検問
指名依頼を無事達成し、オオヅチ製の武具を作ってもらえることになったハヤトは、冒険者組合に紹介してもらった宿を拠点に冒険者活動をすることにした。
領都オオヅチは五つの区画に別れていて、宿は歓楽街、冒険者組合があるのは商人街にあたる。商人街というより、商業区と言った方がいいだろうか。
基本的には住民街に住むが、ある程度の経済力があったり、店を構える人はそう出ないこともある。
単に住民街というのは、住むということに関して税金が他より安いと言うだけなのである。
職人街や商人街に住む場合は、店の敷地に住居を構えたり、店の上に住んでいたりすることもある。
この場合、店舗兼住宅となるが、目的が異なるため税金が発生する。別々に建物を所有するよりは安くなるので、大抵はこの形に収まる。
宿屋に関しては別の扱いになるが今はいいだろう。
要は拠点としている宿から、組合のある商人街に通わなければ依頼を見ることも出来ない。
軽くではあるが、住民でないものは区画を超えるために検問を受けなければならない。
以前は不審な行動さえしなければ止められることもなかったのだか、十二年前に起きた事件により街全体の警備が見直されることになった。
五年前には王座選定に対し反乱が起きるものの新女王主導により鎮圧、その後国全体での騎士団の再編もあり、このオオヅチの領主も変わった。
それからというものの犯罪率は以前に比べて減り、欲にまみれた権力者は淘汰され今では絶滅危惧種のようになっている。
この国に生まれ住むものはわずか五年での変化に戸惑いながらも、生活が良くなっていると実感している。
それはここオオヅチも例外ではない。
それ故、区画を渡る度に検問を受けようと不満を言うものは限りなく少ない。
検問自体すぐ終わることもだが、警邏隊の騎士に顔を覚えてもらえればいざと言う時に助かる確率が上がるのだ。
中には話し相手欲しさに検問を受けようとする老人もいるとか。
住民にのみ発行される住民票があれば、検問も受けることはほとんどない。
住民にとっての安心安全であると共に、外から来たものに取っては領都オオヅチに入り、区画を渡る度に信用度が上がるのだ。
悪いことはひとつとしてないような仕組みになっている。
たとえそれが巨大な組織が身元を保証する人物であっても。
ハヤト達は歓楽街から商人街に渡るため、検問を受けていた。
三人がバラバラの身分なので他よりは多少時間がかかってしまうのは、仕方がないことだろう。
方や騎士、方や組合員、方や異世界人。
それが冒険者パーティーとして検問を受けている。
騎士とは、騎士団や騎士隊に所属する国軍兼治安維持隊のことを指す。階級などを含めれば細かくなるが、騎士といえばれっきとした職業で、冒険者をやる必要が無い。仕事自体が冒険者のようなものなのでかけ持ちする意味が無いと言える。
組合員に関しては、冒険者から組合員になることはあっても、その逆は極めて珍しい。
異世界人に至っては数十年に一度とかそんなレベルである。
こんなのは、はいそうですかと通す訳にも行かない。
書類偽造や身元確認を徹底されるのは仕方の無いこと、多少別室でまたされることになるが四回目となればもう慣れた。
オオヅチに来た時、駅は商人街にあったのでそのまま組合へ。その後は職人街へ依頼をこなし、歓楽街の宿に向かうため商人街を経由し歓楽街へと向かった。
昨日だけで三度、今日で商人街と向かうので四度目。
検問を行うとはいえ、一方通行での出入りしか出来ないので、各検問場では調べられる。一度詳しく調べられればあとはその書類を照会するだけなので比較的早く通ることが出来る。
一定期間住むか、信用足ると判断されれば仮住民票が発行される。
ハヤト達はまだ検問時の情報が各検問場に無いので、暫くは不便ではある。
ハヤトの出で立ちが特殊であるがために時間はかかってしまう。
検問を無事終え、商人街にはいるのに三十分はかかってしまった。
「仕方がないこととはいえ、移動にこれだけ時間がかかるのはなぁ……。」
「仕方ないよ、異世界人だなんて嘘か本当か詳しく調べる必要があるからね。この国では各大領地はある程度の統治権を国から委任されてるから。横暴をしない限りは法律の審議権まであるらしいし。」
「つまりはどういうこと?」
「その気になれば法律を作ることが出来るって言えば早いかな。もちろん手順とかあるみたいだけど、変なものでなければだいたい許されるのよ。」
「法律を作れるって、そんな権限まで与えて大丈夫なの?」
「この話はダリアの方が詳しいんじゃない?」
「そうですね、騎士団にも関わりますので。事の発端は、五年前の王座選定における反乱が原因です。反乱自体は今の女王陛下が自ら近衛騎士団と共に動くことで鎮圧しました。それを機にこの国から膿を取り除くために独立したが組織が作られました。組織と言ってもわずか十一人しかいないのですが、実力的には一騎当千の猛者達。全員が騎士団の団長であることから騎士の中の騎士、十一騎士などと呼ばれています。彼らは能力はもちろん、人格を重視して集められたので反対意見は少なくそれなりの権限も与えられています。そのうちの一つが領地、ここオオヅチも十一騎士のひとりが治める大領地です。それ故に法律を作ることも可能なのです。」
「ちなみにドレアス騎士団長も十一騎士って知ってた?」
「えっ、ドールさんってそんなにすごい人なの!?確かに、騎士団長なのに領主って言うのは気になってたけど……。」
「言っておくけど、あの人はこの国では英雄的存在よ?前国王の時代からこの国に仕え、戦争の時には誰よりも先頭に立ち戦い続けた男。あの人に憧れて騎士になる人もかなり多いみたいだよ?そこのダリアみたいに」
「えっ!」
「意外……でしょうか。これでも英雄譚には憧れるのですよ?」
「一応ダリアって、貴族の家系よ?」
「ミリス、余計なことは言わないように。」
「はーい」
「ダリアって、貴族だったの!?」
「お恥ずかしながら、しかし今は貴族ではなくただの騎士です。それに、家は姉が継いだので私の役目はもう無いのです。」
「そうだったんだ、僕ってダリアのこと知らないことばっかたなあ。」
「ダリアがあまり喋りたがらないからねー。」
「私はあくまで護衛です。それ以上でも、それ以下でも……」
「あるわよ、あなたはもう少し周りを見なさい。ハヤトくんだって、誰とも知らない人よりも、どんな人か知ってる人の方がいいでしょ?」
「まぁ、それはそうですけど。あまり話したがらないことを無理やり聞くのはちょっと……。」
「分かってないのかとぼけてるのか……、ビジネスライクもいいけど私たちはパーティーメンバーなのよ?ハヤトくんとダリアが信用し合って、そのダリアと私が昔からの知り合いだから成り立っているだけで、普通ならギスギスして旅なんて出来ないわよ?」
「それは……」
「無造作に踏み込むのはダメだけど、これは必要なことよ?特にハヤトくんは異世界人なんだから、この世界にどれだけ信用信頼できる人を増やせるか、とても大切なことよ?これからの人生、異世界人ってだけで厄介事に巻き込まれたり、巻き込んだりすることもあるんだから、ちゃんと自覚しなきゃダメよ?」
「はい……」
「はい、だから組合に着いたら部屋を借りて話し合うわよ。いいわね?ダリア」
「……致し方ありません。私とていつまでも隠し通せるものでは無いと思っていたので。」
「という訳でいいわよね、リーダー?」
「ミリスさんの言う通りにするよ。」
「はい、任されました。」
年の功と言うのか、経験者だからかミリスの言ったことは否定する要素はない。
元冒険者として、現組合員だからこそ言えることがある。実体験だけでなく、他者をよく見ることが出来る立場上、似たようなことで依頼を失敗したパーティーを何度も見てきた。
パーティーメンバーとは、言わば家族のようなものだ。互いに知り、信頼し、背中を預けられる存在。
それがパーティーとして上手くやっていくためには、必要不可欠なことだ。