。私は王都に店を構えている商人さ。これでも年に数回はここを訪れるのでね。必然とここを利用する人をおぼえているのだよ。」
「初めまして、今回初めての旅なので見かけなくて当然かと。」
「おぉ、そうかいそうかい。それなら覚悟しておくといい、今では多少マシになったとはいえ馬車ははやりおしりに来る。なれないうちはおちおち昼寝も出来ないのさ。」
「あー、やっぱりおしりに来ますか。」
「本来ならここでクッションの1つでも売りたいのだが、生憎とここが折り返しでね。仕入れたばかりの鉱石類しか売れるものがない。」
「あはは……、商魂逞しいようで。」
「時に図太いくらいでなければ、商人として生きていけんよ。そして、そんな私から1つアドバイスだ。女心というのは移ろいやすい、商機よりもだ。」
「はい?」
話しかけてきた時からのニコニコ顔から一転、真顔になったと思ったらなんだ。なんでここで女心がでてきた……?
「では、私はここらへんで。もし、王都でなにか入り用なら是非我がトパーズ商会へ、それでは良い旅を。」
「お待たせしました、ハヤト様。それで今の方は?」
「あぁ、王都の商人らしいよ?僕が見ない顔だからって話しかけてきたんだ。」
「……なるほど、そうですか。」
「ん?どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません。それより、私たちが乗る馬車は前から4番目になります。」
それから暫くして、無事何事もなく馬車に揺られながらドレアスを経った。
尚、ハヤトは気づいていなかったが、それなりにお金を持っていなければこの乗合馬車に乗れない。
通常旅に使うとすればキャラバンに乗せてもらうか、自分の足になる。
乗合とは言え、異世界からもたらされた知識で揺れを軽減しているような特別な馬車には乗れない。
それこそ、紹介主や身分がある程度は高くなければ。