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神となった異世界人は、異世界の知識をもって世界を繁栄させる。  作者: 千寿
第一章 異世界の国エルドラ王国編
34/71

宝石級

 廃坑に入り三十分は経っただろうか、既に魔物と何度か遭遇しハヤトが魔法を撃つまでもなく二人に処理されていく。

 今現在、ハヤトがまともに使える魔法はオーバーキルになるので使うだけ魔力の無駄となるが……。

 今のハヤトが廃坑内で使える魔法となれば、土、金、風くらいだ。

 土は使いすぎると廃坑を崩しかねないので、あまり周りに影響がある使い方は出来ない。金も似たようなのもだ。

 つまり、安全かつ確実に使えるのは風だけとなってしまう。

 純粋な魔法使い、つまり魔法士は広範囲と威力重視になってしまい、狭い空間や行動が限られる場所は苦手分野になる。

 これが冒険者であれば、実用的な魔法を覚えるので現実的と言える。

 ハヤトと言えば、まだ冒険者としての期間が短く、魔法使いとしてもまだ未熟なため、実質的に使える魔法はかなり少ない。

 仲間がいることも、魔法を連発という力押しが出来なくなるので個人の戦闘能力はより下がる。



「気をつけてください。奥から大きな気配を感じます。」


「ミリス、合図してくれれば魔法を撃てるようにしておくから。」


「わかった、注意を引くからその隙にやっちゃってね。」



 軽い打ち合わせをするとミリスは静かに忍び寄る。

 明かりは最低限まで光量を抑え、近くにいる仲間を確認できる程度にする。

 魔物に視覚があるかは分からないが、反応する個体もいるようなので警戒はしておいて損は無い。


 ハヤトが魔法を撃ち込む準備を済ませた頃には、魔物に対し、ミリスが拳を振るっていた。

 注意を引くための牽制の一撃だとしても、生身の体とぶつかったとは思えない、ガキン!という音が廃坑内に響く。



「いっつー……、今よ撃って!」


「《風の刃よ、切り裂け!》」



 魔力を凝縮して込めた右腕を縦に振り下ろし、魔法として解き放つ。

 開放されたそれはまさに風の刃。

 床に僅かな傷をつけながら、一直線に廃坑を駆け抜ける。

 剣というより刀をイメージしたそれは、より斬るということにとったした物となっている。

 音からして硬い魔物は直前で気づいたのか、魔法自体が逸れたのかは暗くて定かではないが、僅かに魔物の体を切 斬り落とした。

 斬り落としたとは言っても、斬った傍から露となって消えゆくので消費させたと言った方が正しいのもしれない。

 生物なら行動不能になっても同じくはない攻撃を受け、それでも魔物は原因であるハヤトを見つけ襲いかかってくる。



「私の後ろに!さぁこい!」



 ダリア素早くハヤトの前に出て、半身の体勢で盾を構える。

 魔物のスピードは人が走るのと変わらない程度、とは言っても全力疾走のほうだが。

 故に、ダリアは受け止めるより受け流すことにした。

 盾と魔物が当たる音は金属同士のそれ、魔力の流れを見るに土や金系統で周りを固くしているのが分かる。

 物理的な接触はこれで弾いたりしているようだが、魔法的な攻撃にはどうやら弱いらしい。

 要は魔法力で上回ることが出来ればいい。

 イメージとして、分厚い紙をハサミで切ることと同じようなものなのだから。


 ダリアに上手く受け流され、止まることなく壁にぶつかった魔物はその体が少しではあるが削れていた。

 いくら硬いとはいえ、非物理的なものが一時的に物理的な硬さになっているだけで、同じかそれ以上の硬さのものとぶつかったり、擦れたりすれば同じように削れる。

 それだけダリアの持つ盾が硬く、壁にぶつかった衝撃は大きかったと言える。



「動きを封じるから、一気に行くよ!《大地よ、彼の者の動きを封じよ!》」



 廃坑の壁や天井、床から金属の混じった土が魔物に襲いかかり、そのまま壁に押し付け動きを封じこめた。

 これは魔物自体が表面を硬くしているから通じてはいるが、仮に硬化を解かれればするりと抜けられる。


 ハヤトは魔物の動きを封じてもなお、魔力を込め続け少しづつではあるが表面を削っていく。

 じわじわと締め付けられているとわかった魔物は必死に抜け出そうともがくが、返ってそれが動きに制限をかけることとなる。


 その様子からしばらくは動きが止まるとみたミリスは、身体強化(ブースト)して全力疾走からの飛び蹴りを、ダリアは一直線に構えた剣を真っ直ぐ突き刺し、魔物の外殻とも言えるそれを貫いた。

 貫かれたことで、そこから全体にわたって亀裂が入り、未だ締め上げるハヤトの魔法がトドメとなり砕けた。




 ……ように見えた。


 砕けたのはあくまで外殻部分。

 それに内包されている魔素が砕けた箇所から溢れ出る。



「まずい!避けて!」



 ハヤトと必死の叫びを聞き、ミリスとダリアは迷わず後方へ跳ぶ。

 魔物は拘束から霧のように逃れ、また集まっていく。

 元の姿に戻ると身構え、体勢を整える。


 ミリスはいつでも仕掛けられるように、ダリアは盾を構えハヤトを護るように、ハヤトはもう一度削るために魔力を練る。


 可視化できるほどの魔素の霧は、核となる宝石を中心に密度を増していく。

 ある程度は削っているので元の大きさより一回りは小さくなるのはわかるが、集まっていくそれはより小さくなっていく。

 明らかに想定よりも体積が減っているのが分かるほどに……。

 集まる魔素の霧は一つの形に成っていく。



「人型……、まさか変異種!?」


「聞くだけでやばそうだねそれ。」


「不味いですね、変異種は前例が少なく、情報が無さすぎます。それに……」


「……それに?」


「それに、人型は例外なく強いです。」


「……、あの霧を散らします。隙を見て核を狙ってください。」


「はい」


「わかった」



「《荒れ狂う暴風よ、彼の者に重き一撃を!》エアハンマー!!」



 ゴッという音と共に、魔物に叩きつけられる風の塊。

 狭い廃坑の中で起こり得るその現象に、術者であるハヤトさえもその風の流れに引き寄せられそうになる。

 必死に踏ん張り、何とか耐えようとするが長くは持たない。

 魔物に当たった暴風は一点に集まりかけていた魔素を正面だけとはいえ確実に吹き飛ばしていた。

 そしてそれだけではなく、魔物は壁に叩きつけられ、体が埋まる。


 そのチャンスを見逃すミリスとダリアではない。


 体が引っ張られるような暴風を利用し、加速するミリス。

 ダリアは盾を叩きつけるように突進をする。


 先に魔物に辿り着いたのはダリア。

 僅かではあるが、少しづつ傷口を直すかのように塞がろうとする魔素と核、それをさせまいと盾をタックルのように叩きつける。

 ミリスがすぐそばまで来ているのを察知すると、ダリアは盾を捨て横に飛び避け、ミリスの拳が核を捉える。



「《我が拳に宿るは破壊の炎、必殺の一撃を持って敵を打ち砕かん!》ファイアーブロウ!!」



 炎のように赤く染る拳が、魔物の核を捉え打ち付けられる。

 人が殴ったとは思えない衝撃が核を襲い、ミリスの拳に宿った火の魔力は核を破壊の暴力で染める。


 真っ赤に染まった核は次第に光量を増していき、次第に炭化したかのように真っ黒になりポロポロと崩れていく。



 (コア)に集まっていた魔素の霧は、周囲に溶け込むように薄く消えていく。

 そこに残るのは壁に空いた人型の窪みと、崩れ去った魔に汚染された宝石のみ。

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