カイト・オオヅチ・アズクール
今話はかなり短いです、一瞬です。
ですが、わざわざ一話にしたのは……皆まで言うまい。
ハヤトたちが訪れた日の夜。
まだ五歳の子供を寝かせた二人は、一枚の手紙を読んでいた。
テーブルには袋に入っていた金属のインゴットが丁寧に置かれており、魔術具の明かりに照らされ仄かに光を反射している。
このインゴットになっている金属の名は、エルミリーナ金属。
エルミリーナ金属は鉱石から取れるものでは無い。
そもそもオオヅチであるカイトですら聞いたことも無い金属だ。
だが、その金属が意味することは自然と分かる。
手紙にはこの金属がどのようなものかと、使い道に関しての記述が半分であった。
手紙曰く、この金属のインゴットはエルミリーナという金属である。
この金属の正体を何者にも知られてはならない。
このインゴットを使い、最高の一振を打って欲しい。
この金属は魔力を帯び、魔素との親和性が高いこと。
常に魔力を流し込みながらでなければ加工は難しく、インゴットを溶かすことすら困難であること。
ざっくり言えばこんなものである。
手紙にはもっと詳しく書かれてはいるが、ここでは関係ないので割愛する。
要は加工が難しい金属で剣を作って欲しいと。
また、素材に関しては秘匿しなければならないこと。
オオヅチとして、見たことも聞いたことも無い金属での依頼はやる気が漲ってくる。職人魂に火がつかないのは有り得ない。
しかし、カイトとしては少し複雑な気持ちになっていた。
妻であるミナもまた、同じ気持ちである。
二人はテーブルの下でぎゅっと手を握り、震える手で静かに涙を拭っている。
僅かに聞こえるすすり泣き、魔術具の光を受け意味ありげに光るインゴット。
今作でこの伏線が回収されるかどうかは、未来の千寿のみが知ります。